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悪魔の会議


 ジヤヴォール――魔王の軍団長――は、軍勢を集めた。

 混沌の時代を予感してか、多数のノートリアスデモンが呼びかけに応えた。


 悪魔にも、様々な者がいる。

 ジヤヴォールの知り合いは、いささか世俗的な者が多かった。


「わしは大元帥と名乗ろうか」

「ならば、わしは大神官じゃ」

「おい、四天王は決めぬのか?」

 悪魔の同窓会は、盛り上がっていた。


 だが中には、その空気に不満な者もいる。

 古き神々が直接地上に恩恵をもたらし、人族が繁栄したせいで、出番のない新興の神々の眷属。

 この者どもは、これを機会に人族を全滅寸前まで追い込みたかった。


「おいジヤヴォール、貴様の話には乗る。我らが好きに天罰を下して良いのだな?」

 過激派の一柱がジヤヴォールに問うた。


「やってくれるなら構わんが、良いのか?」

 悪魔にとって直接手を下すのは最後の手段。

 地上の者、魔物を上手く使うことこそ悪魔の美学。


「もちろんだ。我が神を崇めぬ者など死ぬが良い」

 セラフのガブリエルは言い切った。


 古い神を信じる人族が減れば、天界での勢力図も動く。

 ジヤヴォールの育てる魔王がもたらす混乱は、ガブリエルにとって願ったりだった。


『神と呼ばれたい欲望が強いのか。青いな』と、ジヤヴォールは思ったが、ガブリエルの攻撃性の強さは好ましい。


「ここらへんを頼む」

 ジヤヴォールは地図の西の端を示した。


「引き受けよう」

 即答したガブリエルは、六枚の翼を広げ魔王城を出ていった。


 若者は行ったが、古い悪魔どもは何ら動く様子がない。

「お前らも働けよ」とのジヤヴォールの呼びかけも、長い耳を折って聞こえぬふり。


「ジヤヴォール、魔王とやらを見せてくれ」

 一人の悪魔が頼んだが、ジヤヴォールは魔王を独占したかった。


「代わりに良いものを見せてやろう」と誤魔化して、魔王の産んだ卵を見せた。


「二つある。これを人の多いところへ運ぶ。何が起きるか見たいだろう? だから人を減らすのを少し手伝ってくれ」


「ほう、これはなかなか……」

「身分けしてこれとは、期待の持てる」

「よかろう。乗ったぞ」

 更に数体の悪魔が城を出た。

 各地に住み着く魔物を使い、新しい血を流すために。


『ようやく面白くなってきた』

 ジヤヴォールも満足する。

 悪魔の悦びは、地上に住む者の不幸に繋がる。

 今回の標的は、生存圏を広げすぎた人族と、それに加担する種族。


 百年に及ぶ混乱と戦乱の時代が、この時から始まった。


 文明圏に襲い来る危機を、ユークはまだ知らない。

 いや、既に知っていたのがユーク達、東方の部族や国家。

 これからは、中央と西方が惨禍の舞台になる。



 ユークは、コルキスに行く準備にかかった。

 資金さえあれば、あと五ヶ月ほど自由に動ける。

 これまでの様に、行く先々で盗賊を狩ったり、依頼を受けることもなくなる。


「ねえ、幾らある?」

 ミグが右手を差し出す。

 その仕草が”はしたない”と思いつつも、宰相はその手に革袋を乗せる。


「ユーク、これ」と、そのまま投げて渡した。

 流石に、家臣の前で金貨を数えるのは、世俗に染まったミグにも恥ずかしかった。


「うーんと、ニ百枚はある……大金だ」

 ざっと数えたユークがこたえる。

 一般兵士の年俸が金貨で6枚程度、腕の良い職人で年に20~30枚だから、通常の路銀としては申し分なかった。


「ドワーフから武具を買って、船や馬も借りてとなると厳しいかな」

 金貨ニ百枚を、全部持ってくわけにはいかない。

 老人たちの帰国用もあるし、ユーク達の手持ちと合わせても足りるとも言えない。


「ふーん。じゃ、他にもあるでしょ? 出しなさい」

 王女の無心に、宰相は常に抱えていた鞄をさらに抱きしめる。

 ミグは当然それに目を付けていた。 


「姫様! こればかりは! 陛下と王妃様が残した形見とも呼べるものですぞ」

「いいから。まあまあ、とりあえずここに出してみて?」


 渋々といった感じで宰相が取り出したのは、王女の宝冠(ティアラ)

 それも儀式の為――結婚式用――に造られた豪華な逸品。


「これ、幾らで売れるかしら?」

 周りに値段を尋ねるミグに対して、老人達は必死で首を振る。

 王族が宝冠を売るなど前代未聞、それも式用にあつらえた姫の象徴とも言えるティアラを未使用で。


『自らが死ねば姫様が思いとどまるなら、喜んで死ぬ』

 全員が共通した思いだった。


 老臣の心情を察したミグが短く諭す。

「ばかねぇ、宝石は食えないじゃないの。これなら数千人分か、それ以上の冬越しの食料になるわ」


 姫様の変わらぬ優しさと覚悟を耳にして、老臣達は泣いた。

 それを放置して、ミグはユークとノンダスと作戦会議を始めた。


「せっかく売るんだから、高く売らないとな」と、ユークも知恵を絞る。

 おおよそはノンダスの提案通りになったが、作戦が決まる。


「ちょっと。これでこの街で一番良い宿の一番良い部屋を取ってきて。それから、今から宰相の書く文を、この街の宝石商や商人に回してちょうだい」

 お供の一人に、金貨の詰まった革袋を投げながらミグが命令した。

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