彼は幸せになるために人の幸せを運ぶ
俺は世界を旅したい。
誰かを殺したいとか全く関係なく自由に生きたい。
誰かと幸せを共有したい。
この街の名前はヴィスカウ。
都会という訳ではないが、田舎でもない。
「はいよはいよ! 買ってきな〜! 山の上流で取れた魚の串焼きだよ!」
と声が聞こえる。
「グゥー」とお腹がなる。
「やっべ、金はあるのか?」
この世界で俺は0円から始めなければならない。
俺は山に走る。
「いたぞ! 鹿にイノシシ! お前らを狩る!」
動物の肉を売るのが1番早いと思った。
復讐のために生きてきた。
空手、柔道、剣道と絶対に殺人鬼に負けないための訓練はこなしてきた。
「あちょー!」
イノシシに渾身の一撃。
効果は抜群だ。
そして苦戦したが5時間後、イノシシ1匹、鹿2匹、カブトムシ10匹を捕まえた。
それを街で売ると、
カブトムシは1500円、イノシシは50000円、鹿は50000円で売れた。
「おっちゃん! 魚の串焼き1つくれ!」
「はいよ!」
魚の串焼きを頂く。
ホクホクとした白身に少し塩の味。
美味しい。
街の外れに草原があった。
「ふぅ……空気が美味しい!」
かなりの声量で好きだった歌を口ずさむ。
すると1匹の馬が寄ってきた。
「なんだなんだ? 食べ物はないぞ〜?」
人を殺すしか興味のなかった俺が動物を可愛がっている。
そんな自分に驚きながらも馬と戯れる。
そしてその時、この世界で生きていくための術を見つけた。
馬に紐をつけて完璧に乗りこなした。
「やるなぁ! そうだな? お前の名前は……」
自分から笑顔が消える。
急にあの時のことを思い出してしまった。
自分は人を可愛がったことがなかった訳ではない。
「あーあ、生意気だったなぁ、そうだ! おい馬! お前は名前はカルマだ!」
馬はクリッとした瞳でこちらを見つめた。
その後小屋のような建物を作ってもらい、タイヤをつけて、馬に結んだ。
そう、俺は人を乗せる馬車として世界を旅したいと思った。
どこまででも人を運びたい。
「カルマ! 出発進行だ!」
まずは隣町に向かうことにした。
試運転は完璧、人を乗せてもまぁ大丈夫だろう。
新たな街、カロットミンで、
「3キロ200円! どこへでも!」
と看板をつけて、人を待った。
約1日、そこに止まっていると、自分の少し下くらいの美人な女性が寄ってきた。
「ツミランダまでお願いします」
「了解!」
前世に比べたら地味な人生かもしれない。
壮絶なことはやらない、穏やかに暮らすだけ。
穏やかに走るだけ、そう思っていた。
ただ、この世界でも壮絶な人生を送ることになることをまだ、知る由もなかった。