優しい彼女は親を大切にする
俺はセレナと別れた後、カルマを木に結び付けて街を回ることにした。
たしかにお店などはあまり無いが、カカオのようなものが沢山栽培されている。
するとセレナが家に入っていったのが見えた。
セレナの家に近づいてみる。
ツリーハウスで木の香りがするお洒落な家だ。
「何が!? 何で私の許可も取らずに生きること諦めてんの!?」
セレナの声だ。
もう少し近づいて話を聞こうとする。
ベットに寝転がるセレナのお母さんらしき人を囲んで、セレナともう1人男がいた。
「姉ちゃん、もう認めなよ。お母さんも分かってる通りお母さんの病気は治らないんだよ」
セレナに向かって男の人が言ったので、弟らしい。
「この世に治らない病気なんてあるはずないじゃない! なんでアンタが勝手に諦めてるのよ!」
俺が知る穏やかな彼女とは真反対に、暗い表情で怒鳴る彼女がいた。
「いい加減にしろよ! じゃあ姉ちゃんは何買ってきたんだよ!!」
弟がそう尋ねる。
それは俺も疑問に思っていた。
彼女は俺に親の薬を買ったと言った。
しかし彼女は手ぶらだった。
「なぁ姉ちゃん! あんたはなんと言う名前の病気の薬を探した? どこで! なんて言う病院の薬を買おうとした!?」
セレナは黙り込む。
「買って……ない……」
セレナは少し間を空けてそう答えた。
やっぱり買ってなかったんだ。
「で、でもっ! きっと、きっと! 母さんが助かる道はある!」
セレナは弟に訴える。
「ないんだよ! 姉ちゃんが今大事にするべき事はなんだ! 倒れているお母さんを放って、情報なしに遠く離れた街に薬を探しに行くことか!? お母さんとの時間を捨てて薬を探しに行くことが!? いい加減目覚ませ!」
弟がこう言うとセレナは黙り込んでうなずいた。
するとお母さんが話し出す。
「そんな喧嘩を私の前でしないで、2人とも……。ゴホッ」
「お母さん! だめだ! あんまり喋っちゃっ! 体弱ってるんだから!」
弟がそう言う。
「少しだけ……セレナ、あなたが私との時間を少しでも多くしたいと思っているのは凄くありがたいし、嬉しい。でもね? 私が抱えてる病気は病名がない、それに治らない。だからね、あなたには私との残りの時間を大切にしてほしい。薬を買う時間なんかいらない。弟と喧嘩する時間なんていらない。ただあなたが私を見る時間、私があなたの笑顔を見る時間を……私にちょうだい?」
セレナは泣きながらうなづいた。
あの頃の俺と同じだ。
幸せだけは一丁前にお裾分けするくせに……
この世で不幸はお裾分けできない。