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時代のための箱庭戦争   作者: ミハ
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第1話 出逢い

 全てを創世した一柱。

 その存在を定義する上において重要なのは()()()()()()()()()()()()()()という点だろう。

 そして数多の神々は一つの結論に至った。


『未だ世界は不完全であり創世というには程遠い』

『ならば過去、現在、未来、すべての可能性を孕んだ世界を創世する』

『創り終えれば協調など不必要、奪い合うまで』


 ーーーーーーどうせ真の創世神など我しかありえないのだから


 そのような経緯などいざ知らず、世界は一つにまとめられ、幼き仔羊達は産み落とされた。


 しかし神々の意思とはかけ離れた、人間の言葉で表すとしたら量子力学が近いだろうか。

 可能性全てを一つの存在に定義し直したのだ。人類史に名を刻んだ者が持つ可能性の力など果てしなく大きい。


 簡潔に結論を述べるとしよう。

 いわゆる超次元存在がうまれたのだ。


 科学の世界で存在する悪魔は同名の少年を自らの化身と定義し、世界に現れた。

 強靭な体を持つ生物を星丸ごと滅ぼそうとした隕石は同調した生物に乗り移り、世界に現れた。


 そんな神々の箱庭で未来の運命に拘束された少年少女がその未来を回避するための物語。



 そんな壊れた(?)世界の果て地、最下層第9層。

 その貧民街で1人の娼女が暴漢に襲われていた。


 説明は不要かもしれないが一応しておこう。

 娼女は自分の体で相手を奉仕し、その代金を主な収入とする者だ。

 流石は最下層、屑ばかりだ。


 見つけたとしても無視。あろう事か参加しようとするものまでいる始末だ。


 ここは最下層の中でもその果て。この世界で最も治安が悪い地域、ガビュー。


「ちょっと! 止めなさいよ!全く、何が異世界よ。あの自称神のクソ野郎め、元の世界と変わらないじゃない。何してるの? そんな幼女に群がる暇があるなら少しでも働けば?」

「チッ! 余所者が! お前もここにいる時点で負け犬じゃねぇか!!」

「~っ!だから言ってるじゃない!! ここからのし上がるためにここに居るのよッ!」


 ドゴッと人の体からしてはいけない音がした。

 3人いた男の内1人が吹き飛ばされ、烏が止まっていたゴミ箱にめり込んでくたばった。


「やりやがっ、ひっ! 化け物か?!」

「失礼ね! 貴方達とは格が違うのよ、霊格の重みがね!」


 習いたて、意味も深くは理解出来ていない『霊格』という言葉を使って脅してみた。

 私の頭上には2つの巨拳が浮かんでいることだろう。ゴミ箱の上にくたばっている男を殴ったのもこの拳だ。


「くそっ! 覚えてろよ!」

「そっちこそね~」


 2人の男が伸びたままの男の方を一瞥してそのまま捨てて逃げていった。別の路地裏に入っていく前に恨めしそうに私を睨んで消えた。

 そのことを確認して一息吐いて少女の方に向き直る。


「大丈夫だった? 怪我はしてない?」

「綺麗な黒色の髪の毛、次のお客さんは、あなた? こっちよ」

「あっ、ちょっと!?」


 完全に気を抜いていた状態で手を引かれるとおっとっとと体がよろける。

 ……そうでしょそうでしょ、私の髪は黒くて綺麗でしょ?


「私、女の人って初めてだけど、頑張るね!」

「えっ? ちょっ、ちょっと待って、ほんとに、わた、私も初めてだから~~っ!」


 無邪気なセリフととは裏腹に幼いながらも妖艶な雰囲気を醸し出すように舌なめずりをして、服を脱ぎ始めた。


「わ、私の貞操の危機なのかしら???!」


 いきなりのこと過ぎて頭と身体が連動してくれない。


「優しくするからね、お姉ちゃん」

「……はい」


 何赤面して『……はい』って何なのよー!


「ん、あっ、んん」


 ………事後


 事後とは……つまりそういうことなのだ。


「お姉ちゃんはなんでこんな所に? 見た感じここら辺の人じゃないでしょ?」

「私は外から来たのよ。ここに後2人外から来た人がいるみたいで、その2人を探しているの」


 外。それが何を示しているのか、どこを意味しているのか。少なくない差異が2人の間には埋まっていた。

 娼女の幼き少女の頭にはこのガビューという底辺の外。

 黒髪が綺麗な女性の頭にはこの神々の箱庭という概念の外。

 それぞれの頭には全く違った意が浮かび上がっていた。


 黒髪が綺麗な女性。そろそろ名前を明かしてもいい頃合いか。


「唯お姉ちゃん、その時が来たら私もついて行っていい?」

「その時?」

「ここから旅立つ時だよ。いつまでもガビューにいる気なんてないでしょう?」

「……そうね。でも、私達の目的にあなたを巻き込むわけにはいかないの。だからごめんなさい」


 唯お姉ちゃんと呼ばれ少し照れて頬を仄かに赤く染めた黒髪が綺麗な女性。

 黒咲唯。

 本名、黒咲・ゴエティア・クロウリー・唯。

 彼女の家系は存在しないはずの可能性だ。


 近世のグリモワール『ゴエティア』の呪いを己の血に取り込んだとある魔術師。あくまで時代の裏に蠢く闇の中で一生を遂げた傑物と呼ばれる天才。

 アレイスター・クロウリー。どこの時代でも生存の可能性が1%未満で必ず存在するという表の歴史に名を残した魔術師。その儀式には麻薬や性行為を利用したものが多く、その際に子供が出来ていたという架空の伝承。


 その2つの血が混ざり合うことなど到底有り得ないはずだが、そのバランスを保ち、一つの体で受け入れた存在。

 それが彼女、黒咲・ゴエティア・クロウリー・唯だ。


 僕に見えるのはそこまで。彼女の真髄までは覗けない。


 正体明かしも終わってしまって、すべきことはもうやり終えた。


「そろそろ語り部を降りさせて貰いたいね」


 だが、まだ彼女が僕に気づく気配はない。


 舞台から降りることは叶わず、ならば登るしかないだろう。と即決できる思考の持ち主だからこそ俺は危険なのらしい。


 おっと、最後の『救世の敵』がやってきたようだ。


 黒咲唯、俺ことミシェル・ラヴクラフト、そして今、黒咲唯が娼女と出会った場所に最後の一人が訪れた。


「大丈夫かあんた? 意識もねぇのか?」

「ん? はっ!? 俺は確か、くそあの女め」

「事情はわからねぇけど、怪我してねぇなら要はないんだ」


 奇しくも黒咲の後始末の現場に現れた一人の男。

 見た目は8歳児なのだが、その少年は白衣を着ていた。

 もちろん、裾は地面を引きずっている。


「みりゃ分かんだろ? 怪我してるんだよ!」

「おっとっと、ここまで治安が悪くなると人間不信になるのも納得はいくが……迷惑されるのとはまた別件だ」


 いきなり8歳児の容姿の少年に殴りかかったことに対する罪悪感などゴミ箱に捨ててきてしまったらしい。

 こうなると武闘派でもない限り8歳児には荷が重い。


「知らねぇよ! 俺はムカついてんだ、大人しく八つ当たりされとけ!」

「それこそ知らねぇな。材料は空気、成果物は毒霧。追撃する、材料は毒霧、成果物は空気。なぁに、殺しはしない」


 八つ当たり野郎は頭に血が上ってか話をろくに聞かず、8歳児に向かって突っ込んで行った。

 しかし、いつまで待っても八つ当たり野郎は8歳児の元にたどり着くことは無かった。


 彼らの間にあった空気が毒霧になって八つ当たり野郎の行く手を防いだ。

 しかし、八つ当たり野郎はそれを気にすることも無く突き進もうとしたが、その毒霧を吸い込んだ途端に、膝から崩れ落ちた。


 白目を剥き、口からはダラダラと涎が垂れ流しになっている。生きているのかどうか怪しい状態だ。


 八つ当たり野郎を苦しめた毒霧は既に元通りに戻って、地面に倒れた八つ当たり野郎と白衣の8歳児が立っているだけだった。


「お前の体内を蝕みかけた毒素は既に空気へと変わっている。ショックで気を失ったようだが、なぁに、気絶しているところをほかの連中が襲ってこない限りは死なないさ」


 メガネを外すまでもないな、とでも言いたげにメガネをクイッと押して整え、路地裏を後にした。


 ◇


「いや、もう1人は怖いな」


 8歳児詐欺師と心の中で呼ばせて頂こう。


 それはともかくこの様子なら直ぐに合流できるだろう。俺もそろそろ黒咲のところを向かうか。


 この箱庭に連れてこられてから既に数時間。ガビューという底辺の街の中で1番高い場所から、この世界を眺めるのもいい加減飽きてきた。


 動く。

 この箱庭でそれぞれの、共通の目的を叶えるために。



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