表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/88

決着


 三人が同時に見つけた、黒い影。

 アルゴの接近に気付いたのか、人ならぬ動きでくねる。


「……なんでしょうね?」

「警戒した方が良さそうね……」


 ユークには、正解が見えていた。

 きっちり捉えた右目の中で、『25』の数字が縦に並ぶ。


「あのー、なんか弱いみたいだけど、気を付けてね。魔法があるかも」

 一応、油断はしない。


 本体よりも、危険なのは右手に持った杖だと、距離があっても分かる。

 禍々しい気配が、魔力の弱いユークやラクレアにも伝わった。


「とりあえず、攻撃してみるわ」

 腰を振る黒フードに向かって、ミグが仕掛けた。

 アルゴの背の上で魔法を練り、同時に五本の槍を生み出して、タイミングをずらして投げつける。


「やったか!?」とは、誰も言わなかった。

 無造作に振ったように見えた杖が、全ての魔法を弾き飛ばす。


「なんて非常識!」

 ミグの攻撃魔法は、既に常識はずれのレベルに達していた。


 個体の素質、受け継いだ血筋と加護、ミスリルの武器。

 それぞれが掛け合わされ、魔王城に突入した時とは比べ物にならない。

 それを杖の一振りが易々と防いだ。


「俺がいく。ラクレア、寄せて!」

 次は、更に成長速度の速い剣士が挑む。

 アルゴが少し進路を変え、斜めから黒フードに近寄る。


『馬の上から飛んで斬りかかってやろう!』

 頭の足りない少年は、カッコ良い登場だけを考えていたが、ラクレアはきちんと減速した。


「あれ、止めるの?」

「走る馬から飛び降りたら、怪我ではすまないですよ」

 そこら辺は、しっかり理解していた。


「それじゃ、わたし達はあれを相手するから」

 ミグが指差した上空には、数体のキマイラが舞っていた。


「すぐに片付けて手伝うよ」

 未だ変化のない戦闘力『25』の二段重ねに、ユークの自信は揺らがない。


「へー、期待せずに待ってるわ」

 アルゴと共に、二人は援護に回る。


「さて……とっ!」

 何の口上も対話もなく、ユークはいきなり斬りかかった。

 防衛線が崩れてから既に半日、街の郊外では魔物の襲撃が始まっている。

 余計な時間はない。


「うおー! すげーべ! なんだこの杖!」

 黒フードの中では、ミグの魔法を防いでゴブリンのテンションが上がる。

 だが、直ぐに次が来た。


「や、奴だ! 奴がきたべ!」

 眼帯ゴブリンが叫ぶ。

「だから、何だってばよ! おらは外が見えねえんだぞ!」


「城の中でおらの右目を奪ったあいつだよ!」

「へー、生きてたべか。つーか、あいつは戦闘力『5』だったべ?」

「そうだが……なんか雰囲気が違うべ……って、うおい!?」


 足元の砂も意に介さず、一気に間合い詰めて『カウカソス』の抜き斬り。

 杖が自動でこれを受けた。

 白い骨のかけらが、ほんの薄くだが飛び散る。


「杖が勝手に動いただ! 流石は悪魔の尻尾! けど削れただ!?」

 眼帯ゴブリンは、やかましく解説する。

 逐一報告しないと、下のゴブリンは動けない。


 ユークは、受けられた事に驚いたが、構わずに本体を仕留めいく。

 素早く正確に剣を繰り出し、定石通りに黒フードの左手側に回り込む。

 動きに付いてゆけず、下になったゴブリンが転んだ。


『杖ごと貫く!』と、両手で突きの構えをとり、一歩踏み出したところで警戒反応が出た。


「下か!?」

 大きく跳ね退いたところで、砂を割ってサンドワームが現れ、ゴブリン達を上空へ押し上げる。

 頂点へ達したところで、キマイラがそれを捕まえた。


「バイバイだゴブ~!」

 大声で叫んだ眼帯ゴブリンの声で、ユークにも本体の正体が知れた。


「ミグ! 魔法で!」

「ちょ、ちょっと待ってて!」

 別のキマイラを撃ち落としたミグの位置は遠く、ゴブリンを掴んだキマイラは速い。


「ミグさま、支えて下さい! いけ、アルゴ!」

 アルゴの腹を蹴ったラクレアが、鞍から腰を浮かす。


『全速で』の合図を受けたアルゴが、全ての筋肉を使い躍動する。

 ミグに支えられしっかりと立ったラクレアは、馬に取り付けていた盾を外し、無双の怪力を振り絞って投げた。


 回転しながら飛んだ盾が、キマイラの翼をへし折る。

 真っ逆さまに落ちてくる黒フードに向かって、ユークが駆けた。


「おい、力を貸してくれ!」

 頼んだユークは知らなかったが、剣は知っていた。

 今戦っている『物』が、前の主の命を奪ったことを。

 少しだけ、今の主が死なぬ程度に火神の剣が力を開放した――。


 急激な温度の上昇と、腕から伝わる振動。

 ユークの手と腕を焼き、神経に響いたが、それは頼もしくさえ感じた。


「うおおおおおおぉっ!」

 気合と共に、神と悪魔に由来する武器がぶつかる。

 凄まじい力のぶつかり合いは数瞬続き、再び剣が骨を断ち切った。


 その勢いのまま、ユークは黒フードの胴体を二つにするが。

「あっ!」

 布の手応えしかなく、上下に別れたゴブリンは、素早く砂に潜って消えた。


「くっそ、あいつら。何処だ!?」

 砂漠や乾燥地で、穴を掘って暮らすゴブリン族。

 大きな手足と細い体はその為に進化し、こうなると見つからない。


「まあ良いか……」と、二つに切れた杖に手を伸ばそうとしたとこで、「駄目よ!」とミグが叫んだ。


 二本並んで砂に突き立った悪魔の尾骨。

 操る者を失い、後方で要塞に群がっていた魔物も、それぞれの住処へ戻りだしていた。


 だが、数千年に渡って溜め込まれた悪魔力は健在だった。

「これは、ここで滅するわ。触っては駄目」

 ユークとラクレアに、もう一度警告した。


 この尻尾が兄アレクシスを殺したと、ミグは知らない。

 しかし、その力は邪悪で、ここで消さねばと確信した。


「全力全開でやるから、邪魔が入らないように守ってね」

 制御を失った魔物が、周りをうろつき始めている。


 ミグは、後を考えず全ての魔力を集中する。

 コルキスの王族が持つ”金羊の加護”が目に見える形になって現れる。

 黄金の糸が幾重にもミグを包み、その魔力を一気に跳ね上げる。


 三人の頭上に特大の<<シリウス>>が輝き、その色は白から青へと変わった。


「凄い……15000を超えた……」

 十分以上の時間を使い、存分に集めたマナは大気から稲妻を生み出し、それを見た魔物は本能から進路を変える。


 それから、青いシリウスはゆっくりと大地に刺さる骨に衝突した。

 先に周囲の砂が溶けて硝子に変わる。


 半径数十メートルが融解し、ようやく悪魔の骨が限界を超える。

 黒く焼け焦げ、灰になり、粉々になって砂漠の風に誘われ消え去った。

 後には、陽に光る砂漠硝子(リビアングラス)だけが残った。


 三人は、アルゴに乗って最後に残った要塞へ帰る。

 また両手が使えなくなったユークを真ん中に、ミグが後ろから抱きしめるように支える。


「いてっ! いてっ! 痛い!」

 歩くアルゴに合わせてユークが悲鳴をあげる。


「我慢なさい、男の子でしょ?」

 前と後ろから、ラクレアとミグの声が揃った。


 目の前に迫った三角要塞では、六百人を超える冒険者が総出で迎えていた。

 戦いは終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ