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【7】

すみません。結局前回分を投稿できていなかったので、今日は二話分投稿します。

いやあ、誤投稿をしてしまいまして…初めてでした。










 移動は主に鉄道だった。一番近い駅まで来て、そこからは乗合馬車である。一見儚げにも見えるキトリだが、彼女はタフだった。良く考えれば、強行軍で戦場を渡り歩き、数えられるだけでも七年で二十一回も戦っているのだ。

 こうしてフィヨンに到着し、到着した瞬間にキトリがこけて焦ったが、それはアレクシの歩みが早かったことと、着慣れない服を着ているからだろう。


 アレクシもキトリも、外出用の恰好をしていた。アレクシはともかく、キトリは珍しくスカート姿だ。足首まである裾が絡まって、動きづらいのだろう。そうしていると、一般的な街で暮らす女性に見えるが、それにしては身に着けている装飾品が多かった。リアーヌに押し付けられた魔法具である。

 二人分の荷物を持つアレクシの前を、キトリが歩いている。彼女は住所の書かれた招待状を持っていて、その場所を探しているのだ。会場はホテルのようだが。


「あ、ここね」


 キトリが右手の方を示して言った。そんなに複雑な道ではないとはいえ、初めて来た場所で一度も迷わなかった。空間認識能力が高いのだろうか。


「……屋敷っぽいな」


 一言、その会場となるホテルを見上げたアレクシは言った。キトリは小首を傾けて微笑む。

「貴族の屋敷を改装したのでしょうね。まあ、うちの研究所も城塞を改装したものだから、人のことは言えないわね」

 おっとりと指摘されて、アレクシは肩をすくめた。キトリに続いてホテルに入る。


「こんにちは。ヴィルパン博士の交流会に招待された、アレクシ・リエーヴルとキトリ・シャルロワと言うのだけど」


 ロビーのカウンターで、キトリは受付の女性にそう声をかけた。おっとりしたお客様に、受付の女性も微笑む。

「いらっしゃいませ。招待状と身分証を確認させていただけますか」

 アレクシは招待状とレオミュール魔法研究所の所員証を提示する。キトリも同じように招待状と所員証を取り出す。このIDを含む所員証がないと、研究所に入れないため、出向中のキトリにも支給されていた。もちろん、彼女は軍人であることを示すIDも持っているだろう。そもそも、彼女の左手首の銀色のブレスレッドは戦死した際に身元を確認するための身分証である。そのため、見る人が見れば彼女が軍人であることは一目瞭然だった。

「ありがとうございます。こちらにサインをお願いします」

 それぞれ確認のサインを書くと、ルームキーを渡された。受付の女性は微笑む。


「午後六時より、一階第二ホール『百合の間』にて歓迎のパーティーが開かれますので、ご参加くださいとのことです。それでは、ごゆっくりお過ごしください」

「ありがとう」


 キトリが微笑み、部屋の鍵を受け取った二人はホテルマンに従って部屋に向かう。当たり前だが、一部屋ずつ、隣り合った部屋を与えられた。

 ひとまず部屋の中に荷物を運び入れる。たぶん、貴族の屋敷の客室としてはせまい方なのだと思うが、一人で使うには広い気がした。


 午後六時からパーティーだと言っていた。一応、招待状の中にスケジュールが入っていたので大体の流れはわかるが……。今は午後二時半。正装に着替える必要があるとはいえ、ちょっと時間がありすぎる。


 アレクシは少し悩み、立ち上がって先ほど脱いだコートを羽織りなおした。ルームキーを持って部屋の外に出ると、隣の部屋の扉をノックした。

「はーい」

 少し間があってから扉が開いた。キトリが顔をのぞかせる。アレクシを見てキトリは微笑んだ。

「アレク、どうかした?」

「いや、時間があるから、少し街を見に行こうかと思うんだが……」

 キトリはどうするだろう。一緒に来るか、このまま部屋で時間まで過ごすか。

「ああ、そうね……待っていて。私も一緒に行くわ」

 キトリはそういうと、一度引っ込み、ボレロを羽織って出てきた。ルームキーも忘れずに。


 アレクシとキトリは、二人でフィヨンの街に繰り出した。港町なので人は多く、露店も多い。異国語もいくつか聞かれた。

 この時点でアレクシは、キトリに一緒に来てもらってよかった、と思った。外国語で話しかける詐欺師が横行しているようで、実際、二人も声をかけられた。だが、キトリがにっこり笑って同じ言語で返すと、彼らはあいまいに笑って去っていった。

「さすがだな、キトリ」

「こういう時は、知っていることが武器になることもあるのよねぇ」

 と、彼女はにこにこと言った。彼女こそうっかり詐欺に引っかかりそうに見えるが、さすがにしっかりはしていた。忘れがちだが、彼女はアレクシより六歳も年上なのだ。

 それにしても、自分たちはどのように見えているのだろうとアレクシはふと思う。姉弟にしては似ていないし、友人かと言うと変な組み合わせだ。アレクシが大人びて見えること、キトリがふんわりした雰囲気で少し若く見られることを考えれば、ぎりぎり恋人には見えるかもしれない。まあ、聞かれたら普通に同僚と答えればいいが。


 たまにキトリが店を覗き込み、商品を見ている。異国からの輸入品店が多いので、物価を見ているのだろうか。彼女は見かけより体力があり、音を上げずに歩き回っている。しかも、迷いがない。

「キトリ、フィヨンは初めてだと言っていなかったか」

「ええ、そうね。一応、地図は頭に入れてあるけど」

「……」

 その記憶だけで歩いているのだろうか。どこかぼんやりした人だが、頭の出来が違う。

「お嬢さん、お兄さん、旅行客かい?」

 装飾品を並べた露店を出している年配の女性が声をかけてきた。一瞬、自分たちが話しかけられているのかわからなかったアレクシだが、目が合うとうなずかれたので近寄ってみた。キトリが商品を眺める。

「アイヒベルク帝国のつくりね。珍しいわ」

「おや、お嬢さん、やっぱりいいところの出かい? 上品そうな顔してるもんね」

 女性の遠慮のない言葉に、キトリはおっとりと「ありがとう」と答えた。こうしたおっとりしたところが上品そうに見えるのだろう。事実、彼女は三代ほどさかのぼればとある有名な大貴族に行きつく。


「帝国とは戦争中だろう。どうやって商品が入ってくるんだ?」


 アレクシは青い石のついた髪飾りを手に取って首をかしげた。国交が戦争の状態であるはずだが。

「別に、四六時中戦争をしているわけではないわ。もちろん、直接輸入は難しいでしょうけど、トラヴァース王国を経由するなりすれば、いくらでも手に入るのよ。その分、輸送コストや関税がかかってくるから、高くなるけどね」

 キトリの解説である。アレクシは手に取った髪飾りの値段を見た。確かに高いが、手が出ないほどではない。純正品であれば、露店では売らないであろうこともわかる。

「おやまあ、本当に詳しいね。これは本物の宝石ではないからね。でも、きれいなもんだろう?」

「そうね。よくできているわ」

 にこりとキトリが女性商人に答える。女性は気を良くして、何やら箱を取り出した。

「一つ、運試しをしていかないかい? この中に、カードが入ってる。王か女王、王子、姫、貴族のどれかを引けば一つあげるよ」

「あら、いいの?」

「さっきも言っただろ。運試しさ。この街は、旅人も多いからね」

 魔術のあるファルギエールでは占いで未来を予測することもある。その一種だと言いたいのだろう。アレクシはキトリがカードを一枚引くのを見ていた。

「……『賢者マギ』ね」

「おや、残念だったね、お嬢さん」

 キトリは肩をすくめて見せた。女性がアレクシにも箱を振って見せる。

「お兄さんもどうだい?」

 せっかくなのでアレクシも引いてみたが、『湖のニムエ』がでた。

「二人とも、残念!」

 まあ、カードの枚数を考えればこんなものだろう。しかし、アレクシは一つバレッタを購入した。包んでもらわずにそのまま受け取る。


「キトリ」

「あ、あら。私に?」

「ああ。ただのひもで髪を結ぶのはどうかと思う」


 気になっていたのだ。ハーフアップにしている髪の毛を、黒いひもで結んでいるのが! リボンをつけろとは言わないが、少しくらいしゃれっ気を見せてもいいのでは?

「う~ん……実はリアにも言われたのだけど……あのね、自分で買うわ」

「いや、女性に払わせるのは男の沽券に係わるとリアが言っていた」

「リアの言うことは無視していいと思うわ」

「お前はもう少し、リアの忠告を聞くべきだな」

「あらあら。私の方が六つも年上なのよ?」

「それは関係ないだろう。ほめ言葉と同じで素直に受け取って置け。ついでに後ろを向いてくれ」

 キトリが押し負けて後ろを向いた。黒いひもをはずし、アレクシは代わりに銀細工のバレッタで止めた。あまり上等なものではないが、普段使いにはこれくらいでいいだろう。


「お兄さん、なかなかいい男だね」


 にやっと笑って女性商人に言われ、アレクシは少し赤面した。その様子を見てキトリがくすくす笑う。

「どうもありがとう、アレク」

「ああ……」

 その時、大声が上がって三人の気がそれた。そちらに顔が向く。

「どうしてくれるんだ!」

 怒鳴り散らす男性に、怒鳴られる気の強そうな少女。いかにもな状況にアレクシは思わずキトリを見たが、彼女はぼんやりとその様子を眺めているだけだった。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


今日はもう一話投稿しますので、そちらもどうぞ。


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