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~ いきなり遭難しました ~

 この世界は七つの巨大な山脈によって八つの陸地、そして海に分断されていた。分断された地ではそれぞれ独特な特徴を持つ国々が建国され、各地で住む人の人種、文化は国の数ほど存在した。だが、一つだけ共通している事があった。


 それは世界の支配者、<神>の存在であった。


 <神>は世界に存在する全ての生命を生み出した父として母として全ての国の種族、人族も魔族も獣人族、エルフもドワーフも全ての種族が<神>を崇めて讃えていた。


 <神>は確かに生命を生み出していたが、気まぐれに生命を奪ってもいた。<神>の意志で唐突に訪れる死を全ての種族は自然な事として受け入れて過ごしてきた。


 だが、その<神>の意志に異議を唱える二人の若者が現れた。若者達は各地で自分達と同じ志を持つ者達を集い、長い年月と多くの犠牲を出しながらもついに<神>を打倒した。


 二人はそれぞれ【神滅の覇王アルナ・タイオン】と【七天八海の征服王イートグリフ・マインシタン】と呼ばれ、その名前と名声を世界に轟かせた。


 <神>を打倒した二人の王と子孫達は八つに区切られた地方を統治するためにシルグラント王国を建国した。そして双王の名の下、長く平和な時代を始まった。




 <神>が打倒されてから数世紀、双王達の血族達による統治が続くダエタニア歴八四五年。


 八つの地域の中でもっとも温暖な気候で緑豊かな森の広がるイースラント地域は今日も太陽が眩しく輝いて大地を照らしていた。


 陽が照らす舗装された山道を一台の幌馬車が駆けていた。全身に鉄の鎧を纏った兵士は手綱を強く握りながら頭を左右の森へ何かを探すように動かしていた。


「ちょっとハバリ! 前を見なさいよ! 事故を起こしたらどうするの!?」


 ハバリと呼ばれた兵士が前をあまり見ていないことを叱咤する女性の声がカーテンで仕切られた幌馬車の奥から発せられた。


「すまん。しかし、どこかに若様がいるのでないかと気になって」


「だからって事故を起こしたら元も子もないわ」


 声の主が幌馬車の奥から姿を覗かせた。その姿を横目で見たハバリは思わず手綱を落としそうになり慌てて握りなおした。


「シャ、シャンテ! 貴様、なんという格好をしているのだ!」


 幌馬車の中から姿を現した女性、肩口まで伸びたコバルトグリーンの髪を持つシャンテはその豊満な胸と美しい曲線を描く腰を持つ上半身に何も身に着けていなかった。森の木々の間から降りそそぐ陽光に照らされたシャンテは小ぶりな顔立ちと若干の幼さがあり、豊満な体とのギャップが妖艶さを醸し出していた。


 男性ではあれば誰もが正気ではいられないであろう光景を前にハバリは手綱をしっかりと握りしめると改めて声を荒げた。


「シャンテ、貴様には羞恥心というものがないのか!? 誰かに見られたらどうする!?」


「うるさいわよ、ハバリ。暑いんだからしょうがないでしょ。別に見られて困るような体はしてないわよ」


「そういう問題ではなくてな!」


「それに羞恥心とか言った? 夢魔の、サキュバスの私に対して。そんなもの持っていたらサキュバスやってられないわよ」


 豊満な胸を誇るように天へと突き出すシャンテの体には魔族の一種族であるサキュバスの象徴ともいえる蝙蝠のような翼も長い尻尾もなかった。シャンテが使える主人がお忍びの旅をしている最中であるため、シャンテ自身もサキュバスであるということを隠し、人族と同じ体へと魔法で変装していた。


「分かった、分かったから服を着ろ。それが嫌なら馬車の中に入ってくれ!」


「はいはい、大人しく中に戻るわ。それと時間的にそろそろ追いついてもいい頃でしょ」


「ああ、若様が朝早くに出たとしても馬車の方が早いからな」


「本当はもっと前の宿でゆっくりするはずだったのに……ハバリのせいだからね」


 幌馬車の奥に戻ったシャンテの愚痴に対してハバリは即座に反論する。


「何を言う。吾輩は若様の体調を気遣っただけだ。それにシャンテ、貴様も同意していただろうが」


「それは……」


 正論を言われてシャンテは言葉に詰まる。


「若様も若様で大人げがないのよ! こっちは臣下として心配してあげただけなのに。年寄り扱いするな~って怒っちゃってさ」


「若様は千を超えるお歳。長生きの魔族の中でも高齢であることには間違いはないのだから、落ち着きを持ってほしいものだ」


「屋敷に居た頃は落ち着いてたのにね。久しぶりの旅でテンションが上がっているのよ。きっと」


「昔を思い出しておられるのかもしれんな」


「この辺りも土地勘あると言ってたわよね」


「考えてみれば当たり前だろうな。これから行く場所は始まりの場所なのだからっ!?」


 ハバリは急に手綱を引き、走る馬の足を止めた。急に止まったため幌馬車の奥に居たシャンテが再びカーテンの奥から勢い余って飛び出してきた。飛び出した勢いでハバリの兜がシャンテの胸に押し出されて外れてしまい、地面へと落ちてしまう。


「あっぶないわね! いきなり止まるんじゃないわよ!!」


 怒るシャンテの声をハバリは聞くことができなかった。

 なぜなら兜が外れ、本来ならその場所にあるはずのハバリの頭部が無かったためだ。

 鎧の首から上の部分を風が通り抜けていき、一瞬の間を置いて鎧の内部からハバリの声が響いた。


「わ、吾輩の頭がぁぁぁぁ!! どこだ! どこに行った! 吾輩の頭ぁぁぁ!!」


「うるさいわね。あんたの兜なら馬の左足辺りに落ちてるわよ」


 耳を塞ぎながらシャンテは動揺している頭のないハバリに兜の場所を伝えた。


「おお、あんな所に!」


 ハバリの胴体が兜の方を向き、兜を発見すると安心したように手を叩いた。次にハバリの鎧の中から水色の液体が出てきた。液体は重力に逆らうように円柱の形を保ちながら上へと伸びると今度は兜の方に向かい下降していった。液体はその先端に兜を引っ掻けるとそのまま縮んで兜を本来の位置へと戻した。


「ハバリ、あんたのその体が伸びる姿はいつ見ても卑猥だわ。サキュバス的にオッケーだけど」


「卑猥とはなんだ。全スライム族に対する侮辱だぞ」


 サキュバスのシャンテ同様にハバリも人族でなく、スライム族と呼ばれている魔族であった。

 騎士見習いとして主に仕えているハバリはその身を空洞の鎧の内側に張り付けることで外から見る限りでは人族が鎧を着ているかのように振舞っていた。


「で、なんで急に止まったのよ」


「我が一族への謝罪をして欲しい所だが……止まった原因だったな。これだ」


 ハバリは自身の足元に突き刺さった原因のモノを引き抜きてシャンテに見せた


「矢? 紙が結んであるってことは矢文よね。つまりあの視線恐怖症エルフ?」


「それしかあるまい。シャンテ、読んでみろ」


 シャンテは矢から手紙を取ると一読して顔を強張らせた。


「大変よ、ハバリ」


「どうした、何が書いてある」


「若様が遭難中だって」


「なんだとっ!?」


 ハバリが驚いて立ち上がるとまだきちんと置かれていなかった兜がまた地面に落ちた。


「頭がぁぁぁ!!」


「緊急事態なんだから厄介事を増やすんじゃないわよ!」


「すまんっ!」


 ハバリは慌てて兜を拾うと改めてシャンテに問いかけた。


「それで遭難中とはどういうことだ!? 確かこの道は一本道だと聞いているぞ。迷う道など」


「手紙によると今は使われていない山道を見つけて入っていったそうよ。エルフも追いかけてるみたいだけど、あいつ

若様の前に出れないし、私達が行くしかないわ」


「どちらの方向へ行けばよいのだ!」


「いちいち大声で騒ぐんじゃないわよ。もう少し進んだ所に分かれ道があるらしいから急ぐわよ」


 ハバリは手綱を強く握りなおすとシャンテの声に急かされるように馬を走らせた。

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