反撃の狼煙
ユークは、四人のリーダーとして扱われていたが、そもそも他の三人は彼よりも強い。
自然と、自分の戦いに集中すれば良かった。
この戦いで初めて部下が付いたが、ノンダスはユークが自由にやれるように気を使った。
それでも『他人を気にしながら戦うのは、難しい』と、ユークは何度も感じた。
撤退行の中でも、ユークが切り開いて進むと、度々後ろから『少し待て』の声がかかる。
ユークはそれに素直に従い、後方を手当する。
十八歳の若者は、猪突猛進の単純な攻撃役から、小隊長が務まるくらいに成長しつつあった。
「行くわよー!」
隊列に迫る十メートルはある甲虫を、ミグが魔法で吹き飛ばす。
要塞の強化魔法がなくなり、全体の戦闘力は大きく落ちた。
それでも、東隣の要塞へたどり着き、そこの守備隊と合流する。
もう一つ先へ、二百六十余名が一丸となって進む。
運も味方した。
魔物の群れは、防衛線を突破して北へ広がり始めた。
退却する軍隊の方に食いついたのもいる。
それと、日が暮れると魔物の統率が弱まってきていた。
一時間余りを使い、ようやく六百メートルを渡りきる。
「登れ! 怪我人が先だ!」と、ユークが今度は階段下を死守する。
「よく頑張ったわね! 流石ね!」
ノンダスがユークの肩を抱いて褒めた。
最後に二人が上りきると同時に、階段は斜面へと戻る。
五ヶ所を712名で守っていた冒険者は、一ヶ所に集結した。
ここまで、戦死が45人、動けぬ者は約100人、軽傷は残りのおよそ半分。
「激戦だったなあ」
「死ぬかと思ったぞい」
「誰かー治癒してくれー。まだ戦えるぞー」
「くっそ、こんな大戦だと知ってりゃ参加しなかったぜ。あ、メシをくれ」
口々に文句は言うが、生き残った者は総じて明るい。
運と指揮が悪ければ、全滅していたとの思いが共通している。
つまり、『俺たちは運が良く、大将にも恵まれた。だから生き残れる』という希望があった。
夜の警備順を決める、これも人数に余裕が出て可能になった。
ユークは、これから外された。
「なんで? まだ元気だけど?」
ノンダスの前で腕を回して見せるが、「他にやってもらいたい事があるの」と、連れていかれる。
要塞内部の一室に、五人の指揮官と隊長級が集まる。
ユークにミグとラクレアも呼ばれた。
ノンダスが座りその後ろに三人も座る。
一人が全員に短く確認をとった。
「ノンダスで良いな?」
主だった面々が頷き、全体の指揮は彼に任すとあっさり決まった。
「それで、これからだが……」
会議が始まった。
「もうパドルメには戻れんな。明後日には魔物に襲われる」
「そうだな。援軍が来ても、市街戦だ」
人口十万を超える、大陸屈指の良港は、戦火に巻かれることになる。
「報酬はパーか。まあそれも仕方ない」
「ここにある物資を売ったらどうだ? イリフーキアも、文句は言わんだろう。いや、国が残らんかもな」
ここ、中央にあたる要塞には、他の二倍の備蓄がなされていた。
事前に話し合った各指揮官が要求し、有能な副官が準備してくれたのだ。
「それも、生き延びてからだ」
「うむ、このまま此処を無視してくれれば良いが……」
既に防衛線は決壊した。
要塞の一つくらい、人同士の争いならば見逃すこともある。
それに、傭われの冒険者が、これ以上命を張る恩義はない。
決着は付き、彼らはよく戦った。
腕を組み、ここまで黙って聞いていたノンダスが口を開く。
「ちょっと良い?」
全員が口を閉じて総指揮官を見る。
「敵には、親玉が居るわ。それを討つのよ」
ノンダスは、結論から述べた。
数万の魔物に囲まれた中、会議は続く。




