第3話 旅立ち
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「まずこの箱庭は第9層から第1層まである。第2層と第1層は神軍が在中していることがほとんどだな。俺達はこの箱庭の中で『原罪の悪』を見つけて殺すのが目的なわけだ」
「そもそも私達をここに連れてきたあいつはどうしてるのかしら?」
「あいつって誰だ?」
ゼツは記憶喪失らしいのだが、本当に外から来たのかは分からない。そこら辺の確認が取れないのにも関わらず、黒咲は『大丈夫よ! ゼツは悪いやつじゃないわ!!』と自信満々に言い切っていた。
ひとまず、その謎の自信を信じて仲間として迎え入れた訳だ。
それにしても、あいつのことまで忘れているとは。
「あいつってのは、俺たちをこの箱庭に連れてきた自称神様ってやつだよ。名前はヘルメスだったっけ?」
「ええそうよ、あいつは私を1度殺して、その理由が『救世の敵』?なんてことを言い始めたのが始まりね」
「つまり、ヘルメスはお前達の敵?」
「「分からない(わ)」」
殺されたのは紛れもない事実であり、憎むべき理由としては余りある。しかし、ヘルメスがいなければ元の世界を殺していたのかもしれないのだ。
そもそも世界を守るために俺たちをここに連れてくるよりも、俺たちを殺したままにしておいた方が良かったはずだ。
「ヘルメスのことは今は放置していても問題ないだろう。それよりも、まずは第9層を突破することだな」
「突破って、普通にゲートを通れば上に行けるんじゃないの?」
「だといいんだがな。まず、身分証もない俺達は一時的だとしても拘束されるな。で、追い返されるのがオチだ」
「誰によ? ゲートの前には門番でもいるの?」
ここら辺は全て見たことから得た知識だが、黒咲は情報収集もしていなかったのか。リーフェスはなんの為にいるのやら。
「そういう事だ。階層支配者、ほとんどがギルドだが、そいつらがゲートの管理を任されている」
「誰によ?」
「は? それも知らないのか……」
「悪かったわね! で、誰になのよ!? 勿体ぶらずに教えなさい」
「唯お姉ちゃん、誰じゃないよ」
ほら、リーフェスも聞くに耐えなくなったのか、遂に口を開いたぞ。
ここの店の主人もここに居るのが辛くなったのか、表から出ていった。
「人じゃなくて聖杯。聖杯っていう聖遺物だよ」
「せいいぶつ? って何?」
「箱庭が造られて、すぐにその主権を手に入れるために戦争が起こったの。それが聖戦、神話の再現とも言われているよ!」
「で、その戦争で神の力が付与された道具が沢山生み出された。それが聖遺物だ」
結局、聖戦じゃ決着がつかなかったから今みたいな停戦状態になっている。それこそ、聖戦がまた開始されたら、ここに集まるいくつの可能性が消え去るのかは想像もつかない。
「結論は? 聖杯を奪えばいいの?」
「そうだ。ここは弱肉強食だな。抗争と言われるが、その聖杯を奪ってしまえば俺達が階層支配者。この第9層を支配できるってことだな」
理屈としては簡単単純。これが難しくなければあちらこちらで抗争が起こっていることだろう。
「ここの階層支配者は誰なの? さっさと聖杯を奪いに行きましょう」
「待て待て、そう簡単じゃないんだよ。第7層から第9層の階層支配者は『豊穣の守人』というギルドだ。第9層を突破すると同時に第7層と第8層の『豊穣の守人』を敵に回す事になるんだ」
世界を滅ぼすレベルの霊格を持つものは第5層くらいからしかいないそうだが、情報は大切だ。
階層支配者と敵対せずとも、第7層に到達できるかどうかも分からない現状で敵を増やしたくはない。
まず、第5層くらいからという情報もヘルメスからの情報だ。信用できるかどうかは分からない。
「よって、普通に頭を下げて通してもらうしかない訳だ。その際にどんな理不尽な要求をされるかは分からない」
「その時は殺っちゃっていいんだよね?」
「ダメだ! その時に考える。出来るだけ敵対したくない」
『豊穣の守人』がどの程度の勢力かも分かっていない現状で対立など怖くて出来はしない。
それに、杞憂であればいいのだが、『豊穣』と聞くとどうしても豊穣神フレイヤ辺りが関係しているのではないかと考えてしまう。
神との対決など命が幾つあっても足りないだろう。
「とりあえずはその『豊穣の守人』が門番を務めるゲートまで行くのが目的でいいのか?」
「そうだな。だが、俺もその場所は知らない」
「あっ、私知ってます! 案内します!」
リーフェスは自分の役目を見つけられたようで嬉しそうだ。
そろそろ出発するか。とりあえずガビューからは早めに旅立ちたい。ここにいても何も利益はうまないからな。
「どうやら、大勢のお客さんのようだな」
「どういうこと?」
ドアの向こうに複数の気配がある。出て行ったここの店の主人がゴロツキを集めてきたのだろうか。
確かに格好でここの住人ではないことは分かるからな。
「何、そろそろ出て行ってくれだとさ」
「そういうこと。なら、ここに長居する必要も無いわね」
「おい、何をやる気満々になっているか知らないが、手を出したら怒るからな?」
「なんでよ? 向こうがやる気なんでしょ?」
はぁ、お前がやったらケガじゃすまなくなるっていうのが分からないのか?
能力的に力加減が難しいのは、さっきの路地裏でのやり取りで分かったよ。1時間くらい気絶したままだったぞ。
「他所もんが、いいもん着てんじゃねぇか! 痛い目見たくなけりゃ全部置いてけや」
「民を税で押し付け、自由奔放に浪費するその生き様は、ある種の威光として強い力を宿した。それ故に、俺はこの名において命ずる、『這いつくばりながら地面を舐めろ』」
「何言ってやがんっ!?」
威光、力の内容は圧政。命令権と言った所だ。もちろん、俺の霊格にそういった過去が含まれていたから、このような力が行使できる。
下卑た笑みを浮かべていた男達も、今では悔しさ半分、恐れ半分といった様子で地面を舐めている。
「それじゃ、旅立ちといくか」
血を見るのは嫌いだ。
だからって弱肉強食主義のここで弱者になる気はない。
ここから必ず、成り上がる。