まさか……暴走?
「な、なに言い出すの、ラクレア?」
「それが一番早いの。へーきへーき、お姉さんが見ててあげる!」
これにはユークもドン引きした。
「もう、酔ってるでしょ! そんなこと……ねえ?」
今度はユークに助けを求めるが、ラクレアの勢いは止まらない。
「だいじょうぶだいじょぶ、ユークだってずっと我慢できるはずないの。外で出すくらいなら、(パーティの)中で出した方が効率的でしょ?」
正論のような暴論だった。
的になったミグも、初心を気取っている訳ではない。
そもそも王族の女として、あと数年もすれば男を虜にする手練手管を教え込まれて嫁ぐはずだった。
その前に国も王宮も失くなったが。
兄のアレクシスが何処で女を囲おうが、王族の義務みたいな物で仕方がないとも思っていた。
ただユークに関しては、『良くわからないけど、イヤ』なのだ。
元々ミグは、自分の立場で恋愛など存在すると思っていない。
ただ自分を王女として扱わないユークの態度は嫌いじゃない、悪くなかったからその関係を長く続けたいと感じていた。
「だからって、一足飛びにそんなこと……」
ミグが睨んでも、ラクレアはにやにやしているだけ。
一方のユークは悩んでいた。
それこそ人生で一番脳みそを働かせた。
『そんな事、出来るわけないだろ!』と格好を付けるのか。
なし崩し的にミグに迫るか、『ああ言ってるけど、どうしよう?』と丸投げするか。
三番目が最悪だとは気付いたが、人生で二度目のチャンスを活かせないものか、必死で考えていた。
まさかラクレアが敵になるとは思わず、ミグが覚悟を決める。
時間と共に暴発する問題なら、解決手段を与えてしまおうと。
自分の荷物をあさって、アホ面のユークに投げつけた。
「それ、使って良いわよ」
「えっ!? ……はぁ?」
ユークの手元にあったのは、ミグが今日来ていた服。
「まだ……洗ってないから」
『できるか!』と投げ返そうとして、ユークは思いとどまる。
ミグの顔は耳まで赤く、これでも思い切ったのだと分かった。
だとしても『本人から渡された服で』なんて、とても無理だ。
使った後に、どんな顔で返せば良いのかも分からない。
しかし、ユークは反射的に服を嗅いでしまう。
少し汗の混じった女の子の匂いがして、理性の何割かが消える。
このやり取りを見ていたラクレアが、腹を抱えて笑いだす。
彼女が過去に見聞きしたどの喜劇よりも面白い、天然物だった。
二人の態度に、ミグの羞恥心も限界を超え、おでこまで朱に染まる。
笑い転げるラクレアの声が癇に障った。
「もういい加減にして! <<ヒュプノス>>!!」
得意ではないはずの眠りの魔法が、あっさりと効く。
物理には異常に強いラクレアは、魔法への耐性が極端に低かった。
やっと静かになった一室に、二人だけが残される。
ユークはもう諦めかけていた。
半泣き状態の彼女を追い詰めたい、そんな欲望も湧いてきていたが、ギリギリのところで抑え込む。
「ごめん……。これ、返すよ」
そっと服を差し出したが、ミグは受け取らずに命令した。
「そこに、座って」
「え?」
「いいから、座りなさい!」
金色の瞳に射竦められ、ユークはミグの前に正座する。
「こ、今回だけだからね……」
それからスカートの裾を掴み、ゆっくりとたくし上げる。
ユークの鼻先に、白く光る太腿が現れた。
緊張と恥ずかしさで小刻みに震えるそれは、荒くなったユークの鼻息がかかると、『びくっ』と大きく収縮した。
ミグは13歳になるまで他人に裸を見られるなど、何とも思っていなかった。
王女にとって、着替えも風呂も水浴びも全て他人任せだから。
今でも裸体を見られるくらいなら、平静を保てるはずだった。
それがちょっと下半身を晒すだけで、これほど心臓が速くなるのがミグには理解できなかった。
頭に血が上り、もう考える力もない。
『ここまで見せれば満足だろう』と、目を閉じて横を向く。
後はユークが終わるのを待ってあげるつもりだったが、彼女の体は突然宙に浮いて、それからベッドに投げ込まれる。
ここまで煽っておいて無事で済むはずがない、主にユークの理性が。
最後の理性が溶けるまでの十数秒、ユークの頭はフル回転していた。
目前にそびえるパルテノンの柱と、最後の砦となった薄くきめ細かなシルク生地。
彼女が晒した意味を、たった五秒程で理解していた。
『俺は! ここで、止めなければならない!』
そう強く決断したはずだったが、ユークの右手は、白く滑らかな大理石の柱に触れていた。
固くなかった……少し力を加えると指が吸い込まれる。
太腿から伝わるミグの体温と、緊張から全身を覆った汗の匂いが、残ったロゴスを刈り取った。
ユークの体は、これまでの戦闘のどれよりも早く正確に動く。
狩人の素早さで獲物を持ち上げ、空いたベッドの一つに押し倒していた。




