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第二十二話 何故どうしてと問いたいことばかりよね

少しR15かも、エロでなくて

 リディアは昏倒したまま、エルシィさんの処置を受けた。そして、一度はかなり老化していたが、その後治療を受けると、以前より少しずつ老けた程度までは戻ったようだ。神器って怖いわー……。


 その夜は予定を1日延ばして、砦に滞在。翌朝、リディアが目を覚ましたところで、尋問の時間となった。


 魔眼封じの布が巻かれた状態で、魔封銀の手錠が付けられてはいる。とはいえ、本人にはもう逃げる気力などもないようだった。


「調子はどうだね?」

「……最悪だ」

「あなたには色々お聞きしたいことがあります、宜しいですか?」

「……ああ、わかるよ。わかる事は、話すさ。覚えてはいるんだ、でも私も聞きたいんだ……」

「そう、でしょうね」

「分からないんだ、なんで……こうなったのか、私にも、分からないんだ。どうして今まで、あいつを恩人だなんて、思ってたんだって……あいつが、あの人を、殺したのに……いや……」


 苛立った声が、泣き声に変わる。


「どうして、あの人を、トミーを殺して欲しかったと、思い込んでたんだ、そんなはずないじゃないか……どうして……」


 口元を歪め、手錠ごと頭をかきむしるリディア。魔眼封じの布は、既に見てわかるほど湿っている。


「偽の記憶や想いは、創り出すより、元々あるものをねじ曲げるほうが簡単だからね。あんたがその人に向けていた想いを利用されたのさ」

「……ちくしょう……」


「……あなたもまた、彼らの被害者であることは理解します。ですが、あなた自身の手による犠牲も出ているのは、分かっているでしょう。それを良しとしないならば、何があったか、そして彼らが何をしようとしているか、知っていることを話してください。あなたの師については、我々が、仇をとってあげることもできるでしょう」

「……ああ」


 そうしてリディアは話し始める。彼女の中では、事のおこりは、およそ半年前……。当時、彼女と彼女の師トミー・シェクタルは、メルキスタン王国で魔導具の製造販売、鑑定業を営んでいた。


 鑑定のほうは、王室納入品の検査を委託されていたというから、相応の実力と信用があったのだろう。


 シェクタルは元はオストラントの王立学園を優秀な成績で卒業した魔導師で、北方のラベンドラ王国に宮廷魔術師の一人として仕えたが、ある時王の不興を買い、職を辞してメルキスタンに落ち延びたのだとか。


 そうしてある時リディアを引き取って弟子として育てた。しかしリディア本人は不肖の弟子なのだという。


「いや、鑑定のほうはまだいいんだ。それなりに覚えたさ。でも呪文覚えるの、苦手なんだよ……だって大抵のは呪文無しでできちまうし……得意な、炎系のやつとかしか覚えてないっつーか……」

「万象の魔眼持ちはそうなりやすい。歴史上でもね。だからファスファラスでは、その眼をもって生まれた者は子供の頃から目を視力ごと封じて育てられる。大人になるまで開けられない」

「トミーもそれをやろうとしたけど、できなかったんだよ。ご先祖様が、そうしてたって知識はあっても、やり方がこっちじゃ分からずじまいでさ」

「ああ、そうか……魔眼は血筋に依るところが大きいから、それに関する知識は、門外不出の家が多い……まして外に出る一族には、伝えないか……(わたしゃ独学で何とかしたっつーのにほんとに……ごにょごにょ)」



  「いくらファスファラスでも、前世の記憶も読み出せてない段階で独学で出来ていたお前がおかしいのじゃ」

  「どういう事なんですか?」

  「あやつらが前回の転生で生まれた家は、魔大公が一家マシバの一門ではあるが血が遠いところでな。リュースとアリス……当時のエルシィはそれぞれ、本家の分家の分家のそのまた分家くらいの従兄妹同士、魔人の血も薄く、一門の秘儀なんぞ当然伝わっておらんかった」

  

  「そういう薄い血で魔眼をもって産まれてくるなど滅多にあることでない、ましてそれが万象の魔眼など。それでも子供の頃から、自分の眼がヤバい代物だというのは、親すら分かっておらんかったのに、本人にはわかったんじゃな。自力で視力ごと封じて、長じるまでずっと片目で生活しておったのよ。だから魔眼に頼らんのが染み付いておる」

  「はあ……なるほど……。というか、そういやなんで片目なんです? リディアもそうですけど、普通両目で、片方だけだと十分に機能しないのでは? 魔眼ってそういうものらしいと学園で習いましたけど」


  「そうじゃな、まさに片目しかなかったから、周囲は気づかんかった。そんな例は歴史上でも滅多にないからの」

  「滅多にないことが重なり過ぎてませんか」

  「うむ。それは奴に霊威の素養もあって左目はそっちにとられていたからじゃ。そうと分かったのはだいぶ後じゃが」

  「才能ありすぎなのも考えものですね」


  「それで、その代のマシバ本家の当主の娘がイーシャよ。縁の奇妙さというべきか、三人は自然に友人になったそうな。それで、ある時、本家でもないのに魔眼を持っておることがバレてな。そこからすったもんだのあげく、あの魔眼を求めたある貴族に捕まって、目を(えぐ)られたあげく、さらにはその後間違って殺されての」

  「……え!? ……そういえば、そんなこと言ってましたね…」


  「そこで恋人が死ぬ瞬間を見たリュースが霊威に目覚めて大爆発し、貴族の一族を(ことごと)撫で切り(みなごろし)しようとしたところで事態に気がついた我が主たちが、ギリギリのところで蘇生させてな、その際に本人も霊威に目覚め、芋蔓(いもづる)式に前世の記憶も読めるようになり……と色々あったのじゃ」

  「なかなか波乱万丈な人生送ってますね……。凄い才能もって産まれてくると大変なんですね」


 というと、ホノカさんがジト目で手鏡をもってこちらに向けた。はい? どういう意味?


  「(はあ)……縁の奇妙さも、天然も、妾では計算しかねる」



 よく分からないが、とりあえずリディアの話に戻ろう。不肖とはいえ、仕事を手伝うぶんには問題なかった……はず、とのことだが、ある日、彼女は奇妙なことに気がついたのだという。


 メルキスタンの王族の一部が、平時にしては考えがたいものを発注したり、鑑定の依頼をしてくるようになったのだ。


 隠行の魔導具、極めて強い眠りの魔法薬、毒といえるほど強力な鎮痛剤、召喚儀式のために使われる道具や香料、副作用が危険なほどの媚薬、魔晶石と呼ばれる極めて稀少な宝石……。


 師に相談したところ、師も(いぶか)しがり、調べてみると言ったのだった。そして数日後、師は険しい顔で、最近王家に奇妙な魔導師や、若い男が出入りするようになった、と。


 何人かの王族がその男等に心酔し、言われるままに、彼らの求めるものを購入、提供している……ということを語った。そうして、今度は彼自身も、王族から呼び出しがあり、その男に会うことになりそうだ、とのこと。


 余りにも不自然であり、場合によっては、少し荒事も考えられる、と言って、師はちょうど近くにいた旧知の知人を頼ることにしたのだという。


 その人物は、彼がラベンドラに仕えていた頃の知人で、やはり王と折り合いが悪く下野し、今は傭兵に身をやつした人物なのだと。


「黒蟻団のヤーンか!」

「そうだ。あまり評判はよくなかった奴らしいね。魔導師としても、戦士としても優秀だったそうなんだけど、確かにその、そのときは(・・・・・)性格が正直……下品でさ。私にも変な目を向けてきたけど、トミーの手前、自重はしてたようなんだ。ただ金さえはらえば仕事はきっちりするっていうんで、トミーが念のための護衛だと言って、連れて行って……それで」


 頭を振りつつ、リディアは絞り出すように喋る。


「……二人とも、なかなか帰って来なくて……夜になったら、トミーから魔導伝文が来て、町外れの酒場に来てくれって。変だなとは思ったけど、確かにトミーのだったから……行ってみたらさ。そうだ、そこで、おかしくなったんだ……行ってみたら、トミーも、ヤーンも、なんかぼおっとした感じで椅子に座ってるだけで、反応しないんだ」

「そして……ガルザスと、ジェフティが出てきたんだ……。……そこからは、私も変になって。念のために守りの魔導具は持ってたんだけど、効かなくて、頭が、すげえ痛くなって……気がついたら……」


――――――――――――――――――――


「危ないところだったな、この娘、君の力にもかなり抵抗できていた」

「確かに少し、影が見えにくかったな……貴様ほどじゃねえがな。たまにそういう奴もいるのか」

「この娘はかなりの魔術の才能があるようだ、これほどのは滅多にいない、そのせいかもしれん。まだ傀儡になっていない」 

「どうする? 殺るのか?」

「いや、私に考えがある。うまくいけば、傀儡でなく同志として引き込めるかもしれん。明朝までには結果が出る。君はもう休んでもらっていいぞ」

「はん……まあいいさ。好きにするがいい。『お前たちはこの男の命令に従え、絶対にだ。ただし俺を裏切らない限り、な』……よし、後は任せる」


 そうして、酒瓶を持って奥に引っ込んだガルザスを横目に、ジェフティは呟く。


「……我が友セルゲイ、君もいつまでもその状態では問題だ、記憶を維持できなくなりかねん。そろそろ肉の器が必要だ」

「……?…!……」

「そうだ。私もこの体になってから考えたが、現代では魔術がある程度使えると便利だ。それらは肉体の素質に依るところが大きい。この三人は、いずれもかなりの素質だ、特に娘の方は素晴ら…………」

「…!!…!……!…」

「……そうだな、女性になるのは難しい、そこは分かる。では? ……こちらのほうか。確かに、荒事も考慮するとそのほうが鍛えてあるな。了解した」


 そしで。ヤーンの表情が変化する。(はく)を奪われ、さらに残る魂さえも肉体から引き剥がされる、耐え難い苦痛に(さいな)まれているのだ。


 死の危険が迫ると分かるのに体が全く動かない。どうして、なんでこんなことに。こんな力聞いたこともない。俺は単に、今夜の酒代のためにあいつの護衛を……こんな化け物が、なぜ……。


 動かせなかった体が、断末魔の苦痛のあまり、ごく僅かに……。


「……い……だ……」

『静かに。神に召されることを受け入れるのだ。それは限りない幸福だ。そうだね?』

「あ、あ……」

『せめて痛みを知らず安らかに逝くがいい』


 今の彼にとってジェフティの言葉は絶対だ。ヤーンは強制的に幸福感に包まれ、痛みを忘れ抵抗を止めて、魂は肉体から旅立ち……かつてセシェルの魂がそうなったように、ジェフティの手によって次元を超え、彼らの神の元に送られた。


 幸福な忘我の顔で白眼を剥いて息絶えたヤーンの身体に、黒い影が這い寄り、影は開いたままの口に入り込んでいく……しばらくするとヤーンは痙攣し、生気を取り戻した。


「かっ……はっ………は、は、動く……いや、どうも変な感じだ……だけど五感があるっていうのは、やっぱりいい、生きてる、生き返れたんだ、俺は……おお、神よ、感謝します」

「【潜影】は使えるかね?」

「……使える、ようですね」


「うむ。この力は器でなく魂の力……魂こそが人を規定する。やはり肉の器の違いなど些細なもの。神が魂を求められるのも当然、皆が魂をお捧げすれば、真の平等に近づく」

「……そこは一つクリアですが、今度は魂の違いが差別に繋がらない様にしなくてはならんと思いますよ」

「心配は要らぬ、我が神は大変【慈悲】深い。本来であれば魂を捧げた万人に、必要とあれば力を授けてくださる」


「そのためにも?」

「そうだ、ここにお呼びしなくてはならない。丁度よいのはあと半年少々先だ。それまでに準備を整えねばならん。大量の供物が必要だ……紛い物の教会、そして魔人たちに邪魔されぬようにせねば」

「魔人、か。この時代でも島に引きこもったままとは、恐れいりますよ……いたた、まだ、何か変ですね」

「君も器の身体と記憶を馴染ませるには、数日かかるはずだ。今夜はもう休んでいたまえ」

「ええ」

「では、我らが神の為に」

「我らが永遠なる神のために」


「さて、問題はこの娘だが……ふむ。やはりこの男に懸想しているか。ならば……。愛は、容易に憎しみに変わる。君を縛る「仇」は我々が始末してあげよう。そうだ。明朝には君は我らの同志だ。……さて、シェクタル君。今から問うことについて、知る限りのことを話してくれたまえ。君の知識と弟子は、我々が引き継ごう。後で安心して神の御元に行くといい」


――――――――――――――――――――


「気がついたら、朝になってて。トミーは死んでいて。そして私は……そう、憎い、自分を束縛してきた男を、代わりに殺してくれたんだって、ガルザスを、恩人だと……思い込まされて……」


 酷い話だ。ガルザスが父や姉上にやったこともそうだが、こいつらには良心というものが欠けている。魔神とやらにそれも食われたのか。


「……それで、ヤーンのほうは、別人になってた」

「別人?」

「その前の日に初めてあったときは、なんつーか、ギラギラした、自信に満ちた荒くれ者って感じでさ……。むしろこんなのが将軍やってたなんて嘘だろ、ずっと傭兵か、下手すると盗賊だったろ、みたいな。そういう奴だったんだ」


「でもその日の朝からは、記憶はあるようなんだけど、性格が違ってて、ギラギラどころか、影が薄いおっさんになってたんだ。しかも何かあるたび神に感謝しますとか言うし。それでジェフティの従者みたいなことを始めた」

「恐らく、ジェフティと同じだね」

「同じとは?」

「ジェフティは聖者セシェルの姿をしているが、中身は別人だよ。昨日この娘と戦った後に向こうもそれを認めただろう? そのヤーンもそうだろうね。ジェフティの配下の何者かが、肉体を乗っ取ったんだろうさ」


「そんなことができるとは……それも魔神とやらの力か?」

「……そう、なんだろうな。あからさまに別人になってはいた。それで変な能力を使ってた。魔術じゃないけど、影に隠れることができるんだ。厚みもなく、完全に。そうやって、いろんなところから、人間を影から襲って、拉致してきて……ガルザスに、従わせてたんだ。ジェフティもだ、あいつも変な力があって、見えない通路を作れるんだ」


「見えない通路?」

「例えばただの壁にしか見えないところに、あいつが何か祈りを捧げると、その後しばらくの間、あいつが許可した奴だけはその壁を通り抜けられるようになるんだ、見かけじゃわかんないんだけど」

「……面倒な能力だ……」


 そうして、ジェフティとヤーン、そしてガルザスとヤーナルは、メルキスタンの要人たちを次々に傀儡にしたり、始末して、メルキスタンを実質的に乗っ取った。


 リディアもそれに協力した。他人に思うままに命令し、しかも制限されることなく力を振るえることにいつしかリディアも慣れて、自制心がどんどん低下していった。


 欲しいものは何でも手に入れるし、最近ではガルザスに命じられなくとも、躊躇(ためら)いなく邪魔者を殺せるようになっていた……。


「……言い訳にもならないんだけど、今ならおかしいって分かるよ。でも、昨日までは、分からなくなってたんだ……」


「それで、三カ月くらい前に、ガルザスが言ったんだ。俺は本当はラグナディアの王族であり、真の王になるべき男だって。ガルザスの…ええと、爺さんだっけ? その人から王位を簒奪(さんだつ)した連中の子孫を皆殺しにして、自分こそが王になるっていって、この国を攻める計画をぶちあげはじめたんだよ。まず東半分をのっとって、そこから一気に王都を奪うって。……そっか、そういや、ガルザスもだんだん変になってた」

「……変?」


「最初の頃はまだ、少し面倒くさがりで、ジェフティが連れてきた奴にしか力を使ってなかったっぽいし、結構冷静な感じだったんだけど……先月くらいには、やたら言うことが偉そうになって、目に付くやつみんなにあの変な操る力を使って、毎晩、酒と女を集めての宴会やるようになってさ。正直こいつ、凄い力はあるけど駄目な奴だと思ったんだ、思ったんだけど恩人だから、こんな駄目なやつでも私が助けてやらなきゃ、王様にしてやらなきゃなんて、って思い込んで……」


 そうして、(うつむ)いていたリディアが前を向いた。


「……ジェフティが、何かやったんだよな? 変わってないの、あいつしかいねえもの。ヤーナルだって……私が殺しちまったけど、あいつも、最初の頃より、乱暴になってたと思う」

「そうだろうね。彼がここまでの所は黒幕ということになる」

「あいつ、何を企んでんだ……」

「何か、彼が奇妙なことをやっているなどの心当たりはありますか?」


「あんまり、あいつのこと気にしてなかったから、正直わからない。ただガルザスをおだてて、指示して、……時々何十人か単位で、人を集めて、どっかに連れて行ってるのは知ってる」 

「ファディオン伯の情報通りですね」

「とりあえず最近のところはさ。ガルザスが、食い物とか、物資が足りないから持って来い、というから、とりあえずあるところから奪って来ようとなって、色んなところを襲った」


「それで敵の幹部……つまり、お姫様たちや解放軍って名乗ってる人達の上のほうの貴族の人らを見つけたら、捕まえるか殺すか、どっちでもいいから、さっさと無力化しろって言われたから、ヤーンと分担して、傀儡になってる軍の連中にも命令して……」


「でも私には軍のことも、国のことも、正直やり方わからないから、うまくいかなくて、ずっとイライラしてた。ヤーンのほうは私よりその辺うまいようだったけど、あいつはジェフティにしか従わないし、目的も私らとは違う感じで、こっちの言うことはあんまり聞いてくれなかった」


 なるほどな……まあ、素人がいきなり、軍の指揮とかできるわけないよね。


「……せめてヤーナルを生かしておけばよかったって後悔した、剣が欲しいからって、何もあんなことする必要なかったのに。でもあの時は欲しいって気持ちが抑えられなかったんだ。むしろ、ヘマをして相手に捕まりかけてる無能者め、死ねと思って……」


「やっちまった。やった後で、ちとまずいかなと思って、どうせ知られなかったらいいんだ、皆殺しにしようって考えて、全部燃やしてすっきりしようとしたのがアレさ。完全に壊れてたよな、私」


 あー……やっぱりアレ、証拠隠滅のつもりだったのね……。


「……昨日だって、軍の人らに、お姫様が外に出たようだから探ってこいって命じても、ろくな情報もって帰ってこなくて。当たり前だよな、具体的なこと、何も指示できてないんだから、仮にあの人らが傀儡でなくても結果でるわけないのにさ」


「それで、もうこれは私が出るしかないって、私なら足手まといいないほうが勝てるって……過信してた、全能感っていうか、あの魔眼がある自分は無敵だって思ってた。私は英雄の再来なんだから、この剣だってあるんだからって……ほんとに、馬鹿らしい」

「………。今、ガルザスやジェフティたちが、どこで何をしているかは、分かりますか」

「ガルザスは、もうここしばらくずっと、王宮に籠もってると思う。ジェフティは動き回ってるっぽくて、時々王宮近くで見かけたけど、何をやってるかは分からない。ヤーンは、戦争の準備してる」


「戦争?」

「そろそろ、お姫様たちが攻めてくるから、迎撃しないといけないってさ。ガルザスが操ってない兵士たちにも戦わせるために色々やることがいっぱいあるって。物資とかもそれで溜め込んでて、回してくれなかった」

「なるほど……」


 後は質問しても、大した情報はなかった。結局は、ガルザス、ジェフティ、そしてヤーンを何とかしないことには、終わらないのだ。


「……これから、私はどうなるのかな……?」

「あんたはとりあえず私が預からせてもらうよ」 

「……あんたは何者? 凄く強かったけど……」

「私はファスファラスの騎士さ……マシバや、クロウヤードの一族も知らないわけじゃない」

「!」


「あんたの魔眼は、同じ世代には最大でも2人までしかでない代物だ。そして、今の『現役』のファスファラスの魔人には、その魔眼の持ち主はいない。外に出た血族に発現したと大公家の誰かが知ったら、あんたをファスファラスに連れていって、封印処置しようとするだろうさ」

「封印処置?」

「目を抉って、眠らせるのさ。そして目は誰かに移植しちまうだろう。魔眼はそうやっても機能するからね」

「……なっ」

「それを避けるためには、あんたを議長預かりにして、身柄を公開しつつ、自力で自分の身を守れるようにならないといかん」

「議長……って」


 またアンセムが驚愕している。君にはその役割しかないのか。


「……ラヴィーネ議長ですか?」

「そうだね、あの人に頼まんといかんだろう」



  「どっかで聞いたことがある名前ですね……」

  「ラヴィーネはファスファラス元老院における、陛下の代行者よ。護法官かつ護法騎士じゃ」



「伝説の存在じゃないですか……実在してたんですか? 会ったことあるんですか?」

「普通に普段から街中歩いてるよあの人。というかたまに北方大陸にもいる」

「えええ!?」

「向こうの騎士を長くやってれば、知り合いにはなる人さ。あの人にしごかれて、自分を守れるよう磨くしかないね。さもないと、さっき言った通り、捕まって目を抉られて、抉られた目が使われるたびに、魂が削られるような、もう無いはずの目を再び抉られる苦痛に苛まれつつ、それなのに起きることの出来ない悪夢を見続けることになる………らしいよ」



  「さすが経験者は言うことが違うの」


 ……うわあああ……やめてえ、体ないのに目が痛い気分になってくるうう……。



「………正直よくわかってないけれど、お願いします」

「あとは何かあるかい?」

「……私に、もうそんな資格ないのかもしれないけどさ。メルキスタンの店に戻って、せめて、片付けして……トミーを弔わなきゃって……でも遺体がどうなったかも、覚えてないんだ……」

「事態が片付いたら、私のほうで調べてやるさ」

「……お願いします」


 そうして、その日のうちにリディアは、エルシィさんがどこかに連れて行き、私達は二度と彼女に会うことはなかった。


 ジェフティとガルザスがいなかったら、彼女もこんなことにはならなかっただろうに……。


 さて、これで懸案事項の大半は解決した。

 いよいよ、王都解放戦の始まりである。


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