1、何か妙だ
さて、
どうしたものか・・・。
「正臣く~ん~っ!
あははは、あなたを殺すわっ!」
この声でもうお分かりだろう。
僕は狙われている。
原因はわからない。
普段のように準備をして、
学校に向かおうとした。
すると、
知らない綺麗な女の子に声を掛けられた。
さて、
ここでナンパ男だったり、
イタリア系の紳士だったりしたら、
気の利いた言葉を彼女に言ったのだろう。
・・・けれど、
僕は普通の人・・・。
となれば、答えは簡単です。
「誰ですか?」
「えっ!」
女性は笑顔のまま固まる。
その反応に僕は、
・・・もしかして知り合いで・・・?
などと思い、
思い出そうとするのですが、
どうしても出てこない。
恥を忍んで名前を聞こうと、
「申しわけありません、
名前のヒントなんかを教えてもらっても?」
彼女はひどく絶望した表情をしつつも答えてくれる。
ん?
僕が多少の困惑を覚えていると、
「浅見しおり。」
彼女はぼそっと答える。
まあ、ここまでは普通のはず、
ここから事態が急変する。
「・・・。」
僕は首を振る。
そして、
「悪いけど、人違いでは・・・。」
僕がそう言った瞬間、
ヒュンッ!
・・・ツー・・・。
頬に何かが触れた気がした。
手でそこを触れてみる。
・・・血・・・。
・・・・・・恐る恐る、後ろを振り向く。
・・・すると、
・・・ナイフが壁に突き刺さっていた。
何か嫌な予感がして、
また前を振り向く。
身を屈める。
すると、
シュンッ!
高速でナイフが通り過ぎていくのが見える。
・・・ふむ・・・。
「あっ!
・・・外しちゃった・・・。
残念・・・正臣君にメッてしてあげようとしただけなのに・・・。」
彼女の目は濁り切っていた。
それを見た瞬間、僕は何があったのか全てを悟った。
・・・これは・・・
・・・彼女がやったんですね・・・。
少し悲し気に彼女はそう言う。
「次は外さないよ。」
彼女はどこからかナイフを取り出す。
・・・逃げませんと・・・。
シュンッ!シュンッ!シュンッ!
振り向いたら殺られるでしょうしね・・・。
そして、僕はいつものように学校に向かう。
向かったはずなんだが・・・
暗月病虚学園。
・・・なんでしょうね・・・これは・・・?
「正臣く~ん、待って~あはははは~っ!」
・・・そんな場合じゃなかったのでしたね。
悪いですが、入らせていただきましょう。
僕は逃げるようにそこに入る。
すると、そこには僕と似た制服の・・・
ん?
・・・というか、この制服は?
僕は無意識のうちに着ていた服を見る。
・・・これはっ!?
「まっさ臣く~ん・・・ふふふ・・・あはははは。」
そんな場合ではありませんね・・・。
逃げに逃げまくって、僕はここの無人の教室を選んで入る。
「くっ・・・いったいどんな体力しているんですか・・・。」
僕はこれでも武道なんかをやっていたこともあり、
体力はかなりある方なのですがね・・・。
失笑が漏れる。
すると、
「見い~つけたっ!
あはははは・・・。」
それにしても・・・この笑い声・・・どこかで・・・。
そして、最初に戻る。
「正臣く~ん~っ!
あははは、あなたを殺すわっ!」
・・・殺すって・・・
いつのまに悪化したんでしょうね・・・。
僕は済んでのところを転がり、
ナイフを避ける。
・・・ここはどこかおかしい・・・。
シュンッ!
ナイフが飛んでくるのを避ける。
・・・先ほどまでのことを生徒たちは不自然に思った様子はなかった。
普通に警察沙汰だと言うのに・・・。
「やあっ!」
彼女がナイフを持って僕に突っ込んでくる。
・・・あれをいつものことだというように見ていた・・・。
そして、振るわれる。
シュッ!
僕はそれを避けて、
彼女と距離を取る。
・・・つまり・・・日常風景・・・こんなことは日常茶飯・・・
となると、僕はここでこんなことをしていたことに・・・
・・・存在していたということに・・・。
彼女とにらみ合いになる。
その間にどうにかしてピースを繋げる。
・・・殺す・・・濁った眼・・・
・・・ヤンデレですね。
更に繋げる。
・・・浅見しおり・・・暗月病虚学園・・・制服・・・
そして最後のピースが目に入る。
・・・ヘカーテちゃん・・・。
どこの誰のカバンだか知らないが、そのストラップが見える。
・・・あっ・・・。
ある一つの可能性を思いつく。
・・・これって・・・
「もうもうもうっ!
なんでっ!なんで、正臣君を殺せないのっ!
もういやっ!」
彼女は最後のナイフを投げつけ、
僕はそれを避ける。
・・・これで彼女はもうナイフを投げてくることはない。
僕の予想が確かなら・・・。
「あれっ?
もう99本投げ終わっちゃったの?」
・・・やっぱり・・・
ありえないことだと予想から除外していた。
・・・浅見しおり、ヘカーテちゃん、暗月病虚学園・・・。
・・・ここはヤミツキの世界・・・。
・・・つまり・・・恋愛ゲームの世界だ・・・。