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まだ仲間にはならない


 一時間余りの災害で、多くの死者が出た。

 

 宗教都市と呼ばれるシル・ルクで寺院が足りなくなることはないが、しばらくは暗い空気に沈む。


 ユーク達は、冒険者ギルドへ場所を移した。

 受付のお姉さんは、『報酬は出せないんだけど、ありがとうね』と、一行に食事を出してくれた。

 もちろん、ギルドの奢りで。


 ユークの目に前には、二人のエルフ族が座っている。

 普通にヒト族と同じものを食べる。


 寒冷地の大型種らしく背が高いが、オークほどがっしりとはしていない。


「そもそもね、僕らはかなり人との混血が進んでるんだよ」と、ミュールは言い訳した。

 ノンダスよりも更に背が高いが、それでもエルフとしては小柄なのだと。


 ティルルと名乗った女エルフも付け加える。

「そうね。私達は、前の氷期で南に来たけど、それから北に戻り忘れた一派なの。このシル・ルクの北西、そこにある島の山岳地帯に住んでるわ」


「島エルフって呼ばれてるかな。島がまとめてエルダリア国だよ」


 何故か、ミュールはにこやかで社交的だった。

 いい男特有の余裕のある態度が、ユークには気に食わない。


「で、何の用でこんなとこに来たんだ?」

 一応、ユークも平和的に聞いた。


「そりゃあもちろん。お嫁さんを探しにさ!」

 ミュールはミグを見ながら、さわやかな笑顔で言い切った。


「あらまあ」とミグがまた照れる。

 その顔を見つめながら、ミュールはさらに続ける。


「我が家に、あのコルキス王国から使いが来たって聞いてね。僕も話に混ぜて貰ったんだよ! その立体映像で見た王女の姿に一目惚れして、ここまで来たってわけさ!」


 これにはミグも悪い気はしない。

「いやですわ、まあそんな……」としなやかに対応する。

 しかし、悪意のまったくない、素朴な疑問といった感じでミュールはいった。


「実際に会うと少し小さい、いや幼いかな?」

 この発言に、ミグの態度まで気に入らないユークが飛びついた。


「そりゃ盛ってるからな、詐欺だよ。あれは」


 ユークの隣に座るミグと、ミュールの隣に座るティルル、二人が同時に横の男どもをぶん殴った。

 何の躊躇も手加減もない、一撃だった。


「おほほ?」

「おほほほほっ!」

 二人の王女は、声を揃えて笑いあった。


 エルダリアは、周囲の人族に合わせて君主制を敷いていた。

 五つの家が順番に持ち回る連合王国の形をとり、ミュールとティルルは二つの家の王子と王女。


 血縁関係でいえば、従兄弟よりも近い。

 時折、外から嫁を取るが、ミグのような人材は願ったりだとティルルが語る。


 それと、「うちの馬鹿がすいません」と謝った。

 ティルルの方が半年ほど歳上で、姉弟のようなものだとも。


「わざわざ来て貰って悪いんだけどね……」とミグが切り出す。


「わたし、祖国に戻るの。居座ってる魔物、みたいなものが居て、戦うと決めたの。勝てばそのまま国に尽くすわ、負ければ母国の土に還るわね」


 ミグは一度話を切って、やっと床から這い起きたユークを横目でちらっと見ていった。


「一緒に来てくれるっていうから……」

 ティルルはそれで悟ったが、エルフの王子は空気が読めないタイプだった。


「あ、そうなの? なら僕も行くよ。それにさ、実はもう一つ目的があるんだよね」

 こちらも起き上がったミュールが、ユークを見ながらいう。


「世の中きな臭くなって、僕らも島に籠もってばかりではいられない。僕の実力を試したいから、ちょっと相手してよ。君さ、有名な冒険者なんだろ?」


『おう! やってやんよ!』

 何時ものユークなら即座にそう言った。

 だが目の前の金髪エルフは、これまでになく手強い。

 特に相方のティルル、彼女の強化魔法(バフ)の効果量がとんでもない。


 しかし、そんなことで引く気は、ユークにはまったくない。

 ユークが『よかろう』と覚悟を決めて立ち上がったところで、エルフの王女が言った。


「なに馬鹿言ってんの。お互い怪我したらどうするの? わたしは手を貸さないわよ」


「えっ? なんでさ、エルフと人の争いだよ? 島エルフを束ねる者として、君は出来る限りのことをすべきだ!」


 ミュールは、良いとこのお坊ちゃんらしく、自己中心的なところがあった。

 だが、ティルルは至って常識的だった。


「女の子の取り合いで、姉の力を借りてどうするのよ。あなた、それでも島エルフを束ねる一族?」


「うっ」と詰まったミュールは一言も返せない。

 ユークは、この美人エルフの発言に乗っかった。


「そうだ! お前は来なくていいから、こっちのティルルさんだけ貸してくれ。そしたら相手が何であれ俺が倒すからさ!」


『スカウトするなら絶対にこっち』

 ユークには強い確信があった。


 背はユークよりも高いくらいだが、腰は半分ほどの太さにも見える。

 エルフ特有の色彩を変える長い金髪に、切れ長の目に尖った耳。

 そして人族との混血のせいか、エルフにしては胸もお尻も大きい安産型。


 ユークの好みのど真ん中だった。


「んなっ!? なに言ってんの! 王族って忙しいのよ!」

 ミグが反対する。

 ただでさえ女だらけのパーティに、これ以上増えてもらっては困る。


 しばし、ラクレアも含めて若者同士が言い争ったが、ノンダスが結論をだした。


「やってみましょうか。ユークちゃん、あんたの剣を受けれる武器を持つ相手は滅多にないわ。もちろん、訓練の一環としてあたしが立ち会うし、止めたら聞くのよ?」


 二人ともに頷く。

 ノンダスの好みは、よく引き締まった逞しい男で、ミュールは好みではなかった。

 それゆえ、冷静な判断が出来た。

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