止まった彼の足は異世界にて動き始める
「ようやくだ……ようやくアンタに会えたよ、こんな幸せそうに暮らして、楽しいかい?」
笑顔がない、感情がないかのような顔をする彼は右手にナイフを持ちこう尋ねた。
彼の前には尻餅をついた一人の中年男性がいた。
「15年もかかった……15年前! アンタは何をした」
と彼は尋ねた。
男性は、
「何のことだ!? 身に覚えがない! やめてくれ!」
と必死に命乞いをした。
その直後に男性の顔が真っ青になる。
「気づいたかい? そうだよ……」
彼はナイフを男性の心臓に突き刺した。
男性の意識はどんどん薄くなり、最後に彼に向かってこう言った。
「君には申し訳ないと思っている。でもこっちだって……君ともっと話す時間があれば……」
男性の息の根は絶えた。
この瞬間、彼……山吹ミレイの復讐は完全に終了した。
ミレイは15年前、10歳の時、目の前で両親、姉、弟をこの男性によって殺された。
この家庭は大金持ちでもなければ貧乏でもない平凡な家庭だったが、誰がどう見ても幸せな家庭であった。
それを奪った男性は山吹ミレイの復讐のターゲットとなった。
「僕の人生も終わりだよ……やっとみんなに会える……次生まれ変わって人生を送れるなら、もう一度幸せに暮らしたいな」
ミレイはこう口にした。
『続いてのニュースです。○○県☆☆市の住宅で男性の安藤忠さんが殺人され、死体が見つかりました。また、犯人であると見られている山吹ミレイ容疑者はその場で首を吊り、死体が見つかりました。安藤忠さんと山吹容疑者の関係性は今後も調査を続けるとのことです』
今頃こんなニュースが流れているだろう。
僕は真っ白な世界に閉じ込められている。
「天国って思ったより面白くないんだなぁ。いや……俺は殺人鬼だ。ひょっとして……地獄!? 永遠にひとりぼっちで退屈地獄!? 最悪だ……」
するとどこかから声が聞こえてくる。
「山吹ミレイ! あなたは最後に未練を残しましたね? 人生に未練を残しましたね? そんなあなたにはもう一度チャンスをあげましょう。あなたを別世界に転移します。」
女神様のような美声がどこかから聞こえてくる。
「別世界だと? あ? ここか? こんなとこじゃチャンスどこの話じゃねーよ!」
「違います! もっと素敵な世界にあなたを転移します」
「何ぃ?」
半信半疑で女神の声を聞くことにした。
「あなたが転移する世界は半分のその世界の人間、半分の転生者からなっています。あなた方がいた地球に比べたら発展は進んではいませんが、素敵な街があり、都会もあり、何でもありです。あなたが残した未練をこの世界でなくしてきてください」
「分かったよ」
どうせデタラメだ!
目を瞑ってもう一度目を開くと別の世界にいた。
中世ヨーロッパのようなお洒落な街にいた。
ゲッ……ガチだ。
俺は数分後、現実を受け止めた。
そして歩き出した。
この世界で俺は、
「僕の将来の夢は!」とか「〜になりたい!」だとかわ、長くは語らない。
でも前世で出来なかった幸せな暮らしをしたい。
大切な人と出会って、その人とたまにはHなこともして、子供を産んで、子供と幸せな日々を過ごして。
それができなかった。
復讐にしか気が向かなかったから。
復讐に染まった真っ黒な瞳が希望に満ち溢れた輝く瞳に変わり、異世界という場所で彼はまた……
歩き始めた。