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ドワーフのクエスト


 ユークはドワーフに聞いた。

「さっそくだが、困ってることない?」


 ドワーフの長、剛塊のクラトンは答えた。

「ふーむ、最近古い坑道にメタルスライムが出てのう……」


「じゃ、そういうことで!」

 一行は早速狩りに出かけた。


「聞いてみるもんですねえ……」

 ラクレアは少し困惑気味だ。

 行く先々で都合よく問題が起きる。


「ま、こんなご時世では仕方ないわよ。これ、お店を任せた友人からの便りなんだけど、テーバイも再軍備を決めたそうよ」

 ノンダスが一通の手紙を取り出す。


 ユークは、手紙よりも先にノンダスを見た。

 軍の指揮官だったノンダスが、呼び戻されるのではと心配になったのだ。

 その視線に気が付いたノンダスが、『にやり』と笑う。


「テーバイが軍備を解いて、まだ5年よ。今なら直ぐに再建出来るわ。それよりも、五ヶ月後のあなた達の方が心配だわ」


 ユーク達は、ほっと胸を撫で下ろす。

 ノンダスはパーティの戦いと食事の要。

 オリーブオイルをじゃぶじゃぶ使い、どんな素材も暖かく美味しい物に仕上げるコックが居なくなるのは困る。


「もしさ、わたしの国が復興出来たら、ノンダスも来る?」

 珍しく、ミグが未来の話をした。


「あら、料理人として? それも悪くないわねえ」

「もちろんそれでも良いけど、将軍でも貴族でも何でも良いわ。半分以上が死んじゃって空きばかりだし」


 例え国を取り戻しても、今は軍も官吏も行政人も壊滅している。


「あたしがバロン? それも悪くないわねえ」

 ノンダスの口ぶりは、あまり興味が惹かれた感じではなかった。


「ねえ、俺は?」

 一方のユークは、騎士や将軍といったものに男子らしい憧れがあった。


「あんたにはイアソン伯をあげる」

「え、貴族? それはちょっと……」

 堅苦しいのも嫌だし、ミグを主君と仰ぐのはユークには想像が付かなかった。


 だが、サラーシャだけが発言の重大さに気付いた。

 今や女王といってよいミルグレッタを、何度も救い守ったお礼に、公爵位でも土地でも与えるに異論はない。


 しかし、イアソン伯は違う。

 領土と結びつきのない名誉爵位だったが、これは第一王女の婚約者に授与されるもの。


『姫様! 軽率すぎます!』と、目で注意するが、ミグはそっぽを向く。

 あれだけの事を宣言したからには、もうミグにユークを逃がすつもりはない。

 もちろん、ユークは何度も逃げ出すのだが。


 サラーシャは、老臣達によくよく言い含められていた。

 何といっても、壊れかけのコルキス王国にとって、外交に使える手札はミルグレッタ王女だけ。


 夫を共同統治者として迎え入れる。

 それだけで列強各国から手が挙がるに違いなく、王家同士の婚姻がどれほど重要であるか、サラーシャにもよく分かっていた。


『とは言えど……この世界情勢では……』

 水準以上の教育を受けたサラーシャには、軍を率いてコルキスまで来れる国がなさそうだとも判断が付いた。


『いっそ、ミルグレッタ様に沢山の御子を産んでいただいた方が。恋愛結婚なら、何時までも仲睦まじく子宝に恵まれるやも』


 コルキス王家の血と力は強い。

 相手が誰であれ、王家の加護を受け継ぎ、英雄の素質を持つ者が生まれる可能性は高い。


 サラーシャは、今度はユークを見た。

 容貌は並だが見苦しくはなく、体は丈夫そうで、戦士としても一流に手をかけつつある。


『種馬としては悪くないか』

 ばっさりとした評価を、サラーシャは下す。

 しかも、わがままいっぱいに育った王女が、大股で歩くユークの隣で遅れそうになる度に小走りで追いつこうとする。

悍馬(じゃじゃうま)の扱いまで出来るとなると……奇貨かもしれんな』


 あくまで冷静に判断しようとするサラーシャに、ノンダスがそっと声をかけた。


「あの二人ね、もうお互いしか頼る者のない状況から、一生懸命に助け合ってきたの。あなたたちの事情も分かるわ。けど、あまり大人の都合で振り回さないであげてね」と。


 最初は余計な事をと思ったが、兄のアレクシスの死後、完全に王女から離れた日々があったのだと気付き、サラーシャは己を恥じた。


『なるようになれば良いか。王家も最初から王家だったわけではないし』

 サラーシャは、ユークへの態度を少し改めようと心に決めた。

 ひょっとすれば、新しい王家が始まるのかも知れないと。


 もう一つ、ミルグレッタ様が恥をかかぬよう、夜の技術をお教えせねばとも誓った。



 メタルスライムとその他多数のスライムは退治した。

 特に苦労するまでもなく、スライムの粘液でミグの衣服が溶かされただけで済んだ。


「おお、ありがたい! 盾でも鎧でも好きなものを注文してくれ」

 ドワーフの長、剛塊のクラトンは、喜んで依頼に応じてくれた。

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