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第八話 これ外に出したら駄目なやつでしょ

 その後諸侯との間でもう一度軍議を開いたあと、朝の予定通り昼過ぎに、姉上たちが出立。


 ミルトン家が馬車を用意し、中に姉上とマクセルとミルトン家の侍女のシエラ。あとはサーマック公から、ブーリエンという騎士が一人、スタウフェン侯から、ダリスという騎士が一人派遣されている。


 どちらも30歳くらいの騎士たちはとりあえずは姉上に礼儀正しく従ってるけど、護衛というより監視役っぽい感じがする。エルシィさんを特に警戒してるがまあ当たり前か。さらには、陣営が違うせいかお互いに観察しあってる感がある。しかたないか、この状況では。


 アンセムとブーリエンが馬で馬車の前を、エルシィさんとダリスがやはり馬で後ろを固め、まずはファディオン伯領に向かう。何事もなければ、夜までには着くはずだが……。


 馬車に同乗しているシエラは本来は私の侍女のうちの一人。年は21だったか。侍女の中では護身術に長けているほうということでの選択だろう。どうも事情についてはお義父様に聞いているようだ。かなり複雑な視線を感じる。


 ついでに、エルシィさんの使い魔の猫が姉上の隣にいた。イーシャという名前らしい、使い魔は緊急連絡経路にしやすいので、少し離れるときには有効だ。猫いいなー飼いたかったー。


 馬車が進み初めてからしばらくして、姉上が小声でぽつりと呟いた。


「ヨーゼル殿は別として、マクセル殿には、伝えておく必要があることがあります」

「なんでしょうか」

「少し、待ってくださいね」


 呪文詠唱。遮音結界の魔術か。うーん、それだと襲撃の察知は……まあエルシィさんがいれば大丈夫か。御者のフレディや他の面子に聞かれたくないということであれば……。


「最初に、マクセル殿が私に対しておっしゃったことについてです」


 ああ、やっぱり言っちゃうんだ。


「あれは失礼いたしました、正直私としてもまだ受け止めきれないところがあり……」

「いえ。あれは、半分は合っています」

「はい? ……半分、とは?」

「今の私のこの体は、本来あの子のものだということです」

「………」


 シエラが唇を噛む。ごめんね……あなたにとっても納得いかないこと多いでしょうしね。


「……どういうことでしょうか」


 絞り出すような声。マクセルもびっくりするよね。


「ラグナディア王家には、ある秘術が伝わっておりました。それは簡単にいえば、双子である場合に限り、命を取り替えることができる、というもの」

「命を、取り替える……?」

「片方が死んだ場合に、もう片方の命を代償に、生き返るというものです……そして今回の場合、その優先権が、妹でなく、私のほうにあったのです。ラファが死んでも私はそのままですが、私が死んだなら……あの子が代わりとなる」


「それは……王太子であったから、ですか」

「そうですね……。過去にも王家に双子が産まれたことはありましたが、この秘術が実際に発動した例はなかったと聞いています。他にもいくつか、条件はあるのです」


「今回は、偶然それらも満たされた状態で、私は叛乱軍に殺されました。そして……死んだはずなのに、気がつくとこの体で、妹の体で、私として目覚めてしまったのです」

「……その術についてラファリアは……知っていたのですか?」


 はい、一応聞いてましたよー。まさかほんとにこうなるとは思ってなかったですけど。


「この術はお互いの体に聖痕を刻む必要があります。私たちの7つの誕生日のときに、術について説明は受け、聖痕を刻まれました。あの時点では、どちらが王太子になるか決まっていませんでしたが……。あれから、8年。正直私もこうなるまでは、忘れていました。あの子が覚えていたかどうかは、分かりません」


 姉上は左腕の腕輪をとって、聖痕を露わにする。


「ああ、それがその術のだったのですね…」

「見たことがありますか」

「いえ。いつもどんな服装でも腕輪をつけているので、どうしてかと問うたことがあります。ラファリアは、『これは姉上との絆の証なの』と言っていました。確かに、オルフィリア様も同じように腕輪をつけておられましたので、腕輪が何か思い出の品であるのかと思っておりましたが……そういうことであれば、覚えていたものと思います」


 そういえばそうだった。我ながら少し恥ずかしい答え方をしたものだ。


「ああ……。父と私が油断しなければ、もっと早くに気づいていれば、私がラファを殺してしまうことなど……」


 いやあんなの予知能力でもなけりゃ無理ですって姉上。マクセルは首を振って(さと)す。


「オルフィリア様のせいではありますまい…。つまりは、お二人とも叛乱軍に害され、偶然オルフィリア様だけが生き残った、ということと、同じでしょう……」

「それでも、私はラファに……」


 ここで、シエラが口を開いた。


「オルフィリア様。ラファリア様は、いつも、誰よりも、オルフィリア様を心配しておられました。今回はいきなりの話であったとしても、もし、ご自分の命でオルフィリア様を助けられると事前に分かっていたなら、おそらく、あの方はそれでもそれを選んだ、そういう方であったと思います」

「ああ、わかります。確かにラファリアはそういう子だった……」


 うーん二人して、私そんなに自己犠牲的な女だったっけ? どうだろう。うーん……他はともかくオルフィを救うためなら構わないけどさあ、できれば私だって避けたかったよそんなの。


「ですが……」

「どうか、ラファリア様に対して申し訳ないなどとは言わないで下さい。どうかご自愛ください……その命は……」

「……すみません、ええ。あの子からの命、決して無駄にするつもりはありません」

「オルフィリア様。このことをご存じなのは、どれくらいの方々ですか」


「ミルトン公ご夫妻。そしてラファリア付の侍女であった、そこのシエラとクリステラ、そして新たにマクセル殿、この五人ですね。サーマック公やスタウフェン侯にはお伝えしておりませんが……あの方々であれば、何か掴んでいてもおかしくはありません。ただ、あの方々は実利を重視される性格。疑問があったとしても、私が旗頭として有用な限りは、公式の見解を尊重してくださるでしょう」


 サーマック公はそういうところあると思うけど、スタウフェン侯はどうかなあ、あの人はわりと激情家よ姉上。事実を知ったら先陣切って突撃しかねないのでは。ことに姉上の死に様知ったら……。


「そういうことであれば。オルフィリア様は、叛乱軍について、諸侯が知らない情報をお持ちなのではないですか。叛乱がどのように始まったか、敵がどういう者であるか、ということについてです。兄と私も情報を集めておりましたが、正直不明な点が多すぎます」

「ええ。ミルトン公にはお話しておりますが、現時点ではどのように入手した情報であるのかを説明できないため、軍議の場には、一部しか出せておりません」


「宜しければ、お聞かせください。秘術については、兄にも言うわけにはいかない話と思いますが、敵に関する情報については、伝えられることは伝えたく思います。何か有効な策を打てるかもしれません」

「そうですね。私の目で見た限りではわけの分からない点も多いのですが、その後エルシィ殿に補足して頂いたこともありますので、それも交えてお伝えいたしましょう」


 そうして姉上が説明する。叛乱軍の首魁、ガルザスがメルキスタンの使節の中にいたこと、突然の異能の発動と、父上への自害の指示、そして何故か姉上には効きが悪かったこと。


 効きが悪かったため王家の秘密を話さなかったところ、激怒したガルザスに殺されたことなど……。……アレの事とか拷問のこととかは言わない、か。そりゃそうだよね。


「自害すら強制できるとは、なんという恐るべき力……」

「エルシィ殿によれば、敵の異能は【奪魄】と呼ばれるもので、魅了と支配の複合の能力なのだそうです。そしてこれは魔術ではない遥か古の力であると。そしてガルザスの遥かな祖先……つまりは、我が王家の遥かな祖先でもあるのでしょうが、その方がその力を持っており、何らかの理由で子孫にそれが目覚めたものであろうと言いました」


「そして、私に効きが悪かったのは、同じ血を引くことで若干の耐性があることと、私の魔術の素質が父より高かったこと、さらにこの秘術……双生の契約もあったことで、妹も含めて二人分の耐性があったからでは、とのことです」


  「え? そうだったんですか?」

  「言われてみれば確かにそれも理由であるかもしれん、未覚醒の霊威による霊鎧よりはその要素のほうが大きいか……こちらのほうが、向こうよりも、だしの」ちらり


 ? なんだろう


「どうすれば操られてしまうかは、分かっているのですか?」

「エルシィ殿によれば、奴が直接その目で、操りたいと意図して相手を見つめ、その後何からの命令を下すことだそうですね」

「見られるだけで、ですか。厳しいですね……例えば全身に鎧をすっぽり纏っていれば大丈夫ということはないのでしょうか?」


「服や鎧程度では無理であろう、とのことです。話し声が通らないくらいの壁程度は必要なのではないかと。そこでその指輪ですが、精神を安定させる方向での防御に加え、奴の目を欺き偽の情報を与えることで、異能を発動を防ぐ、というものでもあるそうです」

「指輪無しに魔術でそれができると、少し手が増えるのですが…」

「エルシィ殿に理論を伺いましたが、正直難しく……私では、魔導具の補助無しでは、呪文詠唱に40セグ(約60秒)はかかりそうでした。それでいて、その数倍しか維持できそうにありません。……新たに専用の魔導具を開発する時間はないでしょうし」 

「御身でそれですか……では普通には無理ですね」


 うーん、姉上って魔法理論はいつも主席だったもんね。まだ学生であるとはいえ、天才扱いで既に魔導師の仮免ももっている姉上よりもそういう意味で優れた魔術師って、国全体でも50人もいたかどうか。


 そしてその大半は宮廷魔術師か、王立学園にいたはずである。そして西方諸侯お抱えの人等は殆ど理屈より実践の人ばかり。つまり今は期待できない。


「同時に操りうる人数には上限があるはずとのことでしたが、どうも1000や2000ではなさそうなのです。こちらには期待できないと思います」

「仕方ありません……しばらくはこの指輪に頼らさせて頂きますね。ですが直接本人に見られなければよい、というのは不幸中の幸い。本人の動向が最大の問題ということですね。……本人以外で注意すべき敵に心あたりは?」


「操られているとして、中央軍のロダン将軍と騎士は脅威でしょうね。あとは…」

「中央軍などの本来の味方につきましては、私もある程度は存じておりますので、おそらく敢えてご指摘されなくとも大丈夫です。メルキスタンなどはどうなのでしょうか。叛乱軍にはメルキスタン兵がいたと報告を受けています」

「メルキスタンについては、交渉の使節であったアヴダヴィル侯のご一行とその護衛が、そのまま叛乱軍に加わっているようですが、それ以上については今のところ確認できていませんね」


「チェン辺境伯からは国境の街道が向こう側で封鎖され、使者も追い返されているとの報告は来ていますが、兵による侵攻の気配はまだないそうです。あと注意を要すると思われるのは、ガルザスの側近と思われる3人と、傭兵です」

「側近ですか」

「ヤーナルという名の剣士らしき男と、あとは灰色のローブ姿の魔導師らしき男と、栗毛の髪の、やはり魔導師らしき女。この3人が、初日から、操られたのでなく彼に自ら従っているような様子であり、側近であろうと思います。その後増えたかどうかは分かりませんね…」


「あと、傭兵とは?」

「ガルザスは傭兵を多数雇っていたようです。もしかしたら側近らも元傭兵なのかもしれません。数としては少なくとも300以上。予め我が国に、普通の民にまぎれて送り込まれており叛乱発生と同時にガルザスの指示に従って蜂起したものと思われます」


「傭兵については、私の記憶よりも後からわかったことが多いため、むしろサーマック公のほうが詳しいでしょうが、特に、『黒蟻団』という傭兵団が混じっており、これが問題であろうとのことでした」

「聞いたことがありますね、ラベンドラ王国の元将軍だった者が率いている傭兵団だったかと。どちらかというと、まっとうでない、汚れ仕事も請け負うようなところだったと記憶しています」


「ラベンドラ……あの北の大国ですか」

「ええ、かの国から追放された者だったかと。原因までは覚えておりません。後で調べておきます」

「普通の傭兵であれば、契約と金次第で何とかなることもあろうと思いますが、今回の場合、金だけで動いているかどうかも怪しいと思います。背景について探ることにどれだけ意味があるか……」

「確かに……」

「傭兵については、当面サーマック公にお任せできればと思います」

「そうですね、まずはそれでいいでしょう」


「さて、此度の件、私としてはできるだけ大物……できれば側近の誰かは引き寄せられないかと思っています。周知の通り、表向きは王都にいて殺されたのは妹のほうとしておりますが、向こうとしては、まさに妹が私を名乗っている、という風に認識しているでしょう。そのため、こうして隙を見せても、そのままでは優先度が低いと判断される恐れがあります」

「何か手を打たれたのですね?」


「ええ。王室専用の封印金庫には、厳重に魔導錠をかけ、サリア妃、そしてまだ幼いストレリティアやオーキディアには開けることができず、父か私でないと開けられないようになっているものがあります。これに関して向こうに噂を流すという工作をミルトン公にはお願いしています」

「どのような?」

()い摘まみますと、あの金庫は、私やラファのような成人した王族であったならば開けられる。そして中にはいざというときのための軍資金となる宝石類と、王家の身の証を立てられる品も入っている」


「そうした金庫や蔵は王都以外にもいくつか隠されており、どうにかしてそれらを手にしようと私が画策しており、少人数での行動は実はそのためのものだ……という流れですね。本当はそんな蔵は余所にはないですし、城の封印金庫に入っているのは財宝ではなく、一端をお教えしたような、王家の秘事に関する資料類なのですが」

「それだけでは主力を送ってくるかどうか分かりかねますね」

「ガルザス本人は、かなり短気かつ即物的な男であると見ました。いかにも財宝には目がなさそうであり、実際に王位を宣言した際に開口一番に命じたのが、城の金庫番を連れてこい、というものでした」


「私にも王家の宝物や開け方について執拗に聞いてきました。あっさりと私を手に掛けたことから見ても、我慢の効かない性格だと思います。王家の血を引いてはいても、王や貴族になるべき教育は受けていなかったのでしょう」


「それゆえに、この噂には必ずや興味を持ち、しかも待ち構えるということはないであろうと予測しています。私かミルトン公を捕らえるべく、能動的に動くでしょう。そして信頼する部下を差し向けるものと期待しています」

「聞けば聞くほど、そのような者にこれ以上我が国を(ほしいまま)にされるわけにはいかないですね。できるだけ早く打倒しなくては」 

「迂遠なやり方でなく、直接乗り込んで始末を付けたいのですが、さすがにエルシィ殿も難色を示されたので」


 あーねーうーえー、怒り心頭なのは理解するけどちょっとそれはどうかと。そこまでやると魔人王陛下も契約の趣旨に反すると言い出しそうだし。


 万一うまくいっても、余りにも他人に説明できないよ。それをやるにしても一通りやった後の最後の段階でしょう。


「……ご自重ください」

「……ええ」


 あ、外の音が聞こえ始めた。遮音結界の時間切れか。しばらくすると、前方から…………これは……馬蹄の音?


「ファディオン伯には、密かに、迎えを控えて頂くようお願いしています。ですので、もし迎えが来るとすれば」

「向こうの手先である可能性が高いということですね」

「そういうことです」


 イーシャが姉上の肩に乗った。そしてエルシィさんの声がする。


『きなすったよ』

「わかりやすいのは助かります」

「やはり情報が漏れているのですね」

「経路はサーマック公に調べて頂きましょう」


 人数としては6人ほどの馬に乗った騎士たちが前方からやってくる。馬車を止め、ブーリエンとダリス、アンセムが前にでたところ、先頭の初老の騎士が馬を降りて、こちらの前にきて、礼をとりつつ話しかけてきた。


「オルフィリア様、ファディオン伯よりお迎えにあがりました」


 馬車に乗ったまま姉上が答える。


「ありがとうございます、ルブラン。近衛騎士の声と顔を知らないと思われているのは、さすがに心外です」

「………」


 一気に表情が無くなった。目の焦点が合ってない、これは気持ち悪い。うーん。近衛騎士や儀仗隊なんて全員で30人いないうえに、あなたみたいに50代くらいの現役騎士って5人もいないんだから、そこが姉上でなく私だろうと分かるに決まってるじゃない。


 何年王宮にいたと思ってるの。それにあなた達は顔出ししてるんだから、王室関係者でなくても顔は知られてるよ。


 そういう可能性を考慮せずに偽物の迎えとして近衛騎士を差し向けるガルザスも適当すぎるが、それに唯々諾々と従うルブラン達の思考はどうなっているのか?


  「思考まで他人に分かるほどに鈍くなっておるあたりが、本来の奪魄より雑というか、本当に基礎のところしかできておらぬのよな。これでは日常生活にも支障があろう。段階的に微調整できる異能のはずなのじゃが」

  「こういう完全に属人的な異能の基礎から上って、どうやって学習すればいいんですか? 誰にも教えてもらえませんよね?」

  「うむ、それはな……」

  「………」

  「……………」

  「…………………」

  「……いかんな、あやつの時は能力の働き方を指摘できる奴が別におったしな……。魔人王麾下(きか)でも仙人どもでも教会でもなく、ガルザスのように在野で、そも力の本質について自覚すらない場合……せいぜい数をこなせるようになる方向にしか成長しそうにないのう……」

  「ですよね」


 ブーリエンが尋ねる。


「ルブラン殿、私でさえあなたのことは知っている。どうしてそんな演技などできるのか」


 姉上とマクセル、そして猫のイーシャが馬車から降りてきた。 


「せめて、ロダン将軍がどうなったかご存知ありませんか。叛乱の次の日から、彼も行方がわからないそうですが」


 ルブランは答えない。表情がなくなっただけでなく、目がさらに変になってきて、口が開いたまま。


 あかん、これどうみても人前に出たら駄目なやつだ。後ろの騎士たちも馬を降りて近づいてきたが、同様だ。怖いってば。外に出さないでよこんなの。


 エルシィさんが嘆息する。


「状況が本来の意志から乖離するほどに、取り繕うことさえできなくなる。異能の使い方も雑だし、そのうえでこんな命令を命じるほうが馬鹿げているよ。誰の目にも正気じゃないのが丸わかりなんだからね、あまりにも哀れだ。そこのあんたもそう思わないかい?」


 木陰から返答があった。


「ははは。そうだなあ、確かにそうだ。……仕方ねえな、切り替えだ切り替え。所詮傀儡じゃあ、演技させるなんて無理だった。使うだけならいけるかよ」


 ガルザスのところにいた戦士……ヤーナルの声だった。その声と共に、伏せていたのであろう兵が20人ほど、森から出てくる。こっちは傭兵っぽいな。


 そして近衛騎士たちも死んだ目で剣や槍を構える。姉上が微かに頷いて、マクセルに目配せ。釣り上げ成功だ。


 そして最後にヤーナルが前に出てきた。


「あんたが妹か? 確かにそっくりだな。大人しくしてくれると有り難いんだがね。この人数じゃ勝ち目はないのは分かるだろう?」


「フレディはそこで待機、私たちは出ますよ、マクセル。よろしくお願いします、ブーリエン殿、ダリス殿。シエラは私の後ろに」

「承知しました」


 ブーリエンとダリスがそれぞれ槍と盾、アンセムが剣と盾を構えて前に出る。マクセルは一歩後ろで、弓を用意していた。

そのさらに後ろに姉上と猫とシエラ。あれ? エルシィさんは? ついさっきそこにいたのに。


 ヤーナルが嘲笑(あざわら)う。


「いいぜ。おい、本人以外は殺して構わん。本人も死なない程度に痛めつけていい、というのがガルザスの指示だ」


 そうして近衛騎士たちに命じる。


「まずはお前たちからいけ!」


 ヤーナルの命令に従って、死んだ目のまま、騎士たちのうち前の三人が槍で突撃してきた。あんな表情なのに、動きはそんなに鈍くないのが違和感があるなあ……。


 でも本来よりは少し遅いかも。後ろの三人は長めの呪文を唱えている。こうしてお互いに勝算あると考えての戦いが始まった。

4/10 一部レイアウト修正

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