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クラーケン2


「くそったれ! タコに食われて死んじまえ!」

 ニケ島に着くや、ユークは直前の祈りを撤回した。


 二十二名の冒険者の1/3は、島に付いた途端に消えてしまった。

 小さな島なので探せば見つかるが、戦う気の無い者を連れて行っても仕方がない。

 手付け金が良すぎたのだ。


 次に四人のパーティが、ユークが止めるのも聞かずに単独で侵入する。

 そのパーティのリーダーは、制止するユークを見てこう言った。


「お前らも前払い目当てだろ。ガキに女二人とか舐めたことしてると、何時か死ぬぞ?」

 それが先の罵倒に繋がった。


「まあまあ。そんなことは思っても口に出してはいけませんよ?」

 このところ、保護者の位置に落ち着いたラクレアがたしなめる。


 しかしこれで残ったのは十一名。

 ユーク達ともう一つ三人のパーティと、ディオン達が五人。


「よし。まとまって行こう、強敵のはずだからね」

 ディオンが提案し、異論は出なかった。

 何よりもクラーケンに備えた武器――数十本の投げ槍――を持ってきていたのはディオン達だけだった。


 元は海軍の施設、レンガ造りの頑丈な建物へと入る。

 宿舎・倉庫・造船所・乾ドック・船の引き上げ場を備え、さらに外洋へと漕ぎ出せる巨大なもの。


 海へ向かって下りながら、ユーク達は歩を進める。

 あと少しで軍船を十隻は並べることが出来る広大な乾ドック、そこでユークが異変に気付く。


『止まれ』と右手をあげて、しゃがみ込んで床を観察する。

 先に行った4人組の足跡意外にも、何かの痕跡が残っている。

 それも新しい。


 水の垂れたような……雨漏りか? と天井を見上げると、そこには何かが這った跡がはっきり残っていた。

 まだ何の反応もないが、腰からカウカソスを抜きながら警告を出した。


「何か居る。小さいけど、たぶん多い」


 全員が静かに戦闘態勢を取った。

 ゆっくりと、警戒を怠らずに進む。


 その時、行く手から叫び声がした。

 例の4人組、それと同時にユークの右目に多数の反応が出た。

 前方から、それに後ろにも。


「囲まれてるぞ!」

 ユークの声に全員で円陣を取ったが、敵の姿が見えない。

 しかし反応は徐々に近づいて、包囲網を狭めてくる。

 もう視界に入っても良いはずだが……。


「……何処から?」

 誰かがポツリと呟いて、ユークがやっと気付く。

「天井からだ! ここはまずい、広い所へ!」


 狭い通路での挟み撃ちだけは避けたい、まず先頭をディオンが走った。

 あとの十名もそれに続く。


 その直後、後方の天井の割れ目、隙間からボトボトと魔物がこぼれ落ちてきた。

 同じ様に前方からも続々と現れる。


 ディオンは、右手のドアを肩で押し開ける。

 転がり込んだ先は乾ドック、その先は斜面と海が見える。


 そこで四人組が戦って、いや既に二人になっていた。

 テンタクルスや大蟹、フナムシのような魔物に巨大なウミウシ。

 生き残っている二人に襲いかかり、死んだ二人には更に多くが群がっていた。


「扉を閉めろ!」

 今度はディオンが指示した。

「ちょっと待って!」と、ミグが魔法を練り上げて今来た通路に投げ込み、その直後に扉は閉められた。


 シューとかキューといった、湿ったものが焼かれる音が鉄製の扉の向こうで起きた。


 強大な魔物、例えば魔王の後を、小型の魔物が追ってくることは珍しくない。

 だが、二晩でこうなるとは誰も予想してなかった。


「こりゃ、あの前払いじゃ安かったな」

 誰かが軽口を叩いたが、笑う者はない。


 ざっと見ても、乾ドックの中だけで二十匹はいる。

 ユークは素早く戦力を測り、「大丈夫だ、俺達なら勝てる!」と鼓舞して突っ込んだ。


 大きな反応は――クラーケンも含めて――出ていない。

 せいぜい二桁の半ば、きちんと装備した冒険者達は100前後の戦闘力はある。

 訓練された兵士とそう変わらない。

 ミグとラクレアに、200近いディオンが居れば、二十程度なら何とでもなる。


 ユークの読みは正しく、確実に魔物を退けて生き延びた二人と合流する。

「すまねえ。助かった」と言うだけの余力はあった。


 二人増え、十三人で戦うが、この隊には明確な指揮官が居ない。

「なんだかバラバラね」とは、後ろから戦況を眺めるミグの感想。


 陸地に居た魔物を片付けた後も、海から新手が上がってくる。

 冒険者の一団は 引くに引けず、沸いてくる魔物を叩くのが精一杯、そして。


「これは……! クラーケンだ、クラーケンが来るぞ!」

 ユークは桁違いの戦闘力を捉えた。


 銛を取りに行く者、海に向かって構え直す者、目の前の魔物に苦戦する者、基本は個人か少数で行動する冒険者の脆さが出た。


 海から頭を出したクラーケンは、乾ドックへ腕を伸ばし一人の冒険者を捕まえた。


 そのまま素早く海へ隠れ、不幸な冒険者を連れて行った。

 ミグの魔法を警戒してるのは明らかだった。


 鎧ごと砕かれる音が、僅かに海面から漏れる。

「ちょっとマズいかもね……せっかく<<シリウス>>を改良してきたのに」


 戦況を見つめるミグの前をラクレアが固める。

 残りの十人で、クラーケンを引きずり出さねばならない。

 強力な魔法を使える冒険者は貴重で、とっておきの切り札。


 まずユーク、次にディオンがクラーケンの間合いに入った。


エイ○アン2みたいにマモノがわじゃわじゃ沸いてきます

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