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新たなる力


「引けええええっ!」


 ノンダスとエンリオ、男が二人がかりでも、ポイニクスとの綱引きに負けそうになる。

 慌てて走り寄ったラクレアも加わり、三人でどうにか釣り合った。


 ポイニクスは、何度か炎を吹きかけ、焼き切ろうとするが上手くはいかない。

 すると、驚くべき行動に出た。


 ぴんっと張った綱を尻目に、飛行したまま自ら足を切り離す。


「んなっ!?」

 見ていたユークにも驚きの行動だった。


『鳥のくせに!』と罵りたくなったが、その反動でポイニクスの尾羽根が数本抜け落ちた。

 危険も顧みずに、足場の端まで追って手を伸ばすが……。


 緑と黄と赤に彩られた羽は、指のはるか先を下へと落ちてゆく。

 その後を追うように、片足のポイニクスも急降下を始めた。


「何する気だ?」

 ユークの見つめる先で、火の鳥はマグマへと突っ込んだ。


「まさか、自殺ですか?」

 切り離されたばかりの巨大な鳥足を持ったままで、ラクレアが聞く。


「諦めが良すぎるわねえ」

 ノンダスも半信半疑。


 ユークは、目が痛くなるほど燃え盛る岩石の海から、視線を逸らさなかった。

 魔法で消耗し、足を自切したポイニクスの戦闘力は大きく落ちた。

 しかしまだ、マグマの中に2000余りの反応が残ったまま。


 再び、その数字が上がり始める。


「駄目だ、あいつ復活するぞ!」

「なんですって!?」

 女性陣とノンダスの声が被った。


「逃げないと」

「けど、尾羽根は?」

「それどころじゃないでしょ!」


 しばし言い争うユーク達だったが、エンリオが冷静にラクレアの持つ『物』を指さした。


「あの、これで良くないですか?」

 ポイニクスからもぎ取った、鳥の足。


「これで良いの?」

「ええ、羽よりも凄くないですか? この凶悪な爪といい」

 エンリオが良いなら良いのだろうと、ユークも決断した。


「よし、逃げるぞ。あいつの力は、戻るどころか倍増してる!」


 撤収にかかったところで、赤い翼が溶岩から飛び出す。

 足もあっさり再生し、羽は艶が増し、戦闘力は9000を超えていた。


「やばいやばい」と、一目散に逃げる五人を見上げ、火の鳥は天に向かって一鳴きしてから羽ばたく。


 だが、追ってはこない。

 ポイニクスは短く飛ぶと、ヤクの死骸を置いた岩棚へ降りる。

 それから、岩陰に居た小さな火の鳥達を呼び寄せた。


 その光景は、上へと逃げるユーク達からも見下ろせた。


「ねえ、見て。ヒナよ」

 ミグが真っ先に気付く。


「あら、ほんと。子を守ってたからあんなに激しかったのね」

「このまま逃してくれるのかな」

 ノンダスもユークも、少し安心しようとした。


「けどですねー、あの鳥って片親で育てるんですか?」

 ラクレアが、最もな疑問を挟む。


 この鳥は、一生を同じ”つがい”で過ごす。

 ヒナを脅かす敵には、もちろん容赦しない。

 そして、ヒナにヤクの肉を与えているのはメスで、オスはメスよりもずっと強大。


「……上から、何か来る」

 ユークの右目が、特大の警戒信号を発する。

 メスが呼んだオスが、大空の彼方から帰還してきた。


「まずいまずい」

「急げ急げ」

 誰ともなしに急かすが、到底間に合わない。


「ぎゃー!」

「出たー!」

「きたー!」


 先程まで戦ったポイニクスより、一回り大きく、色彩も更に派手で、尾羽根の長さは二倍もあるオスが襲いかかる。


 巣から追い出すように蹴りつけるオスは、まるで遊んでいるかの様。

 小動物をいたぶる捕食者の態度だった。

 火の鳥は、本当に性格が悪いのだ。


 牛の足ほどもある鳥の足を運びながら、一行は火口から這い出ることになんとか成功した。


 今のユークは、戦闘力1000に届こうとしていた。

 剣の力を引き出せれば、ここから倍以上になる。

 ラクレアも似たようなもので、ノンダスは更に強い。


 ミスリル装備のミグが万全ならば、全力全開で4000程度の攻撃魔法を撃ち出せるが、今は消耗しきっていた。


「21000……だと……?」

 上空を旋回するポイニクスを見上げて、ユークが呟いた。


『見逃してくれないかな』とユークが祈るが、この山の家長にそんなつもりは無かった。

 だがオスのポイニクスは、もっと美味しい獲物を発見した。


 翼を閉じての急下降から、暴れるヤクを一撃で仕留める。

 鳥類の子育ては、あらゆる種の中で最も献身的と言われている。

 ヒナの餌の方が重要だった。


 それでも、外敵――敵にもならないが――が山をせっせと走り下りるまで、ポイニクスは目を離さなかった。

 それから悠々とご馳走を巣へと持ち帰った。


「助かった?」

「助かった!」

「まだよ、まだ離れるのよ!」

 こちらでも、大きな獲物を手に入れた。


 最初からオスが巣に居れば、戦うことさえなかった。

 不在のところに踏み込んだからこそ、火の鳥の足を手に入れた。


 鋭い爪と軽く丈夫な骨、それにもも肉が付いてきた。

 ヤクと一緒に食料も全て失った一行は、その夜、ポイニクスの肉を焼いて食べるしかない。


 だがその前に、神にも近いフェニックス属の火炎に飛び込んだユークは、深刻な傷を負っていた。

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