表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/88

始めの第一波


 十三基の三角要塞(ピラミッド)が連なる長さは、およそ5キロ。

 これを四千人足らずで守る。


 敵がオークやゴブリンくらい賢ければ、あっさり迂回しただろう。

 だが魔物は、戦いを恐れない。

 人族を踏み潰し、食い殺す為に真っ向から挑む。


「これは……凄い。度胸あるなあ」

 砂塵を立てて迫る大集団と、その手前、要塞の前に並ぶ兵士。

 彼らを見ながら、ユークは感嘆していた。


 重要な儀式、神への戦勝の祈りと、軍楽隊の演奏が始まっていた。

 神官が祈り、大地に山羊を捧げて、大地に赤い水たまりを作る。

 それから、太鼓と笛を軍楽隊が鳴り立てる。


 見事なことに、魔物があと二百歩ほどに迫ったところで、国歌の演奏が丁度終わる。

 軍楽隊は、楽器を担いで要塞の間をすり抜けて走る。


 ユークの居る要塞からも、その隣の要塞からも、勇敢な楽師達へ拍手と歓声が飛んだ。

 ユークは手を叩いてから、剣でなく弓を構えた。


 敵の第一波、クモの体にサソリの尾と飛び出た頭。

 ”アラクネ”と呼ばれる砂漠の魔物が、山羊の血の跡を蹴散らし、真っ直ぐ要塞へ突っ込んだ。


「まだよ、まだよー。落ち着きなさい。腹を見せてから射つのよ!」

 ノンダスが、経験の浅い冒険者達を抑える。


 経歴を買われたノンダスが任されたのは、最も右端の三角要塞(ピラミッド)

 正面と右手、二面から攻撃を受ける、最激戦地になる予定だった。


『思いの外、良い造りだなこれ』と、ユークは感じた。

 最上部まで百メートル近いピラミッド、下層部は滑らかな石灰岩の傾斜。

 ユーク達が陣取るのは上部の階段構造。


 上から見下ろすと、徐々に狭くなる坂道で待ち受ける形。

 がむしゃらに突進する魔物が相手となると、非常に適していた。


 坂道に乗り上げたアラクネの大群は、渋滞を起こした挙げ句に、足を取られて天を向く。


「はい、今よ! 放て!!」

 四辺に陣取る弓手が、一斉に矢を解き放つ。

 百発百中の距離で射下ろし、柔らかい腹側を貫かれたアラクネが転げ落ちる。


 尻尾を合わせると人の倍近いサイズ、これが見渡す限り、三万匹を超える数で十三の拠点を攻めたてる。

 だが弓と槍、石に魔法、それと要塞に付与された強化魔法。


 数では十分の一ほどの冒険者と兵士はよく守り、要塞の麓に”しかばね”を積み上げる。


「これで五体目!」

 久々に弓を握ったユークだったが、腕は衰えていなかった。


「まあ外しようもないけどな」と、並んで戦う冒険者と語り合う余裕もあった。

 弓を使えたのは五十人ほどで、それが五十も矢を使わぬうちに、アラクネは引き始めた。


 周囲に転がる同種の死体を引きずって逃げる魔物もいた。

 もちろん、弔いではなく食事のために。


「あたし達も食事にしましょう」

 半分ほどに減って退散するアラクネを見ながら、ノンダスが命令を出した。


 急いでメシをかきこむ中で、一人の冒険者が異変を見つける。

 彼は、神の加護”遠目(ホークアイ)”を持っていた。


「大将、何か来ますね。逃げるアラクネと、今すれ違った。砂の中です」

 他の者も一斉に見るが、黒い粒のようになったアラクネしか見つけられない。


「分かったわ、ありがと」

 だがノンダスは、むやみに部下の報告を疑ったり問い正したりはしない。

 例え間違いでも、取り越し苦労で済む場面である。


「隣の要塞へ連絡して。メシを食ったら戦闘準備、前列と後列は交替。ミグ、今度はあんた達も魔法で援護してね」


 午前の戦いは、あまりに上手くいったので、魔法使いは休養させられた。

 攻撃魔法を使える者は、百四十人の中で六人しか居ない。

 それでも、十三に別れた隊の中では、最多の人数だった。


「りょーかーい、任しておいて!」

 ここに籠もってから、ミグは絶好調だった。

 それに、ハラハラしながらユークやラクレアの戦いを眺めるより、ぶっ放す方が性格に合っていた。


 誰の目にも、前方の砂が不規則に流れるのが見て取れた。

 要塞の間近まで来て、そいつらは砂から姿をあらわす。


「サンドワーム!!?」

「にしても、でけえ!」

 どの部隊からも、同じ台詞が出た。


 砂海から盛り上がったのは、大きいものでは二十メートル超える、巨大サンドワーム。


「気をつけろ! こいつは酸を吹く!」と、誰かが警告して、それにミグが答えた。

「あっそ」と。


 最も近いサンドワームの頭部が、一瞬で弾けて消えた。

 すぐにもう一体、それからもう一体の頭も。

 樫の木ほどもある図体が、ぐにゃりと力を失って倒れる。


「うっそだろ……」

 驚きと共に、冒険者たちの、小柄で可愛らしい魔法少女を見る目が変わった。


 その間もユークは、砂中のサンドワームの戦闘力を測っていた。

 せいぜい100から300のアラクネと違い、小さいもので500、大きいのは1000を超える。


 ここの三角要塞(ピラミッド)強化魔法(パワー)は強く、誰の力も五割増し程度になっていた。


 今のユークなら『2000』を超える。

 ラクレアも同程度、ノンダスは『3000』に迫る。

 だが今のミグは、瞬間的に『6000』を超え、必要なだけの魔力を撃ち出すと、直ぐに消費を抑える。


 先に手に入れたミスリルのガントレットと、強化魔法(ピラミッドパワー)が掛け合わさり、以前の数倍のマナを軽々と操っていた。


『二度と……ミグには逆らわないようにしよう……』

 ユークは、絶対に守れぬ誓いを立てた。

 初日の半分が過ぎたが、この要塞で死者はまだ出ていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ