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【17】










 セザールから兵を借り、アレクシたちは再び港に戻ってきていた。キトリは市街地を戦場にする気はないらしい。


「どうしますか」


 エリーズが尋ねた。キトリは顎に指を当てて考えるそぶりを見せる。その表情は、普段の彼女から想像もつかないほど真剣だった。


「とにかく、陸に上陸させなければいいのよ。陸上拠点を押さえ、海上を封鎖する」


 てきぱきとキトリが指示を出していく。それに合わせ、兵たちは動いた。キトリの護衛であるエリーズと、一人になるのは不安なアレクシは彼女について回る。

 さくっと陸上拠点を押さえて海軍の情報を集め始めたキトリを少し離れたところから眺めているアレクシに、エリーズが話しかけた。


「アレクシさんは大佐の何なんですか」


 ずばっと切りこんできた。しかも回答に困るようなことを言われた。


「……同僚、と言ったところだろうか」


 正確にはキトリは上司にあたるが、彼女がそんな性格ではないのと、出向で来ているだけである、と言うことから、みんなアレクシと同じような扱いをしている。すごい人ではあるのだろうけど。


「仲が良さ気ですが」


 じろっと下から睨みあげられる。かわいらしい系の少女なのに、どこか凄味があり、アレクシは内心たじろぐ。


「彼女にとっては弟みたいなもんだろう」

「ああ……」


 何故か納得された。


「お姉様と呼びたいですよね」

「……」


 エリーズのキトリ大好きぶりがすごい。まだ会って一時間くらいだが、それがひしひしと伝わってくる。何となく、ロジェを見ているような気分になる。キトリは「お姉様」と呼んでも怒らないだろうし、何なら彼女のロジェを結婚すれば本当に妹になれるのでは。


 砲撃の音が聞こえた。キトリが敷いた防衛線で近づいてこられない巡洋艦が砲撃してきていた。

「共和国軍交戦規定違反です!」

 エリーズが憤慨して叫んだ。この辺りの教育、キトリがきっちりやっていそうだ。憤慨するエリーズをはじめお借りした軍人の皆様に対し、キトリはどこまでも冷静だった。

「映像を残して。軍法会議になったら有利だからね」

「大佐!」

 通信担当者がキトリを大声で呼ぶ。彼女はゆっくりと近寄りながら「何?」と問いかけた。

「大佐の読み通り、陸上側からも迫ってきています。包囲しようとしているようですが……」

「フィヨンを包囲することは不可能だわ。大丈夫。予定通り、陸上からは防衛戦だけ敷くようにポワレ少佐に伝えてくれる?」

「了解です」

 キトリがどこまでもおっとりしているからか、借り物の軍人立ちも落ち着いて仕事ができているようだ。


「ひとまず、巡洋艦をどうにかしようか」


 キトリはそう言って届かないのに砲撃を続ける巡洋艦を眺めた。

「税金の無駄遣い……」

 ぽつっとつぶやいたのはエリーズだ。アレクシは彼女を見る。

「……それ、キトリに教わったのか?」

「よくわかりますね」

 驚いたようにエリーズは言ったが、そんな物言いをする軍人はキトリぐらいだろう。


「アルドワン級軽巡洋艦なら、主砲と副砲、魚雷しか搭載していないわね。射程も短いし……問題は、魔法動力で動いている、魔法軽巡洋艦だって事よねぇ」


 ぶつぶつとつぶやきながら、キトリは考えをまとめているようだ。それを、アレクシを含め兵たちはじっと見守っている。

「ねえ、アレク」

 不意に話しかけられ、アレクシは自分が話しかけられたことに一瞬気付かなかった。

「……あ、ああ、俺か」

「うん。アレク、確か氷魔法が得意よね」

「どこかの演劇の魔女のように入り江を凍らせることはできないが……」

「そこまで求めてないから大丈夫よ」

「だが、巡洋艦まで魔法が届かないぞ。遠距離すぎる」

 正確には、届かないことは無い。しかし、届くまでに威力が半減してしまうであろう距離だ。


「ああ、大丈夫。私が途中に力場を作るわ。そこを通過させれば、うまく届くはずよ」

「……キトリ……」


 なんか思っていたのと違う。完全に頭脳派だと思っていたのだが、彼女、結構戦えるのではなかろうか。


「完全に後方支援系の魔法だから、アレクみたいな人がいないとだめなの」


 キトリはアレクシが言わんとしたことを察したようで、そう答えた。それから彼女は兵たちに声をかける。


「この中に千里眼はいる? それと、テレパシーと念動力者は?」


 ぱらぱらと手が上がる。対象にならなかったメンバーには別の指示を与え、キトリは千里眼能力者とテレパス一名ずつ、念動力者二名をその場に残した。

「機関部を見つけられる? 前方下部にあるはずだけど」

「……はい。ありました」

 千里眼能力者が機関部を見つけたようだ。キトリがテレパスにその『映像』の共有を求める。アレクシを含む念動力者にだ。

「映像の共有は難しいんですけど……」

 テレパシーと言ってもいろいろ種類がある。会話ができる思考共有や考えが読み取れる開心術、精神攻撃もテレパシーに含まれる。本当は、視覚共有能力者が好ましかったのだが、残念ながらいなかったので思考共有能力者を残したのだ。


「アレク、機関部が見える?」

「ああ……ぼやけているが」


 アレクシの脳裏に軽巡洋艦の機関部がぼんやりと浮かび上がっている。思考共有(→視覚共有)であれば、視覚的にとらえることができるのだが、思考共有だとちょっと狙いを定めるのが難しそうだ。


「テレパスを挟んでいるから、仕方がないわね。エンジン部はわかる? おそらく、魔石を動力源にしている魔法融合炉のはずよ」


 それらは応用魔法でも利用するのでわかる。魔法工学にも位置するが、魔法利用と言う点では応用魔法でもあるのだ。

「ああ、見えた」

 機関部の軍人らしき人物もちらほら見える。キトリが「うん」とうなずく。

「アレク、エンジンを一瞬で凍らせて」

「……爆発しないか?」

 アレクシが危ぶんで尋ねると、キトリは「凍らせるんだから大丈夫。理論上は」と全く安心できないことを言った。

「……大丈夫なのか、それ」

「作戦はスピードが命。責任は私が取るから、やりましょう」

 アレクシの疑問には答えず、キトリは言った。キトリが呪文を唱えて魔法陣の形で海上に力場を作った。そこを通し、アレクシは氷魔法を軽巡洋艦に向けてとばした。エンジンが止まり、軽巡洋艦の砲撃が止んだ。それを双眼鏡で確認していたキトリがぽつんと一言。


「航行中じゃなくてよかったわね。まあ、どちらにしろセーフティがあったはずだけど」


 じゃあ大丈夫なんじゃないか。無駄に緊張したアレクシは、思わずため息をついた。

 キトリの指示で、念動力者が軽巡洋艦を港に引き寄せる。曳航途中で砲門も凍らせたので、撃ってくることは無いだろう。


「大佐!」


 もうすぐ着岸、と言うところでエリーズがキトリの肩を押した。その足元に銃弾が着弾する。狙撃されたのだ。


「私が脅威を認識しないと使えないのが欠点よねぇ……」


 キトリがしみじみとつぶやき、助けてくれたエリーズに礼を言った。エリーズは嬉しそうに「いえ」と微笑む。

 キトリの絶対防御は、基本的にどんな攻撃でも防ぐが本人が危険を認識しないと展開されない。つまり、暗殺には対応できないということだ。なので、キトリはこの力を「役に立たない」と評している。

 軽巡洋艦の内部を制圧する。そして、とんでもないものが出てきた。

「すみません……大佐……」

 全体指揮を執っていたキトリは軽巡洋艦の中には入らなかった。陸上で待機していたキトリはタラップを降りてきた女性兵に控えめに呼ばれて振り返る。つられるように、アレクシとエリーズも振り返った。

「お、おお……」

 声をあげたのはアレクシだったか、エリーズだったか。キトリは無言で目を細めた。

 兵たちが連れて降りてきたのは、どう見ても軍人には見えない子供たちだった。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


エリーズがキトリを好きすぎる件。


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