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Prologue: “a man can die but once”

――“a man can die but once”


 人間は一度しか死ぬことが出来ない。

 これは異世界の偉大なる劇作家が残した言葉らしい。「地球」という世界から転生した者によって伝わり、広まったようだ。

 しかし、この世界では少々異質な広まり方をした。少なくとも、「地球」とは絶対に異なる解釈がなされたのは間違いない。

 人々はこの言葉を聞いて、こう考えた。

 「一度しか死ぬことが出来ないなんて、()()()()()()()()()()()()()」と。

 この世界は「地球」とは異なる。だって、「死」が「終わり」ではない世界なのだから。


『私の()()は○○○○!あのメテオ文学賞を受賞した○○○○です!また、遡る事6つ前には△△△△として祖国を護り抜きました!この□□□□、必ずや国民の皆様のお役に立って見せます!清き一票をどうか!』


 議員が街頭演説をしている声が、魔導機で拡声されて聞こえてくる。

 自分の前世は有名な誰々だったから信用して投票してくれと、そういう事を言っているようだ。

 …というか、それしか言っていない。今は前世の自分が何をしたのかを誇らしげに語っている。政策は二の次三の次。どんな政策を掲げるかではなく、どんな前世だったかの方が重要らしい。

 実際問題、前世自慢をすれば票は簡単に集まる。見事な前世を持っている人に限る、との注釈は付くけれど。

 これは全く珍しい事ではない。他の候補者も言ってる。この国だけではなく、外国の議員も。みんな同じことを言って票を集めているはずだ。

 ここは、それが当たり前の世界だから。


()()()()に引き継げる「たましい保険」!これなら()()()()()()()()()()ですね!』


 空中に浮遊する大型ビジョンからCMの声が聞こえてくる。

 起用された芸能人の口調は溌溂として明るい。笑顔で「死」を語っている。


『人生のスタートダッシュ。()()()()()()資産運用、始めてみませんか?』


 次のCMは、今の人生で稼いだお金を来世に持ち越そうと言っているようだ。

 そう。この世界の人間は死して尚、続いて行く。


「まじさー、()()ショボすぎて萎えるわー」

「わかるわー。俺も就職に有利な()()とか欲しかったなー」

「マジそれなー。例えばどんな()()が良かったとかあるん?」

「あー、急に言われると悩むなー……。あ!滅魔王とか格好良くね?」

「ぅあははは!マジかウケる!よりによって滅魔王は無いわー!てか、就職とかから一番遠い所にいんだろ!」

「確かに!即決でお断りされそう!」


 俺より少し年上、大学生くらいの青年2人の会話が聞こえてくる。

 チャラついていて軽薄そうなモブ2人も、前世の記憶を有して生まれた「転生者」。

 この世界の人間は、100%転生者である。誰もが、前世の記憶を持って生まれるのだ。

 少なくとも。今の主流の学説、人々が信じる常識はそうなっている。


 だが、俺は知っている。

 ()()100%であることを。

 何故ならば。

 俺、「ライフ・L(リミテッド)・レーヴェン」に()()()()()()()()()()()()()()



◇◇◇



 輪廻転生。魂は流転している。

 肉体が滅びようとも魂は滅びず、次なる肉体へと宿っていく。

 その際に、記憶もまた引き継がれるのだ。

 そのため、この世界の(俺以外の)人間はだいたい6歳~10歳の時期に前世の記憶を思い出す。

 もっとも、実感を伴って思い出せるのは()()()()()()()()()()()、だ。

 それより前になると、遡れば遡る程に曖昧な記憶になる。2つ前の人生の記憶さえ、十数年前に一度だけ読んだ伝記の内容…程度に思い出せればマシな方だ。

 これは、肉体の「脳」の限界が原因と考えられている。

 魂は全ての記憶を鮮明に覚えていても、肉体の1器官たる脳が記憶できる内容には限界がある、とする学説だ。

 この説を裏付けるのが「跳躍者(スキッパー)」の存在である。

 2つ前の人生の記憶を明瞭に保持しているが、1つ前の記憶は全く覚えていない人々を指し、スキッパーの魂は前世で早死にしていることが殆どだ。前世の記憶が極少量だったから脳に余裕があり、その分1つ前の記憶を思い出せるのだ、と考えられている。

 ちなみに、連続で早死にした魂を持って生まれた結果、遥かな昔の記憶を思い出せるスキッパーも存在するという。これは専門用語で「幸運の化石(ラッキー・フォシル)」と呼ばれている。

 まぁ、要するに。基本的には、人間は1つ前の人生の記憶を引き継いで産まれてくるということさえ理解できれば十分だ。

 もっとも、何事にも例外はある。スキッパーでも無いのに2つ前、3つ前と複数の記憶を思い出せる者もいるのだ。数億人に1人いるかいないか程度の少数ではあるが、確かに存在している。「読む者(レクト)」と呼ばれる彼らは、遥かな昔から今に至るまで特別な存在として扱われてきた。


 そんな中で、全く前世の記憶を持っていない者は何と呼ばれているだろうか。

 答えは、「()()()()()」だ。

 前世の記憶を持たない者が存在しないため、それを指す言葉もまた存在しない。あくまでも、学術用語・専門用語としては、だが。

 一応、「蝋燭人(キャンドラー)」という呼称が存在している。100年程前に活躍した偉大なる文豪「モメント・L(リミット)・メテオ」が、小説の中で「前世の記憶を持たない者」という概念を扱い、その時の名称が「キャンドラー」だったことに由来している単語だ。

 …今はネット上のスラングとして扱われているが。「前世の記憶を持たない」=「無知」と解釈し、「無知」「馬鹿」「世間知らず」などの意味で相手を貶す時に用いられる言葉だ。


 そんな世界に、前世無しとして生まれ落ちた俺はどうすればいいのだろうか?

 6歳になっても、10歳になっても前世の記憶を思い出すことが無かった俺に出来ることは――


「なぁ、ライフ。お前の前世って何なんだ?」

()()()()

「はぁ!?」


 ――()()()()()()()()()


 これは、前世の記憶が当たり前の世界で、前世を偽った男の物語である。



閲覧ありがとうございました。

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