狭い空
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2017/8/12 投稿
今日は、川開きで花火が上がっている。
ドン、ドンという音が、遠くで響く。
客の入りも、いつもより少なくて、女郎たちはぼんやりと外を眺めている。
「今度の花火は、お前と一緒に」
そう言った男の足が遠のいて、ふた月になる。
女は、ひとり、遠い、その音を聞く。
見上げる空は狭くて、暗い。華やかな花はどこにも見えない。
男にはじめて会ったのは、昨夏の今頃。接待で常連客に連れてこられた――戯作者だという話だ。
「女郎は、身体は売っても心は売るな」
その言葉を肝に銘じてきたはずなのに。
いつの間にやら、男が描く戯作の女のような夢を見た。
――遊里はうつつで見る夢
焦がれても、籠の鳥は、ただ、待つだけ。
恋はまぼろし。儚い、夢。そして、夢は消えるもの。
女は、来るはずのない男を、焦がれて待つ。
空は狭くて。ひっそりと音は消えた。
夜が更け――朝が来ても男は来なかった。
待ち続けて。涙が枯れ果て――半年が過ぎた。
「花火には、間に合わなくて」
少しやせた男が現れて。
男は女を籠から連れ出した。
見上げた広い空に、白い雪の花が舞っていた。
イラストは、デリリウム・トレメンスさまからいただきました。
ありがとうございます。