優しい彼女は誰もいない所で涙を流す
彼女は母の説得によって母の残りの時間の少なさを認め、その時間を大切にする決断をした。
「ミレイさん……聞いてたんですね」
背後にセレナがいた。
「ごめんなさい、偶然耳に入ってしまって……」
「いいや……大丈夫です」
セレナは暗い顔をしている。
当たり前だ。
セレナが母を長生きさせるために情報なしに各地を回ると言う選択、セレナが母の残りの人生の短さを認め、その時間を大切にすると言う選択。どちらをとっても『母とセレナ』という物語においてバッドエンドは確定しているから。
「セレナさん……私は2日でこの街を出ます。その2日間で私にできることはありますか?」
「いいや……特にないです。あなたにまで迷惑をかけたくないですし、それにこれは私たちのことなので……」
でも……
本当に放っておいていいのだろうか……
このままじゃ彼女がどうにかなってしまう気がする。
「私は今日の料理で使うキノコを取りに行きます。1人じゃ寂しいのでついて来てくれませんか?」
とセレナから言ってきた。
「はい! 喜んで!」
街を歩いているとキノコが生えている。
それをセレナがぶちぶち抜いていく。
「セレナさん……すごい勢いですね……」
「そうですか?」
とセレナがこちらを見る。
こちらを見ているその瞬間もセレナの手はキノコを抜き続けている。
「んじゃあ、俺も抜くぞ〜」
俺はキノコを抜いた。
そしてその抜いたキノコを鼻にくっつけた。
「誰がアリクイだ!」
と自分で言った。
……
……
……
「そういえばミレイさんはなぜ運び屋になろうと思ったんですか?」
「俺は転生者です」
と俺が言うとセレナはとても驚いた。
あれ?
転生者とこの世界生まれ育った人の割合は半分半分じゃなかったのか?
「ここは一緒に来た通りすごいわかりにくいから……他の世界からやってきた転生者には見つけられにくいんです……だから私見るの初めてで……」
「そうですか、俺前の世界では恵まれなくて……すごく不幸だったんです。10歳の頃に不幸が訪れてそれ以降幸せなんてものはなかった。でも子供の頃幸せを体験していた。俺は幸せを一人で味わいたくなかったから。人と幸せを共有したかったんです」
と言うと、セレナが、
「幸せのお裾分けですね」
と言った。
そしてそんな話をして俺がカルマと一緒にご飯を食べて、セレナの家の様子を見に行った。
その時セレナは家の玄関で座り込んで涙を流していた。
「セレナさん! 大丈夫ですか!」
俺が駆けつけると、セレナはこちらを見た。
「お母さん……もうろくに会話もできてないの、2秒前に言ったことを忘れて……私っ……お母さん見るの辛くてっ……それでもお母さんの前で泣かなくてっ……お母さんはもう……私たちのことも忘れちゃうのかなっ……お母さんはもうっ」
セレナが言おうとしたことを察して、俺は、
「セレナさん! 大丈夫です。きっと……あなたは1人じゃない……」
と言ってセレナの肩に触れた。