第二十四話 私達はお前を許さない
R15 エログロ両方の意味で注意
そうして、姉上たちは軍を分けて、動けるうちのおよそ1/3、5000ほどの兵で王宮へと急ぐ。先鋒と重要人物に、例の指輪を装備させて。
途中、傀儡の残存兵の襲撃とかはあったものの、もはや組織的な抵抗ではなく、片っ端から無力化し、昏倒させて後続の部隊に任せた。
そうして、王都の外周を覆う城壁にたどり着く。門は閉められてはいたが、割と簡単に突破できてしまった。
裏の川沿いから回り込んだ侵入した斥候が、そのまま鍵をさくっと開けてしまったのだ。門番仕事しろ。いやしたらまずいのだが仕事しろ。
……うちの王都、防御力無さ過ぎでは? 考えてみれば、掘もなく、城壁は低くて厚みもないし、そもそも川沿いにあるからそっち方面の排水溝とかは、魔導師にとっては障害などないが如し。
もしかしてあの辺、密輸とかの温床になってない? 叛乱のときも武装とかこっちから運ばれたのでは? むしろこの城壁、ないほうがマシなのでは?
ああ、そうか一応、魔人王との契約が切れたら魔物とかも来るから、無意味ではないか……。でもこれは要改善対象だわ。
そして久しぶりに王都に戻ってきたのだけど、はっきりいって、荒みまくっていた。
人気がなく、通りにある商店は殆どが略奪されたらしき痕跡があり、さらには、道端に死体が少なくともざっと見ただけで二桁以上転がっている。
都全体に死臭が漂っているようで、姉上は嗅覚遮断をしていた。うんあの臭い慣れないと吐くものね、仕方ないね。
門を超え、さらに軍を王立学園と中央軍詰所に分け、本隊は王宮へ。その途中で、ようやく人の気配が少しずつでてきて。
こちらの正体が何なのか、傀儡の兵団なのか、そうでないのかを伺うような視線があって。そして、しばらくしてやっと私達が、傀儡でなく解放軍なのだと気がついて……歓声と、窮状を訴える涙声が響いてくるようになった。すまん、遅れてすまん。
そして王宮前広場に繋がるところには、残りの近衛騎士たちが私達を待ちかまえていたのだが。
みるからにもうヤバいというか、君達もう戦いどころじゃないだろ、餓死しかかってない? というくらいに弱ってて、こっちの先鋒がちょっとつついただけで壊滅してしまった。
先鋒の中に混じっていたルブランたちは、元同僚たちのその有り様に涙を流しながら、救うために昏倒させていってた。
そして姉上たちは、王宮前広場にたどり着く。
そこには急拵えの台があって。その上には首がふたつ、晒されたままだった。
それらは、夏の日差しに晒され、鳥に啄まれ、虫たちに食われ果てて。早くも完全に白骨化していた。僅かに残っている髪の毛で区別するしかない。
うん、晒された直後はもっと無残な姿だったはずだが、これならもうそれも分からないだろう。そして全員が、歩みを止めて沈黙する中、姉上だけが、前に出て、呟く。
「……父上…………私…………ラファ……」
姉上が声を震わせつつ、一礼をとる。
ああいかんね。思い出してしまう。改めて、オルフィがされたことへの怒りを。
「……遅く、なりました」
その背に、サーマック公からの声がかかる。
「……御命令を、『陛下』」
ああ。うん、なら、そうするしかないね。
「……皆よ。一刻も早く逆賊ガルザスを捕らえ、その首を父上への手向けとしましょう。……突入!」
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何か、外が騒がしい。
酒精に濁りきった思考の中、何日かぶりに、外が気になった。ここから殆ど出なくなって、何日になるのか、もはや時間感覚も曖昧だ。
周りには、十人ほどの粒ぞろいの美女たちが眠っている。昨夜も彼女らと楽しんだところだが、そろそれ違う女たちを試してみてもいいような気がしていた。
だがその前に酒だ。昨日から、新しい酒が運ばれてきていない。くそが。俺はこの国の王、しかも神に選ばれた男だぞ。
酒くらい何故もってこない。仕方ないから傀儡の従卒の、ユなんとかを呼んだ。
「おい、酒だ。新しい酒を早く持って来い」
「……はい。それが」
「なんだ」
「……王宮の食料庫から酒がなくなっています」
「はあ? なんで補充されてない。ないんだったらさっさと外から調達しろ、くそが。いいから早く持って来い」
「……はい」
ほんとに使えねえ連中だ。傀儡どもには俺がいちいち指示してやらんといかんのか。王にそんな手間をとらせるな。
傀儡じゃねえほうがマシなのか? ああ? そういや、ヤーナルとリディアはどこにいった?
最近見てねえぞ、俺に押し付けてどこで楽してやがる、くそが。
ジェフティとヤーンは、最近会った、はずだ。昨日か、一昨日か……万事うまくいっていると。
そう言うなら酒と女くらい用意しろよ無能め、あいつが連れてきた連中は片っ端から言うままに傀儡にしてやったというのに、使えねえ連中だ。
しはらくすると、扉の向こうでガチャガチャと、複数の人間が来る足音が聞こえた。なんだ? 酒をもってくるわりに仰々しい、いったいどうした、いったい………。
――――――――――――――――――――――――――――
酷い光景だった。
ここに来るまでに、姉上の従卒だったユアンにあったが、姉上を見ても反応せず、捕まえても、早く陛下に酒を……というばかり。
これもう人間的に壊れてない? ガルザス死んでも元に戻らないとかない?
他の王宮の人達も似たようなものだった。半分夢見心地で日常を繰り返し、足りないものが多数でてきているのに気がつかず。
中には自分らが餓死しかかってることも理解できていない者も。あの数日遅かったら、ほんとにバタバタと死人がでてきていただろう。
そして、姉上と、サーマック公、スタウフェン侯とマクセル、そしてエルシィさんに、公らの護衛、捕縛要員、合わせておよそ十数人ほどで寝所に乗り込んだのだけど。
扉の向こうに広がっていたのは。
成金趣味の金銀財宝に彩られ、一気に十数人がいたせるほどに拡張された寝台に、何十本もの空の酒瓶に、媚薬の香の煙、そして裸で丸出しの野郎ひとりに、同じく裸の女性が十人ほど。
嗅覚がなくても、むわあ……とむせるほど色んな香りが充満しているのが理解できるほどの、退廃的な光景だった。
そして、女性らは……あー、全員知ってる、本気でこいつ、身分高くて若くて綺麗な女性ばっかり集めてたわ……。アイゼル、ミリィ、ルヴィ、そして……。
とりあえず私は見なかったことにするから、みんな、強く生きてね……正気に戻ったら、みんな修道院に行きかねないけど……下手すると自殺しかねないかもだけど……。
プロスター公連れて来なくて良かったわ、アイゼルのこんな姿みたらあの人間違いなく発狂してたわ……。
「さすがに……ここまで酷いとは、思っておりませなんだ」
スタウフェン侯が掠れ声で呟く。サーマック公は、何も言えずに呆れ果てるばかり。
「……なんだあ? てめえら、酒は、酒はどうした?」
「……本当にあれがガルザスとやらなのですか?」
「ええ、間違いありません。私は、よく知っています」
「……陛下?」
そして、姉上だけが前にでる。心に焼き付いた押さえがたい怒りと。悲しみと。憎しみを募らせながら。
「……だれだてめえ」
「私は、お前に会いたかったのです」
「……なんだ? 無礼なやつめ、俺はここの王だぞ」
「……マーカス殿、エヴァウト殿。申し訳ありません。本当は、私は、この叛乱が起こった直後から、ガルザスのことを知っていたのです。だから、あの頃もう少し、お伝えできることはあったはずなのです」
「……どういう事ですか?」
「今からお話します。……ガルザス。お前が、このラグナディアの王だというのなら、知っていなくてはならない。我が王家には、いくつかの秘術が伝わっているのです」
「ひじゅつ? 知らねえよ、早く酒もってこいよこの傀儡ど……も……ん?」
「その中で、特に双子については、特別な術があった。例えば私とラファリアは、知識や、経験の一部を共有することができた。たとえ、離れていても」
「なんですと?」
そういうことにするのか。それでも言わずにはいられないか。いいよ、言ってやろう。
「だから、知っています。お前に何をされ、何を思い、どのように殺されたか。その全てを。それがお前に分かりますか。お前に完全には操られなかったがために、王家の秘密の一切を話さなかったがために、お前の怒りを買った。そして」
「……あ……」
「身を汚され。腕を。足を。四肢を切られ。それらを犬の餌にされるところを見せつけられたうえで。目を抉られ。舌を切られ。最期に、意識あるまま首を鋸で引き切られ、その首を広場に晒された絶望が。お前に分かるか」
公爵たちもマクセルも、エルシィさんでさえさすがに絶句する。
そう。それがオルフィの本当の死に様。だからガルザスよ。私達は、例えお前自身がジェフティの被害者であったとしても。お前を絶対に許さない。
「……てめえは、あの女……の……」
「お前にとって思い通りにならない人間というものは、腹がたって仕方なかったのかしれませんね。だからやりすぎた。もう何年も、正気だった頃から、その力に屈服するか、追従する者ばかりを相手にしてきたのでしょうから」
女性陣の何人かが目を覚ましていたが、状況を理解できず呆然と、ガルザスを見ているだけだった。たぶんヤバめの薬とかも使われてるっぽい。
「どちらにしろ、お前が既に、正気を失い、人として壊れていたとしても。それがお前だけのせいでなくとも。私と妹は、お前を絶対に許さない。私は、そのためにここに帰ってきた」
「………見え…ねえ…影が、全く……なん、で、傀儡に、なら、ねええ!?」
「本当は、お前も同じ目にあわせてやりたいのですが。時間が惜しい。お前が早く死なないと、救われない方々が多すぎます。洗いざらい、たとえ残り滓でも絞り出して自白してから、速やかに逝って犠牲者たちに詫びなさい。……マーカス殿。捕縛を」
「……ええ。……やれ!」
「やっ、やめろてめえらっ、おれ、おれはここの、おうだぞ、どこだヤーナル、リディア、ジェフティ、たすけろ、早く俺をたすうわあああっ」
そうして丸出し野郎は騎士たちに気絶させられ、布でぐるぐる巻きにされ、牢に連れて行かれた。
途中でジェフティたちが取り返しにきた場合に備え、エルシィさんが騎士たちに同行する。
「……陛下」
「マーカス殿。まだ終わりではありません。ジェフティたちの件も残っています。アレから絞れるだけ情報を絞りだし、被害者たちを正気に戻す準備ができたら、アレを速やかに処刑してください。正直、アレがこれ以上生きていると、私はいつまで正気で居られるか分からないのです」
「……了解しました。速やかに実行いたしましょう」
「そして、ジェフティを探しましょう。手遅れかもしれませんが……」
そうしてガルザスは、散々魔術による自白強要などで洗いざらいの記憶を吐き出させられた。
もちろんろくな情報はなかった。分かったのは結局、彼に叛乱を唆したのはジェフティだったということだけ。そして彼本人にも魔術で精神操作された形跡があった。他人を操る本人が操作されていては世話はない。
そして犠牲者も翌日のうちには王都にいたものは概ね確認、収容できたため、2日後にはガルザスの処刑が執行された。
平時のうちの国なら人を死刑にするには王の一存だけで出来ないようになっていて、それなりに裁判等の手順もある。しかし今回は司法長官らも傀儡になっているし、非常事態のため事後承諾ということに。
ジェフティたちも結局助けに来ず、魔封銀で魔術を封じられ、縄に首を突っ込まされてなお見苦しく、なぜどうして早く助けろと喚き。
念のためということで指輪を持っている者たちだけで見守る中、今度こそ助かることなく、やがて物言わぬ骸となって絞首台にぶら下がった。
そして、奴が息絶えたと思しき瞬間……奴の頭上から、無数の半透明の何かが、四方八方に飛んでいくのが見えた。
おそらくは、操られていた人々の魄だろう…………あれ? 姉上のほうにも一つ飛んでくる……あっ。頭に入っちゃった……。そして私と姉上は、少し頭痛のようなものを覚えた。
「?」
姉上はよく分かっていないようだが、これ。もしかして。
「むう。【奪魄】が使えるようになっておるのではないか? 他にも………」
「霊威って、移るものなんですか?」
「……推測じゃが。これは、双生の契約が悪さをしておる」
「というと」
「不完全にそなたの姉は奴の力の対象になったが、それによる魂魄の欠陥は、そなたと融合することで結果的に埋められた。しかし、不完全とはいえ少しは奪われておったために、たった今戻ってきた。そしてその影響で、魂魄が過剰になって、元々あった素質が活性化したのであろう。なるほど、これはなかなか興味深い」
分かっていたけど、私達実験動物状態だなあ。
そうして、ガルザスが死んだと同時に、操られていた人々は昏睡状態に。それをエルシィさんの指導のもと、治療できる技量の魔導師たちを選んで、『継承』も奮発して技術指導して治療開始。
対象は何千人もいるので、まず宮廷魔術師たちなど、技術もちの人らから治療し、人員を増やして対応。
それでも一週間以上かかる見込みで、その間の昏睡者たちの世話もしなくてはならない。犠牲者には体調崩してるのに治療できていない人も多くて、結構大変なのだ。
なおこのとき姉上たちは処刑まで失念していたのだが、ガルザスの被害者はうちの国民だけではなかった。治療対象者にメルキスタンの使者たちがいて気がついたのだ。
メルキスタンは、うちに向かって進軍していた軍の首脳部や、王族を始めとした貴族の多くがこの時昏睡状態に陥り、大混乱になったらしい。
そしてそれを癒やす手段も向こうは誰も知らないときた。……たぶんこれ、私が姉上の中に居られる間には解決しそうにないわ、私らのせいじゃないが、ご愁傷様である。
そうして犠牲者の治療をしている間に、姉上は暫定王位について、崩壊している統治機構の回復にとりかかった。
そしてまた復活する姉上過労問題。だめオルフィ、このままだと過労死しちゃう! 自重して!
「分かっては……いるのだけど……」
『いいからもう今日は寝て?』
ジェフティとヤーンの捜索も一応指示。ただ、実のところ、異能で逃げ回る彼らを捕捉するのはほぼ不可能なことは分かっていた。
ついでジェフティが呼び出した魔物対策を口実、前提に、数千人の精鋭を王都に残し、動かせる状態にした。魔神が現れるとなったら、近辺を封鎖し、魔神の僕から、周辺の被害を抑えるためにである。
そして……魔神が現れるであろう場所と時間は、おおよそのところはエルシィさんを通じ、シューニャさんから連絡を受けていた。
そうして、王都解放からおよそ十日後、姉上は、諸侯を召集して、魔神対策会議を開いた。
西方、北方諸侯は、半分くらいは本人らは国許に帰領していて代理が出席。出征期間が長く、領地をこれ以上留守にできない、という人らも結構いたのだ。
東方諸侯も参加しているが、こちらはかつての当主は軒並み出席せず、大体は総領の代理出席である。
いくら異常な異能によるものとはいえ、王の弑殺と叛乱に与したとあっては当主交代で責任を取るのは避けられず。だがまだ王位すら暫定で、交代を承認できる状況でなかったため、総領が出席ということになったのだった。
まあその総領本人も、操られてた人多いのだけどね……そこまでダメとなったらお取り潰しになる家多数とあっては仕方ない。
姉上は暫定女王として、各諸侯の出席を労ったのち、早々に本題に入った。まずはジェフティたちを結局見つけられてはいないこと、そして、王祖の契約に端を発する、ファスファラスとのつながりと、それによる助力の説明をした。
そして、あらたに、ファスファラスが派遣した、対魔神戦闘員の紹介をすることなったのだった。
数十の諸侯が注目する中、黒い斜陽剣の紋章をあしらった白黒のローブをきて、フードを深めにかぶり、髑髏をあしらった仮面をつけた四人が現れる。
バーリさんにエグザさん、そしてエルシィさんとイーシャさんであるが、ローブとフード、仮面のせいで見た目には性別すら分からない。
「これはどなたの発案で?」
「一応あれは護法騎士の正装ぞ。十代ほど前の陛下の趣味じゃ」
そしてバーリさんだけがフードと仮面を脱いだ。漆黒の肌、瞳のない目という面相に、ざわめきが広がる。
「只今紹介に預かった、ファスファラスのものだ。私は、名をウォンガという」
極めて淡々とした、抑揚のない話し方だった。
「私は、あまりこのような場に慣れていないため、耳障りのよくない話し方になることをご容赦願いたい。まず始めに、我々は、ファスファラスより派遣されているが、それはあくまで今回の魔神召喚に対する、ファスファラスの戦力としてだ。我々に外交に関わる権限はなく、たまたま、戦場がこの国になりそうなため、事前に礼儀として挨拶申し上げている、というだけだと理解してもらいたい」
「また、実際の戦闘において、我々は独自の判断にて行動する。貴国の方々からの指示は原則として受け入れない。また、我々と魔神との戦いにこの国の者が巻き込まれたとしても、我々は原則として関知しない」
スタウフェン侯から質問がとんだ。
「……原則、というからには例外もあるのかね?」
「我々は貴国と喧嘩がしたいわけではない。貴国からの要請が、魔神やその僕たちとの戦術的状況に反しない限りは尊重したい。また、貴国の王については、我が国の貴族との間で個別契約交渉が進んでいると理解している」
「そのため、王についてはその貴族から、護衛に相当する人材が別途派遣されることになっている。ただその人材と我々前線の戦闘部隊とは別口であり、我々としては関知しない」
いや思いっきりその四人の中にいますけど?
「また、魔神本体が討伐された場合、我々は速やかに本国に帰国する。仮に、僕などを打ち漏らしたとしても、そこまでは責任はもてない。その後もし国として我々に何か言いたいことがあれば、国として交渉してもらいたい」
「……魔神召喚とやらは、もう回避できないのかね」
「本国の担当者は回避できないと判断した。それ以上のことは私には判断しかねる」
まさか回避できないのでなく回避させないために努力していたとは、もしバレたら事情を知らないと邪悪の手先とみなされても仕方ないのではないでしょうか? 隠蔽工作大丈夫? 漏れてない?
「魔神というが、それはどれくらいの強さなのか? たった四人で対処できるものなら、たいしたことはないのでは……」
「まず、ここにいる者で全員ではない。当日はもう少し増える予定だ。また、我々は、申し訳ないが、君達からすれば、常識外の戦闘力を持っていると断言できる」
「例えば魔神の僕が貴国内で先日召喚されたとき、その数に百倍する犠牲を払ったと伺った。私の見解としては、その僕の10や20程度であれば、私一人で数セグ(秒)で全滅させることができる」
「「!!?」」
「当日は、おそらくその僕に相当する存在が、魔神の先駆けとして、四桁は召喚されると見てよい。我々はそれらを殲滅可能な戦力だ。その我々をもってしても、魔神は容易ならざる相手なのは間違いない」
「あれが千……そしてそれを………は、は、ふざけている……」
単純計算で、魔神の僕1000体で、10万人相当以上の戦力とすれば、一人で2万5千人以上に勝てる、と……万夫不倒どころじゃない。そして恐ろしいのは、もっと差があるであろうということ。
「……ファスファラスの魔人とは、それほどのものなのか?」
「残念ながら我々は向こうでも常識外とされているから安心してもらいたい」
「……安心、したといっていいのかね……」
「このような非常事態でもなければ、我々が島の外に派遣される事はない。ゆえに島に手を出さなければ、関わるようなこともない」
「……そもそも、我々の仲間や先輩は、歴史的にもいわゆる聖伐軍の相手をすることすらめったに許可がおりない。曰わく、過剰戦力だとな。君達も西海のセイレンの伝説は知っているかもしれないが……」
ここで初めて、バーリさんの声に感情が籠もった。それは……笑い。フードの人物の一人が俯く。エルシィさん……。
「……我々、ファスファラス護法騎士団員は、最弱の者でも彼女に匹敵する。戦場となる貴国には申し訳ないが、ひさしぶりに力を存分に振るえることに、期待する感情がないわけでもない。だから、どうか我々の邪魔をしないでいただきたい。そのほうが、君達の命を守れる」
「最弱で? なんと」
「……護法騎士……だと」
「知っているのか? ザインツ伯」
「魔人王直属部隊……かの国の五色の騎士団のさらに上、魔人の中でも人外に至ったものの集まり、という伝説。事実だというのか」
「その表現であれば、事実の範囲内だ」
ざわざわと半信半疑と恐怖の呟きが広がる。
「……皆よ、今の話を聞いたかと思いますが、彼らは、我々の敵ではありませんが、味方でもありません。よって、魔神が倒れるまでの間限定として、彼らを客人としますが、その行動に我が国としては干渉しないとします」
「皆も、今回はそれで納得いただきたい。なお魔神やその僕は、明後日辺りに、この王都の北東、ベール川の東岸近辺に召喚される可能性が高いとのことです。当日は、軍を近隣に展開し、被害が周辺に及ばないようにできればと考えています」
その辺に魔晶石埋めまくったんだっけ。
とりあえずファスファラスの騎士たちについては、皆思うところ多数のようだけど、そこで終了となった。
会議はその後当日の布陣に続き、これまでや今後の費用負担とかの生々しくも頭が痛い話が続いた。西方諸侯は自分たちこそ解放のための功労者である、として、負担の殆どを東方に押し付けようとする。
しかしそれをそのまま鵜呑みにすると、わが国の東西格差はとんでもないことになり、間違いなく将来に禍根を残す。その辺の落とし所をどうするのか、その交渉事を取りまとめるための姉上を支える人材が殆どいないのが問題だ。
お義父様も内政面には強くない。旧閣僚陣は発言力低下してるうえに、東方諸侯当主同様、治療での回復後も自称責任をとって謹慎蟄居、みたいな人も多く……。
いやそれ責任とってるんじゃなくて責任から逃げてるだけでしょ。若手を抜擢して何とかするしかないのか。
私も仕方なく姉上の相談にのってたけど、私は疲れない幽霊だからいいとして、姉上、寝てください。ほんとにもう………。
私と話せる時間も残り少ないからと言われても、話す中身が全くもって年頃姉妹の会話じゃない。いやもう私に年頃がどうこうは関係ないけどさ。
……そして、そのまま魔神降臨の日を迎えた。
その時の戦いは後世魔神大戦と呼ばれ、戦後に発生したある事象の影響から、大陸全体の歴史の転換点、中世が終わった日、と言われることになる。
踏み込むシーンは昔書いた時は完全にR18だったところを簡略化
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