表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/88

全寮制の乙女の園


 見学に入ったミグとラクレアに、ご丁寧にも専門の案内係が付く。

 神聖隊に入団希望のご令嬢と護衛、そう勘違いされていた。


「こちらをご覧下さい。隊員は全て個室。日々の厳しい訓練を癒せるように、テーバイ特産の海鳥の羽毛を使った寝具をご用意してます」

 風呂こそ大浴場だが、お手洗いは各部屋に備わっていると案内係は力説する。


 もうミグには察しが付いていた。

 有名な騎士団や修道院にありがちなのだが、貴族や金持ちの子弟を預かり、一定の教育を施しながら泊を付ける。


 その女子版がここでは起きていた。

 もちろん、預けた親から多額の寄付金が入るので、待遇も一般の者とは格段に差がつく。


「神聖隊の皆さまは、何をしてらっしゃるの? 是非とも拝見したいわ」

 誤解を解く必要もないので、勘違いさせたまま進めることにする。


「それでは中庭に参りましょう。丁度、5日後にある収穫祭の行進訓練をしています」

 案内係は先に立って歩き、ミグとラクレアも付いてゆく。


「どうやら、望み薄ね」

 ミグはこっそりとラクレアにささやいた。


「しかしまあ、中には変わり者が居るかも知れません」

 ラクレアは、自分のことを棚にあげた。


「どうぞ。存分に御覧ください」

 広い中庭を見渡せるバルコニーへと案内された。

 ほぼ全隊が見渡せる好位置で、二人の眼下では300名の隊員が三つに分かれて列を作っていた。


 一歩後ろに立っていたラクレアが、ミグの耳元へ語りかける。

「意外と訓練されてますね。歩調も隊列にも乱れがありません」


 手には旗、腰には長い布を巻いて、上半身だけの鎧は薄手で金箔で仕立てである。

 装飾の付いた兜には羽が飾られ、顔はよく見える造り。

 そして隊員は全て若い女性たち。


 この隊列が中央の指揮官の周りを、くるくると行進している。

 なかなかに壮観な眺めだったが、実戦的な迫力を感じることもない。


「なるほどねえ……そりゃ見世物にもなるわね」

 ミグが納得したところに、案内係が営業をかける。


「如何ですか、素晴らしいでしょう! もちろん訓練や規律は厳しゅうございます。入隊中は男性と話すことさえ許されません」


 そこでちらりとラクレアを見やる。

 今のところを、よくよく父親に伝えておいて下さい、余計な虫がお嬢様に付くことはありません。

 その意味合いの視線。


「ですが、隊員同士の絆は深く。それはもう姉妹のように仲睦まじく、除隊した後も社交界で関係が続き……」


 いい加減にミグもうんざりして来たところで、宿舎の外で鐘が打ち鳴らされた。

 時刻を告げる鐘の音ではなく、鐘楼から鐘楼へ次々と伝わってテーバイを飲み込む。


 この音は、ミグとラクレアには経験があった。

 緊急事態、町に迫る危険を知らせる合図。


「ありがとう、考えておくわ。ごきげんよう!」

 それだけ言うと、二人は宿舎の外へと走り出した。

 勢いよく出てきた二人を、ユークが待っていた。


「何処で?」

「海から。かなり大きい」


 三人は高台の端にかじり付いて、じっと海を見下ろす。

 湾内の船が、また一隻沈んだ。

 何本もの触手が突き上げ、船を捕らえて海中に引きずり込んでいた。


「どう? 見えた?」

「遠すぎる、計測できない」

 既に二人にも、敵の戦闘力が見えることは話していた。


「どうするの?」

 ミグの質問にユークが聞き返す。

「神聖隊とやらはどうだった?」


「全然ね、もし出てくれば返り討ちよ」

「よし。じゃあ行こう」


 その決定に、ラクレアもミグも頷く。

 三人と一頭は、海に向かって丘を降り始めた。

地球でも有名なテーベの神聖隊

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ