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たったの5


「 はっきり言って、この先の戦いにはついてこれそうもない」

 

 ユークは、パーティをクビになった。


 ここまで来て、魔王を目の前にして『帰れ』はひどい。

『冗談だろ? ふざけないでくれ』と言いたいところを、ぐっと押さえてユークが頼み込む。


「命も惜しくない! 連れて行ってくれ!」とまで説得しても、リーダーのアレクシスは首を横に振る。


 事実、戦闘能力に限ればユークは下位。

 しかし先日、野営地がモンゴリアンデスワームの襲撃を受けた際、真っ先に気付いたのは彼だった。


 ささやかな地響きや異変、さらに罠や足跡など、異変に気付くことの出来る素養がユークにはある。


 それに、このパーティは強い。

 魔王を倒して故郷を取り戻す、ついでに英雄になれるとの夢を描けるほどにだ。


 しかし、メンバーの一人が追い打ちをかける。

「そんな実力と装備で、ここまで来れただけで奇跡みたいなものでしょ。死ぬ前に帰りなさいよ」


 上から目線で何事もはっきりと言う、この隊で唯一の女性で魔法使い、ミグの声。


 彼女自慢の髪色を『綺麗な灰色だね』と表現して以来、何かと喧嘩が絶えぬ。

 ただ銀色とさえ言っておけば、もう少し仲も良かったのだが。


「うるさいな。装備の問題じゃないだろ」

 ユークが言い返したが、残念ながら小柄な魔法使いの指摘は正しい。


 何処で揃えたのか、一介の冒険者には過ぎた装備をアレクシス達は持っていた。

 それに対して、一ヶ月前からパーティに入ったユークの装備は、安物の初級用。


 だがそれも仕方がない。

 良い武具は金をかけるか、今も世界中に眠ると伝説の武器を探すか、あとは誰かに貰うしかない。

 そのどれもユークには無理だった。

 

「黙ってなさい、ミグ」

 アレクシスの叱責には、『はーい』と素直に口を閉じる。


「わたしの判断だ。従ってもらう」

 アレクシスはもう一度告げると、脇に居た戦士に合図をする。

 戦士は懐から革袋を取り出すと、五枚の金貨をユークに握らせた。


「それで故郷に帰りなさい。大地の加護のあらんことを」

 お決まりの挨拶をすると、アレクシスたち五人は、振り返ることもなく深部へ進んでいく。


「……故郷なんて、もうねえよ」

 ぽつりと答えたユークの返事は、聞く者もなく魔王城の壁に吸い込まれた。



 ほんの少しだけ、少年はその場で佇んでいた。 

 金の為にこんな所までと、握りしめた金貨を叩きつけようとしたが、少し迷ってから懐にしまい込む。


 文明圏の東端にあった小さな村、そこがユークの故郷。

 成長の緩やかな東方部族で、十八になるが体が出来たとは言い難い。

 黒い髪と低めの鼻、目立つところの無い少年で、将来性はともかく即戦力としては未熟。


 「はぁ……」

 大きくため息を付いてから、とぼとぼと城外へ戻る。

 貧乏な彼にとって、金貨五枚は望外の報酬ではあったが。


 来た時は、20組が同時に侵攻する『魔王城突入大作戦』が上手くいったのか、城内の敵は薄かった。

 代わりに落とし穴だらけだったが。


 しかしユークには、幼い頃から森で狩りをしていた経験があり、罠の気配や痕跡を見つけるのが上手かった。


 時折現れる魔物は、アレクシスやミグが一瞬でボコボコにする。

 道中の安全はユークが担当し、結成1ヶ月の急造パーティにしては驚くほど上手く機能していた。

 しかしそれも先程まで。


 ここからは、魔物掃討が終わった道を戻るのみ。

 油断さえしなければ、一人でも無事に外まで出られるはず。

 だがユークは、見つけてしまう。


「なんだ、あれ?」

 来た時にはなかった隠し通路が、ぽっかりと口を開けていた。


 通路の前でユークはしばらく考え込む。

 奥に宝箱が一つ。

 常識ではあり得ないが、ここは魔王の城。

 これくらいの事は起こるかもしれないと。


 床面に視線を合わせて、じっくりと観察しても罠の跡はない。

 壁や天井にも、仕組まれてる様子はない。


 宝箱自体が罠だったりミミックの可能性もあるが……ユークは好奇心に負けた。

『ここで伝説の武器でも拾えれば、俺だって』との功名心も出た。


 そっと近寄って、開ける前に宝箱に触る。

 中に魔物が入っていれば、何かしらの気配を感じ取れるはずだ。


「何もないか……」と、ユークが判断した瞬間、床全体が光を放つ。

『まさか、魔法の罠!?』そう気づいた時には遅かった。

 ユークの体は、城のさらに下層へと強制転移させられていた。


 ドスン! と、空中から放り出されて床に転がる。

 衝撃で肺の空気が押し出されたが、声をなるのだけはかろうじて避けることが出来た。


 ユークは動かずに、周囲の気配を探る。

 今のところ動くものはない。


 寝転がったままで、ダメージを確認した。

 幸いにも骨は無事だったが、行動を起こす前に扉の開く気配がした。


「死んだべか?」

「いやー分かんね」

 

 入って来たのは2体。

 この方言は、ゴブリン。


「おめちょっと確認してけれ」

「ちょと待つで。戦闘力……たったの5か。死にかけだべ」


 ゴブリンはじっくりと観察して断定する。

 何故だが、ユークは酷く侮辱された気がした。

 今のところ一瞬の衝撃以外、ほとんど無傷なのに。


 ※ミグは長い髪を結った飾り気のない少女

挿絵(By みてみん)


 画像生成サイトから個人利用可・商用不可のものを使用しました

 他所への転載はなしでお願いします


数字の扱いになりますが、漢数字以外も使っていきますので

横書きの方が読みやすいと思います。よろしくお願いします

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