#13 「屋上に来なさい、話があるわ」
「先生、教科書忘れたので隣の人に見せてもらってもいいですか?」
了承を得ると、伊沼は自分の机を俺のとぴったりにくっつけてくる。
授業中の一件から、伊沼の行動は大胆になった。
通学中は手を繋ぎたがるし、図書室での日課にも伊沼はついてくるようになった。
まるで、本当に俺と恋仲になったみたいに。
「(なぁ伊沼、お前本気か?)」
教室最後尾の一角で、俺は伊沼に真意を問おうとする。
「(何がよ)」
「(俺と恋人だって言われてんだぞ? こんなことしたら、ますます噂に信憑性が増すだろ)」
「(私は全然構わないわよ)」
発言の通り、伊沼は意に介していない様子だ。それどころか、こうして誤解を強める行動ばかりしているように思える。
伊沼が何を意図しているのか、俺は掴めずにいた。
「(あの先輩の耳に入るのが心配?)」
「(……まぁな)」
その懸念がないといったら嘘になる。だが、それはそれ。今の俺の関心事は、どうして伊沼が乗り気に見えるのかだ。
普通に考えて、ただのクラスメイトと恋仲だと噂を立てられたら、誰だってすぐに否定するはず。誤解だ、彼とはそんな関係じゃないと。そうしてしばらく距離を置いて、ほとぼりが冷めるのを待つものだ。
しかし、伊沼は否定するどころか以前より積極的に俺に迫ってくる。契約関係だからだとしても、度が過ぎているとしか思えなかった。
「(ひょっとして伊沼って、俺のことが好きなのか?)」
「はぁ?!」
あまりに突飛な発想だからか、咄嗟に口に出してしまう。
「あ、あんたのこと……は、好き――」
「悪い、俺の勘違いだ。今のは忘れてくれ」
答えは聞くまでもない。俺と伊沼はあくまで契約関係、そこに恋愛感情が発生するわけはなかった。
「そこ、静かにしたまえ」
「すみません」
ずいぶんと盛り上がってしまったらしい。
何か伊沼の言葉を遮ってしまった気もするが、今は授業に集中するとしよう。拓斗は相変わらず沈んだままだから、俺のノート担当はしばらく続きそうだ。
序盤に教科書忘れがあったものの、それ以来伊沼からの攻めは収まった。
と思って安堵していたのも束の間、靴箱の中に手紙が入っていることに気付く。
「……これは?」
差し出し人は不明。中にあったのは一通の便箋だけだった。
「えーっと……『屋上に来なさい、話があるわ』」
末尾に書かれた名前は、伊沼璃々。あいつ、放課後すぐに姿を消したと思ったら、手紙なんか残してどういうつもりだ?
俺は下駄箱を閉じ、行き先をあらためて屋上へ足を向ける。
話なら家ですればいい。それなのに、伊沼はわざわざ屋上を指示してきた。手紙にあった”話”というのが、家ではできないと察するには十分すぎる情報だった。
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