観光3
005
ヤバイヤバイ、怒る。これは怒る。
「…ふぅ。はぁ、少々お待ちください。奥様を呼んできます。」
あれ、怒んなかった。流石に騒いだらまずいとか思ったのか?でも、何で、奥様を呼んでくるんだ?俺らに会わせる意味はなんだ?
「奥様。こちらでございます。」
「そう。ここに、ミクレをたぶらかした、奴がいるのね?」
はて、今なんと?たぶらかす?とんでもない。ミクレは、大事な冒険仲間だぞ?
扉の陰から、若い女性が出てきた。鬼の形相で。
さっきの声とのギャップが…
「おい。野郎、ミクレに婚約者がいると知っての事か?それとも、知らなかったと言って、逃げるつもりか?あぁ?」
「「「……」」」
予想外の展開に、三人とも絶句する。
……なんだこの口調は!?これでも、貴族か!?いや、これが貴族なのか…じゃなくて、ミクレに婚約者っていたの!?いや、知らんし!!知っていたらもっと遠慮して接するっての!
「あ、いえ、知りませんでした。すみません。」
何か、謝っちゃったよ!?
「そうか。知らなかったか。」
あ、何か、納得してる。何か、安心。
深鈴も、安堵のため息をつく。
案外あっさりしているんだな。信じてくれたようで何より…
「って、知らないですむと思うなと、言ったばかりであろう!!ミクレは、あれから変わってしまった。食事中の作法の勉強は集中しないし、婚約者様とのお話はどこかのぎこちないし…例え望まぬ結婚だとしても、あからさますぎるであろう!?」
…普通の反応だと思うよ。嫌なものは嫌だ。政略結婚だっけか?例え異世界でも、人権の尊重はされるべきものだ。イコール、様子がおかしくなったのは、俺らのせいじゃなくて、自分らのせいって訳だ。勝手に人のせいにしやがって!
「…ミクレのお母さん…」
深鈴が、ミクレのお母さんを呼ぶ。
「何でしょうかぁ?」
うわ、ムカつく。
「政略結婚は、、、」
「はい、普通ですよねぇ?」
普通じゃないよねぇ?おかしいよ?人権ってものを考えようか?王様に言って、なしにしてもらおうか?
「最低です。」
そう、深鈴が口にした。物凄く、重い言葉。
ミクレのお母さんには、流石に響いたらしく黙り込んでしまった。
「深鈴、流石に今のは…」
「いや、このくらい言わないと、効かない。」
それはそうかもしれないけど…相手を完全否定してしまったら、よけいに状況が悪化するような気がするんだけが。
「…分かった。私は最低だったわ。もう少し、自由でもいいのかもしれないわ。」
意外と効いているのか。
「けれど、あなたたちがミクレを変えたのは確かなのよ?責任をとってちょうだい。」
「そうだな。責任はとる。これからも仲間として、一緒に戦うよ。」
「そう言うことじゃないんだけれど…」
「じゃあ、どう言うこと?」
「ミクレのお母さん。ちょっとこっち!」
そう言って、深鈴は、ミクレのお母さんを家の中へ連れていってしまった。
なんだ?深鈴のやつ、まだ、話途中だったんだけど…
「クククク、」
「ん?ラルギル?」
「いや、鈍感だな。相変わらずの。」
ラルギルにつられて、しかめっ面だった冥土まで笑っている。
どう言うことだ…何で皆して?え、俺は何かやらかしたのか?ん?
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