表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/88

魔王城の悪魔


 新しい情報は少なかったが、一つ重大なものがあった。

 時を同じくして、各地に魔物が増えたという話。


 これが昨日からのユークの疑問、心配を減らしてくれた。

 一行がテーバイに着いた直後に襲撃を受けたことで、『ひょっとして、俺たちを追ってきたのでは?』とユークは考えていた。


 この疑念をミグに話してみると、案の定。

「ばかねぇ、そんな訳ないでしょ。魔王城から逃げたわたし達を狙うなら、そのままトゥルスの首都を押し潰したわよ。二十日も経って海から来たりしないわよ」


 軽く一蹴された。

 しかし、ユークの疑問は少しだけ当たっていた。

 二人が原因ではなくとも、関係があった。



 魔王城――ここに一体の悪魔が居る。

 東方ではジヤヴォール、西方ではディアボロスと呼ばれる、古い時代から存在するものだった。


 知恵ある魔物どもは、このジヤヴォールが仕切っていた。

 そもそも魔王の幼体も、この悪魔が永久凍土の底で見つけたものだった。


 ジヤヴォールは、自らをインペリアルガード――魔王護衛軍――として、配下には『軍団長』と呼ばせてこの状況を楽しんでいた。


「お怪我の具合は如何ですか、軍団長さま」

 一体の魔物がジヤヴォールに問いかける。


「ようやく尻尾が再生したところだ。何か用件か?」

「空と海から人の多いところへ魔物を送り込みました。戦果はともかく、それなりに混乱はもたらせましょう」


「ふむ、わしの傷が癒えるまでしばらく続けよ」

「はい。了解しました」

 会話はそれで終わった。


 ジヤヴォールは、何としても魔王の羽化が見たかった。

 何が起きるのか想像も付かないが、面白いことが起きるに違いないと確信していた。


 それゆえ、自ら魔王を守っている。

 少し前には、魔王の餌にすべく城に招き入れた人間どもの中に、強い力を持つ者がいた。


「戦闘力は、およそ16000です」との報告を受けた時は、その大きな悪魔耳を疑った。

 魔王には遠く及ばずとも、傷付ける可能性があったので、ジヤヴォールが直々に倒すと決めた。


 その者の持つ剣は、ジヤヴォールの皮膚を斬り裂き、自慢の長い尻尾まで斬り落としてくれた。

 しかし最後は、切り離れた尻尾が男の胸を背後から貫き決着がついた。

 ただ死の間際に、その戦士は女を一人抱えて自ら魔王の部屋へと落ちていったが。


 それはもう良い。

 既に魔王の腹に収まったことであるが、ジヤヴォールにも傷を癒やす時間が必要となった。


 そのため、魔王城を人気の無いところへ向け、それから積極的に人の集落を襲わせる事に決めたのだった。


『思いの外、人と言うのも侮れんな』

 それまでは人の繁殖力と数しか評価してなかったが、ジヤヴォールは少し考えを改めた。


 そんな事情などユークは知らない。

 だがあの後、二人ほど逃げ延びたことは――ゴブリン達が隠蔽したので――ジヤヴォールも知らなかった。



 ユーク達は前払いとして、金貨3枚と銀貨36枚を手に入れた。

 ノンダスは食費の受け取りを断って、別の提案をした。


「はぁー、まあ仕方ないわね。こうなるんじゃないかと思ったわ、けどその装備のままじゃダメでしょ?」


 ラクレアは良いのだが、ユークは相変わらず剣一本、ミグに至っては皮のサンダルにスカートと丈の短い上着。

 魔法使いというよりも、踊り子のような格好をしていた


 ギルドで貰ったニケ島とクラーケンの居る廃ドックの地図、これと三人を交互に見ながらノンダスは言った。


「せめてブーツは居るわよね。それに古い施設だから長袖。余り重装備だと水際で支障が出るから、皮のマントかローブが良いわね」


 それから三人を懇意の武具屋へ連れていく。

 その店は地味だが、実用性の高い堅実な品を揃えていた。


 ユークは胸当てとブーツとベルトに、小ぶりのラウンドシールド。

 ミグは魔導杖とローブでやっとそれらしくなり、ラクレアは剣をメイスに持ち替える。

 右目で装備チェックをすると、この鈍器の数値が一番高く出たのだ。


 ノンダスも何やら注文していた。

『飲み屋の親父が武器屋に何を?』と思ったが、聞きはしなかった。


 いよいよ、明日の夜明けと共に島に乗り込むだけ。

 ノンダスが精一杯のご馳走を並べてくれる。

 それに年長者からの忠告も。


「いいこと。無理しちゃダメよ? いざとなれば引くのも勇気。手に負えないならじっと待つのよ。ニケ島は街の目と鼻の先、必ず助けが来るからね」


 そして夜が明ける。

 テーバイに四隻だけ残る軍船に乗って島へ向かう。


 集まった冒険者は二十二名。

 ユークが見る限り、ディオン以外に手練れは居ない。


『死人が出ませんように』とユークが祈ったところで、船が陸を離れた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ