優しい彼女は愛し、愛され、幸せになる
「セレナ……」
「セレナ……」
「セレナ……」
私がお腹から出てきて1番最初に聞いてそれから約25年間1番聞いてきたであろう声が私の胸の奥に響く。
「お母さん……どうしたの?」
私が咄嗟に反応する。
その声の音源を見ると私の視線はベッドに辿り着く。
私が素敵な運び屋さんと出会って、泣いて、泣いて、泣きまくったあの日から約2ヶ月が経った。
そしてお母さんの命の限界が近づいてきていた。
2ヶ月。
人生において2ヶ月なんて短すぎる。
でも私とお母さんの物語の2ヶ月はとても濃かった。
「セレナ……あなたが私のために薬を買いに行こうと無邪気に出ていったあの日、私はとても嬉しかった。あぁ……私優しい子を育てられたなって。私はちゃんと子供を育てたって……そうね、あっちへ行ったらちゃんとあの人に報告しておくわ。立派な子供が2人、幸せに暮らしてるって……」
お母さんが急に遺言のようなことを言い出した。
こんなの2ヶ月前の私なら止めてる。
けど今の私だからしっかり涙を流して聞ける。
私は涙を流しながらうなづく。
「セレナ……私はあなたのような子供と暮らせてとても幸せだった……あなたは?」
「幸せだよ……とっても幸せだよ!」
「良かった……それだけで本当によかった。でもあなたはこれからもっと幸せになれる。母に世話され、父に怒られる幸せなんかを超える、自分が世話して、夫が怒る。そんな幸せがあなたに必ずやってくる。その時は私たちのことを思い出すのはたまにでいいからね? そのあとあなたはお婆ちゃんになる。そうね……ここから先は私の知らない幸せね。あなたが長生きして天国に来たら……私にいっぱい話をして?」
「うん……たくさん……話すよ? お母さんが飽きるくらいに……いっぱい……」
「楽しみにしてるわ……最後に1つ……あなたを愛してる。あの人が愛し足りなかった分まで……愛してる……天国に行っても2人で愛してる……あなたは……愛されてる」
「ありがとう……お母さん……」
お母さんはゆっくり目を閉じる。
笑顔で……
幸せそうに……
お母さんがこの目をもう1度開けることは無かった。
幸せを見つけていこう。
人によって幸せは違うから、私なりの幸せを見つけよう。
私の幸せは……
人の幸せを知ってみたいわね。
私は動き始めた。
目的は……
「そうね……運び屋のお手伝いでもやろうかしら」
私はミレイという男を探しに村を出た。