第4話 ギルド登録
こんにちは。俺はゼツです。
俺達は世界を滅ぼさないために、世界を滅ぼす元凶を殺すための旅に出発しました。
そこまでは良かったのです。何も問題なかったのです。例え、記憶が無くとも悪い気はしませんでした。特にやることもなし、ならば恩人の手助けをしようと。
しかし……そろそろ我慢なりませんね。
「そろそろいいんじゃないか? 諦め
「「できないよ!」」
二人揃って反論ですか、そうですか。
「ミシェルも黒咲もどっからどう見ても未成年だからな?」
◇
時はガビューを旅立ってから2日後に遡る。
ガビューから歩き続け、次の街には半日で辿り着いた。そこはガビューとは対極の街、ハンカだった。
第9層で最も栄え、最も没落するものが多い街だそうだ。
そこには俺達が初めにしなければならない目的に必須の施設もあった。
「俺達はまずギルドを作らなければならない」
これが目的だ。そのためにはギルドの登録などを管理するレギオンという組織の施設が必要だった。
俺達がギルドを作らなければならない理由は2つ。
まず1つ目、個人では何事にも限界がある。
ギルドとして登録するからこその利益は多い。さらに、他のギルドと同盟を締結することと、個人で雇われるのには大きな差がある。
2つ目、金が無い。
俺達は全く金がない。そこでレギオンに登録し、レギオンに舞い込んできた依頼を解決することで報酬が貰える。
レギオンに依頼を申し込むにもギルド名と個人名では大きな差がある。また、依頼を解決することで他のギルドとも交流を得られる。
最終目的の『原罪の悪』の情報収集も基本はレギオンからになるだろう。
幸いハンカに入ってすぐにレギオンは見つけられた。
「ギルド登録をお願いします」
「ではここに初期人数とギルド名をお書き下さい。また、登録料は100000ミルになっております」
「……登録料?」
「はい。無ければレギオンからの貸出ということで、依頼料から差し引かせて頂きます」
ガネーシャという神様が多国の金の制度を全て廃止し、ミルという単位に揃えたらしい。
因みにミルと円はほぼ同価値である。
「そ、それでお願いします」
「分かりました」
いきなり借金を負う羽目になってしまったが仕方がない。10万ミルなんて、なんて、すぐに返せるはずだ。
……人生初の借金に精神がすり減らされた。
「ギルド名か」
「こちらは必須条件となっております。また、変更には登録料の10倍を頂きますのでそこの所はよろしくお願いします」
適当に書こうとしていたのがバレたのか、厳しめの笑顔で受付嬢が忠告してくれた。
それにしても、ギルド名なんて考えてもいなかったな。
「なぁ、ギルド名って何がいい?」
「そうね……撲滅団とかは?」
「なしだ」
お、おう、ゼツによる即却下。お前、そこにこだわりとかあるのか?
「俺達を示す文字列にするべきだ」
「例えばどんな?」
「そうだな、神悪滅死救世者とか?」
「却下だよ!」
とにかくゼツにネーミングセンスがないのは分かった。
だが、ゼツが言ってることは分かるんだよな。
最終目的と関連付けるのは難しいか……、なら俺達が外から来たということを表すのはどうだ?
「……『無罪の王冠』。これはどうだ?」
「ゼツ……お前、ネーミングセンスあったのか?」
あれやこれやと考えている間にゼツが素晴らしいものを生み出してくれた。
確かに俺達は無罪だ。
その無罪という王冠を求めて旅立った。
「よし、これで」
「問題ありません。では、ギルド『無罪の王冠』のギルドマスターはここに手を置いてください。ここに霊格による全ての権能が表示、登録されますが、決して悪用目的ではありません。情報漏洩を許さぬ体制で保管させて頂きます」
「分かりました」
1枚のプレートに右手を置くと、プレートに文字が刻まれ始めた。その速度は中々のもので元の世界では見ることが出来なかった神秘に触れ、純粋に感動していたのだ。
(熱くなってきたが、大丈夫かこれ?)
こう感じ始めたのは文字がプレートの半分を超えた所あたりだった。
「す、凄い方なのですか?」
「いや、どうでしょう? 自分でもわかりまっ、熱っ!?」
「大丈夫ですか!? プレートのエラー!? いえ、貴方の権能が……。申し訳ございません、こちらのプレートでは貴方の権能を刻みきれないようです。申し訳ございませんが、他の方では駄目ですか?」
「別に構いませんよ、黒咲。この人に従っておいてくれ。俺は手を冷やしてくるよ」
権能が何だかは正直理解しきれていない。まあ、俺がギルドマスターにならなければならない理由はないし、別に黒咲に任せても問題ないだろう。
……3分後、水道で右手を冷やしている俺の横に黒咲が手を真っ赤にしてやって来た。
「私もダメじゃないの!!」
……更に3分後、水道の列に3人目が現れた。
「俺もダメだった」
全滅である。
「至急本部に問い合わせておりますので少々お待ちください。誠に申し訳ございません」
「……はい」
不幸中の幸いか、3人とも右手に怪我などはしていなかったの。
「黒咲も文字が溢れたのか?」
「そうよ、書ききれなかったみたい」
「俺は逆に何も書かれずに、プレートが熱くなり始めた」
全滅……じゃない!
リーフェスはどこ行ったんだ!?
レギオンに入る時には全員いたはずだ。だが、周りにいる気配はない。
「黒咲、受付嬢が何か言ってきたらゼツと一緒に従っておいてくれ。リーフェスが迷子になったみたいだ」
「分かったわ。一人で大丈夫?」
「もちろん。もう見つけてる」
俺が見えない訳がないだろ。
「ハンカも所詮は第9層か。舐めたマネをしてくれたもんだ」