表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/88

襲撃と決闘


 トリーニは火山島だが、真水は農業をやって船に売るほどある。

 もちろん、他に温泉も湧く。


 手近な小川に腕を洗いに行ったユークは、はしゃいでいた。

「うおっ、臭い! すげー垢がぼろぼろ取れる! うわっまだ出る!」

 手が治ったのが、余程に嬉しかったのか。


 川の魚に餌をやる少年は置いておき、ノンダス達はしばし顔を突き合わせる。


「良いことなんだけど、あの怪我が一晩で治るなんて。あの子、普通のヒト?」


「失礼ね、ユークは普通よ!」

 ノンダスの疑問に、ミグが代わりに答える。

「じゃあやっぱり……」と、ラクレアと揃ってミグを見る。


「ええ、昨夜のミグさまの献身的な介護のお陰ですかね」

「そうねぇ、愛の力ってやつ?」


「!!? な、なんで、知ってるの!?」

 優れた戦士であるノンダスとラクレアは、当然気付いていた。

 健気な乙女に気を使い、寝たふりをしてあげただけ。


「それに! わたしはユークのことなんて、何とも思ってないんだから!」

 二人は、この台詞に何の反応もしなかった。


「それ以外だと、やっぱりポイニクスの肉ですかね?」

「そうね、あの鳥の力と合致するわね。けど……」


「ねえ、ちょっと聞いてる?」

 ミグを無視して、ノンダスは昨日の生傷を一つ見せる。


「あたしのは、普通の治りなのよねえ」

「ユークさまは、特に効きが良いのでしょうか? それとも大怪我だけに効果があるとか」

「わからないわね。全部食べちゃったのが惜しいわねぇ」

 二人は、徐々に正解に近づいていた。


「ねえ、聞いてる?」

 ミグはしつこい。


「次に獲物があれば、またユークさまに食べさせてみましょう」

「そうね、そんな機会が滅多にあるとは思えないけどね」

 魔物料理に手を出すと決め、会議は終わった。


「聞いてよー……」

 王女は、人生で初めて会話に混ぜて貰えないという経験をした。



 荷物の大半は失い、ヤクには可哀想なことをしたが、一行の顔は明るかった。

 今回も、生きて帰ることが出来た。


 収穫――火の鳥の足――もあり、大怪我も治った。

 自然と顔も会話も明るくなる。


 そんな五人の前に、大勢の人影が現れた。


「へっへっへ、待ちなお前ら。それを置いていけば、見逃してやるぜ?」

 九人の男達。

 手には武器を持ち、一人がポイニクスの鶏ガラを指し示す。


 五人は顔を見合わせ、ユークが代表する。

「スープにでもするのか? 見逃してやるから消えろ」


「ああん?」

「んだっ、こらっ!」

 見事な売り言葉だった。


 ミグも付け加える。

「今、機嫌が良いの。焼かないであげるから、財布を置いて散りなさい」


 この旅の途中から、野盗や人狩りの連中からは、路銀代わりに巻き上げるのが常になっていた。


「珍しいですね、島で追い剥ぎとか聞いたことがないです」

 ここの住人であるエンリオは、首をかしげる。


 ユークは辺りを見渡して、もう一つ小さな反応を見つける。

「おい、そこの木の後ろ。出てこい」


 ガサッと音がして、しばらく経ってから諦めた様に男が出てきた。


「旦那、出てきちゃって良いんですかい?」

「ふん。お前らが首尾を果たせば良いだけだ。大金を渡したんだ、失敗は許さんぞ」

「へっへ、お任せ下さい」


 野盗と話すのは身なりの小奇麗な男、そいつを見定めてエンリオが声をあげた。


「メッサリア 侯爵家の……!」

「ほう。下級騎士といえ、余を存じておるか」

 微妙に緊迫感が高まる。


「誰?」と、ミグが尋ねた。

「我がトリーニの四大侯爵家の一つ、メッサリア 侯爵の公子です。テーラ殿下の婿候補とは聞いていましたが、よもや実力行使に出るとは……!」

「ふははっ! 万が一という事もある。我が野望を妨げる者は」


 盛り上がっていたが、ユークは最後まで聞かなかった。

 右をノンダス、左をラクレアに任すと指示を出し、無造作に真ん中に斬り込んだ。


 一人目の剣を根本から切り落とし蹴り飛ばす、二人目の剣もあっさり落ち、三人目は盾を真っ二つにされたところで降参した。

 左右では、ノンダスとラクレアが軽々と三人ずつ吹き飛ばした。


「ええー……」

 ほぼ瞬時に戦いは終わり、公子とやらは、目を白黒させていた。


「で、何処ぞの田舎貴族がなんだって?」

 ド辺境出身のユークが少し調子に乗る。


「ま、待て! 余を害するとタダではすまんぞ! それにお前ら、なんだその体たらくは!?」

「いやー旦那、これは無理ですわ」

 九人の雇われはあっさりと負けを認め、中の一人がユークに尋ねた。


「なあ、あんた。あっちの銀髪の子、魔法使いだろ。噂に聞いたんだが、”生還者”ってあんたらか?」

「なんだそれ」

 ユークは、初耳だった。


「いや、魔王城に挑んで帰った者が居る。黒髪の剣士と銀髪の魔法使いだってな。俺たちも冒険者で、雇われただけなんだ。見逃してくれないか?」


 ノンダスが軽く頷くのを見て、ユークは剣を収める。

「わりいな。知ってりゃ手を出さなかったよ」


 冒険者たちはすっかり諦めたが、メッサリア 公子とやらは諦めきれぬ様子であった。

 そこで、出番のなかったミグが提案した。


「エンリオとそっちの貴族、決闘なさい。姫の寵愛は、実力で奪い取ってなんぼよ。わたしが見届けてあげるから」


 エンリオとメッサリア 公子からすれば、ミグは誰とも知らぬ馬の骨なのだが、不思議とその言葉には説得力があった。


 十三人が見守る中、二人が同時に剣を抜く。

 ユークは、互いの実力を測ろうと集中しかけて止めた。


 その必要すらないと思ったから。

 強いものに挑む者が成長する、それが世界の掟。

 ポイニクスと果敢に戦ったエンリオが、負けるとは微塵も思わなかった。


 勝負は、あっさりと付いた。

 エンリオが剣を叩き落とし、メッサリア 公子に剣先を向ける。


「余の……負けだ」

 最後だけは、貴族らしく潔かった。



 帰路の方が何かと起きたが、五人は無事にトリーニの城下町に帰ってきた。

 エンリオを先頭に、ポイニクスの足を高く掲げて凱旋する。


 エンリオが貴族になれたとして、王女と結ばれるかは、四人の知るところではないが、依頼は十分に果たしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ