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~ 双王伝説 ~

前日と同じように晴天の青空の下、旅装束から動きやすい軽装に着替えたイーグは不機嫌そうにリャブリャハの街を歩いていた。そんなイーグの後ろをシャンテとハバリが居心地悪そうに歩いていた。


「わ、若様? まだ機嫌治してくれないんですか?」


「主人を差し置いて夕飯を食べるような従者と話す舌は持たん」


「いい加減に機嫌治してくださいよ。今朝の朝食だって美味しかったじゃないですか」


「ああ、とても美味しかったよ。きっと昨日の夕飯も同じくらいに美味しかったのだろうと思うと余計にな」


 シャンテは自分の発言が火に油を注ぐようなことだったことに顔を引き攣らせた。


 イーグが不機嫌な理由は単純明快であり、昨夜、宿屋ノーズノーで出された夕食を寝ていたせいで食べれなかったというただそれだけの理由だった。。


「私達は起こしたんですよ。ねぇ、ハバリ」


「は、はい、夕飯の時間なので起こしに行きましたら、若様はそれより眠いから寝ると言われまして」


「言った記憶はない」


 きっぱりと否定するイーグにシャンテとハバリはそれ以上言葉が出なかった。近年頑固さが増しているイーグにこれ以上口答えをしても認めないことは分かっていた。


「あんまりシャンテさん達を困らせたら駄目ですよ」


 三人の前を先導するように歩いていたケイが振り返った。今日、街を観光すると伝えるとケイが観光ガイド役を買って出たためイーグ達は二つ返事でケイに頼むことにした。


「二人共、イーグさんが心配だったのか交代で夕食を食べ終えるとイーグさんの部屋の前に行っていたんですから」


「そうなのか?」


 イーグが聞くとシャンテ達は頷いた


「はい、思った以上にお疲れのようでしたから、夜に急な体調の変化があったらと心配だったので」


「お年なのですからもう少し自分のお体を大事に」


「お年?」


 ケイがハバリの発言に首を傾げた。


「若いからって無茶はできないってことよね!」


 ハバリの失言に慌ててフォローを入れた後、シャンテはハバリの脇を肘で突きながら非難の視線を向けた。


「すまん」


「気を付けなさいよ」


 ハバリが頭を下げると兜が落ちそうになり慌てて抑え付けた。


「お前達が心配してくれた気持ちはありがたい。今回ばかりはその気持ちに応えるとしよう。いつまでも怒っているのも子供っぽいしな」


「ようやく機嫌を直してくれましたか、若様」


「今回だけだ。次は俺が何を言ったとしても起こせ。多少手荒なことをしても構わん」


「構わないと言われましても我らに決してできないのですが……」


「エロいことならしてもいいですよ」


「すまん、やはり今の発言は取り消す」


 すり寄ってきたシャンテを押し返しながらイーグは発言を取り消した。


「さて、皆さんが楽しく会話をしているうちに最初の目的地に着きましたよ!」


 イーグ達が周囲を見渡すと広場に到着していた。そしてご機嫌な口調でケイが指差した先には人族と魔族、二人の青年の銅像が立っていた。銅像の足元には題名として双王友情の象と記されたプレートが置かれていた。


「ここが二人の王が友情を誓い合ったと言われている場所なんです。二人の王が剣を合わせて友情を誓い合う像は集合場所の目印としても使われるんですよ」


「使われてるって言われても周囲に私達以外ほとんど人がいないんだけど」


 人がいないせいかシャンテの高い声がよく周囲に響いた。


「そ、そうですね。今はクリアンテ・パラスへ行く人がほとんどで……集合場所としてもクリアンテ・パラス以上の目印はないのでここはあまり使われていないのは実情です」


 ケイは残念そうに視線を巨大な建物であるクリアンテ・パラスへと向ける。


「せめて大通り沿いで友情を誓い合ってくれていれば今でも使われることが多いんでしょうけど、ここはちょっと大通りから離れた場所にありますからね」


「そもそもさ、その話、本当なの?」


 シャンテは疑惑の目をケイに向けるがケイは公然とした態度で答えた。


「本当ですよ! 観光パンフレットにはもちろんですけど、双王伝説にも載ってますし!」


「ケイ、あんたその双王伝説の話になると急に口調の勢い変わるわね」


「それだけ好きなんだろうさ」


 かつての自分と親友アルナの姿を思い浮かべて懐かしむような表情を浮かべていたイーグだったが、何かに気付き首を傾げた。


「ケイさん、ちょっといいか」


「どうしました?」


「二人の王が持っている剣だが、アレはバラウグラスとリヴァンテインだろう? この街にいる時点では持ってない剣がどうして銅像にあるんだ?」


「ああ、それに気付いちゃいますか」


 ケイは視線をイーグの疑問の観点である二人の王の銅像が持つ剣へと送った。


 【神滅の覇王アルナ・タイオン】が持つ剣、バラウグラス。【七天八海の征服王イートグリフ・マインシタン】が持つ剣、リヴァンテイン。この二つの剣はかつて世界の海と空を支配していた竜が<神>を倒すために双王達に与えた剣と伝説に記されている。


 リヴァンテインは海を支配していた竜達の力が注ぎ込まれており、真っ直ぐに伸びた太く青々とした両刃の刀身、柄の部分は竜の頭部の彫刻と海龍の尾びれが装飾されていた。対するバラウグラスは空を支配していた竜達の力が注ぎ込まれている剣であり、反りがある片刃の剣で、その刀身はまるで炎のように赤く染まっていた。柄の部分にはリヴァンテイン同様に竜の頭部の彫刻と竜の羽の装飾がされていた。


 二つの剣は王達が旅の中で手に入れた剣であり、王達がリャブリャハにいる時点では持っていないはずの剣であった。


「私個人としては建てるなら歴史通りの銅像がいいんですけど……」


「人を集めるためにはより象徴的な銅像がいいか」


「はい、そういうことです」


 イーグの言葉にケイが声のトーンを落としながら答えた。


「他にも個人的に言いたいことがあるんです。この像は若い頃のお二人を忠実に再現したと言われてますけど、私的にアルナ様の方が筋肉があるイメージで逆にイートグリフ様は痩せているイメージがあるんですよね。だってこの頃のお話ですとアルナ様は剣の一振りで大木を切り倒したとかありますし、イートグリフ様はアルナ様の怪力に驚いたとも書いていましたから」


「そんなことあったか? 覚えていない」


「ちゃんと書いてありますよ。双王物語の第一章の二百三十七頁に」


 疑問に首を傾げるイーグに対してケイは鞄に入れて持ち歩いていた双王伝説を取り出してその記述がある頁を開いて見せた。


「いや、本に書いてあることじゃなくて……いや、そうだな。俺の記憶違いかもしれん」


 ケイは自分の言ったことが正しいと証明されると満足そうに笑みを浮かべた。


「王の像は他にもあるのかい?」


「はい、ありますよ。街の入り口とクリアンテ・パラスの正面玄関。小さいだったら街角の至る所に」


「街の入り口? 昨日は通った時にはなかったような気がするが」


「入り口の銅像は今補修中なんです。少し前にあった騒動で壊れてしまったので」


 ケイは口ごもりながら視線を横にずらした。


「騒動?」


 イーグはケイが思い出したくない騒動であることを察しながらもつい聞いてしまった。


「大したことじゃないんです。乱暴な人達がいてその人達が暴れた時に壊れてしまったというだけで」


「偉大なる王の銅像を壊すとはなんと不敬な!!」


 ハバリが拳を振り上げて怒った。


「びっくりするから急に大声出すんじゃないわよ、ハバリ」


「す、すまん。つい衝動が抑えきれず。で、ケイ殿。銅像を壊した奴らは相応なる処罰を受けたのだろう?」


「相応かどうかは分かりませんけど捕まってますよ」


「うむ、当然であるな。銅像とはいえ王を傷つけるなど万死に値する行為なのだから」


「落ち着け、ハバリ。たかが銅像だ。そこまでの罪はない」


 興奮するハバリを落ち着かせようとイーグはハバリの鎧を軽く叩いた。


「は、はい、申し訳ありません」


「ハバリさんも双王様達のことが好きなんですね」


 ケイはハバリが自分と同じように双王のことを好きな同じ趣味を持つ人だと感じて目を輝かせた。


「当然のことです。騎士として使えるならば双王様のような方と幼き日に心に決めていましたので」


「分かります! 双王様達と旅をする仲間達が誰もが本当に楽しそうで羨ましかったですもの! もし私がその時代に生きていて双王様達の旅に着いていったらってよく妄想してます。灼熱の大地サラスンド、騒乱の国リアリアン! ああ、私がいたらきっとこんなことをしていただろう。双王様に助けられたり、逆にお力になれたりしただろうって」


 突然、ケイは腰から剣を抜き放つような動作をして手を空へ掲げた。


「解放! コード・ルイーズっ!! アルナとイートグリフ、二人が放った言葉と共にバラウグラスとリヴァンテインに秘められた天と海の竜の力が竜の咆哮と共に解放され、振るう一刀で迫りくる<神>の軍団を吹き飛ばした」


 ポーズを決めて叫んだケイは物語の一節を語った。


「私、双王伝説のこのシーン好きなんですよ!!」


「へ、へぇ~」


 熱く語るケイの気迫にイーグ達は生返事しか返せなかった。


 さらに双王の話に熱が入り始めたケイをどうにか止めようとイーグがタイミングを計っていると背後に豪華な馬車が止まった。

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