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第17話 遺跡と墓守と王子と墓荒らし


「あのクソジジイが最近になって国をどうこう騒ぎはじめたのも、兵隊より早く墓ドロボウに入ったのも、ハンサム隊長さんがそそのかしていたらしいんだよ」


 裁判もなしに撃ち殺されそうな話にまでお手軽に巻きこみやがった。

 石工はおわびを煎り豆の追加で済ませようとする。食うけど。


「むう……王様の子が、できのいい頭を少し使って、小銭をちょろまかしているだけだろ? 王様やほかのおえらいさんがやってる盗みや殺しにくらべたら、かわいいもんじゃねえか……そうだろ?」


「上品な人だよな。むしろあのハンサム様は欲が薄そうだから怖い。言葉をいろいろ使えるから異国への使いにもよく出されていて、革命を起こした白人の国でも見聞きしてきたわけだし。それに王様の従姉妹とかいう金持ちババアにも気に入られている。そのババアの親は、前の王様の弟で、国を独立させた時の資金を一番多く出しているから一族でも大物だ。そうなると……まあ、その……」


 知っている顔がどんどん不穏な形でつながっていく。

 これではまるでオレが……


「……アラババ先生の秘術も、ハンサムさんと友達の白人連中から教わった異国の技術じゃないのか?」


「ちがう、ちがう。ハンサムさんには治療の礼を届けてもらっただけ。ましてクソジジイの政治ごっことは何の関係もないし、関わりたくもない」


「そ、そうか……アラババ先生はあのクソジジイを嫌っていたから、おかしいとは思っていたけど……」


 石工は不安そうにすがるように、オレを探り続けている……どんな言葉をほしがっているんだ?


「……でも最近、あのジジイといっしょに町へ降りていく村のやつらが増えてんだ。貧乏人だけでなく、兵隊や金持ちにも仲間が増えているとか、弟や叔父からも聞いて……」


「おいまさか……みんなから仲間に誘われてとまどって、探りを入れるためにオレを呼んだのか?」


 変な笑顔で目をそらされたけど笑えねえよ。


「だって、あおっているのがなにせ、あのうさんくさいジジイだろ? なんでみんな話を聞きたがるのか、わけがわからなくて。アラババ先生だったら、みもふたもないわかりやすさで教えてくれる気がしたんだ」


「腹が減ってまともに考えられなくなってんだろ? それで本当に国がどうこうなったら貧乏人を増やしすぎた王様の自業自得だろうけど。オレはそんなもんに巻きこまれちゃたまんねえよ。うまく逃げまわって自分の得になることだけやらねえと」


「うわ。本当にみもふたもねえな……でも安心できた。そうだよな……」


 話の通じる相手だったので、オレも少し安心した。

 でもこの様子だと、そうでもない連中がよほど増えているらしい。



 カニカマがズルリと合図をよこして話したがっていたので、便所を借りておく。


「アラババ。この村には見覚えがある。やはり私は、ここの遺跡に閉じこめられて眠っていたらしい。私を『殺戮虫さつりくむし』と呼んで使っていた男がどうなったかはわからないが、かなり財力のある家柄だったことは記憶に残っている」


「なんでカニカマを閉じこめて……それにどうやって閉じこめることができたんだ? いや、言いたくなければ聞かないけど」


「貴君の配慮に感謝したい。しかし方法に関しては私も記憶にない。気がつけば閉じこめられている状態だった。そして病気への耐性を九百体ぶん集めておきながら、水分不足で次々と壊れていった残念さばかりが強く残っている」


 それで人間をうらんでいないなら、わりと寛大なのか?

 ……でも九百人か。ずいぶん殺しているけど、戦争や飢餓だと千とか万とかいう死人の数も聞くから、多いのかどうか、よくわからない数字だな? いや、多いのだけど。


「私がこの地を選んだ理由が、かつて私が親に連れられて最初の地上行動をして、はじめて人間の味を知った地であることもおぼえている」


 人間を食いに来た家族旅行を楽しい思い出みたいに人間のオレに語られても困る。


「かつて私の親が効率の良い協力者を得た地でもある。その子孫には我々の生態についても伝えられていたようだ。私たちを人体から分離する手段も研究されていたのかもしれない」


 オレが寝ている間は黒ランプの接続部分をのばしてくれるから、斧とかでぶった切りやすいかも……遺跡の石扉を落としたら、切断だけでなく閉じこめも同時にできるか?

 でもなるべく、そんな裏切りはしたくねえなあ?


「私を閉じこめた理由については……それ以前に学んだ言語から修正し、五十年前の言語に整えた際、その期間の短さを警戒された様子だった」


「ものおぼえがよすぎたか」


 まあたしかに、人間を食う巨大怪物に言葉をどんどんおぼえられたら怖い。

 でもハンサムさんはなんで、そんなにやばいカニカマをオレなんかに持たせて見逃しているんだ?

 まさか本当にオレも仲間あつかいなのか?



 帰りに意識して見回すと、村のやつらの緊張は兵隊に対してだけでなく、誰に対しても『仲間かそうでないやつか』と探る目つきが多そうだった。

 どうなってんだよこの村? 町もそのうちこうなるのか?


「アラババ先生も気をつけろよ? オレは貧乏人だからまだいいけど、協力しない金持ちは目の仇にされている」


「たしかにオレは医者先生というだけでも、みんなからは金持ちあつかいか。まだ助手とたいして変わらねえ給料だし、秘術のあれこれは自腹で手間も多いから、楽にはなってねえのにな……」


「オレのツケをガラクタなんかで受けとるくらいだもんなあ?」


 そのガラクタ入りのカゴは、モルジャジャが持ってあさっていたけど、白塗りのでかくて安っぽい指輪を見つけてオレに渡してくる。


「にっちゃ! これアタシがもらっていい!?」


「いいけど……」


「じゃ、ここにはめて! ここ!」


「ん? ……ああ、白人連中のつけかたか」


 モルジャジャの薬指にはぶかぶかの指輪をストンと落としてはめてやる。

 でかくて厚ぼったいから指をまともに動かせない欠陥品だけど、ずいぶんうれしそうだ。


「んへへへ~」


「安い塗料を使ってそうだから、あまり長くつけないほうがいいぞ?」


「ん~、でも今日はもう、このまま~!」


「おいおい、そんなもんつけていたら、まともに助手の仕事をできないだろ? さすがにサボりすぎたから、客がたまってそうだし……」



 街道ではラクダに乗せてもらって、貧乏人横丁へ急ぐ。

 見えてきた病院は外までやたらと人があふれていた。

 油断した。そいつらは患者ではなかった。囲まれる前に気づくべきだった。


「逃がしてはならぬ! その若者も医者だ! 提供すべき資金について学ばせねばならぬ!」


 奥からクソジジイが出てくる……昼前には安く診察してやったのに、あれっぽちの診察費でも逆うらみして仕返しに来やがったか!?

 玄関ではオッサン先生がもみくちゃにされていて、オレを指して叫ぶ。


「あれが病院の院長! 私の師匠だからまちがいない! すごい秘術の評判はみんな知っているでしょ!? だから、たかるならアラババ師匠にして!」


 いつもどおりのクズバカぶりで健康そうだ。




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