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2話


 「あなたは何も知らないんですか?」 


 「うん、まぁ、なんというか……何にも知らないなぁ。」



 僕の言葉に疑わしげな視線を向けエルフは少し考えるように黙ってしまった。僕はここでうまれたばかりの魔王だから過去のこと、つまり勇者に殺される直前までのことしかわからないと伝えるべきか否か。このエルフはダイニングテーブルを挟んで僕と対面で向かい合ってお茶を飲んでいるのに僕の正体に気が付かないくらい鈍いというか頭が弱いのか。



 エルフが魔族であることは間違いない。だってエルフから魔力を感じるし。もしかして人間とエルフのハーフ? だとしても僕のこと気配でわかると思うんだけど……まさかのクウォーター? にしては魔力の保有量が多いんだよね。



 「記憶喪失ってやつですか?」


 「そんな感じかな。」


 喪失したわけじゃないけど。



 「どこまで覚えてますか?」


 「勇者に魔王が殺されたあたりかな。」



 「ああ。じゃああの時巻き込まれて記憶を失ったのかもしれませんね。」


 エルフは簡単に納得してくれた。逆に警戒心が薄くて心配になるレベルなんだけど。



 「魔王様が勇者に倒されたあと、勇者は興奮が納まらないと魔王領土を破壊し続けたようです。私はその場に居なかったのですが、まるで地獄のようだと生き延びたものは真っ青な顔をして言っておりました。」



 よかったさっさと殺されてて。あの勇者猟奇的なとこあったからな。生きたままハラワタを素手で抉り出してニャッと笑う姿なんて今思い出してもゾクッとする。



 「なんとか生き残った魔族はみんな人間に成りすまし生きていました。どのくらい生き残ったのか……私を含めグレーゾーン付近に住んでいた者は勇者が来た時点で逃げ出していたので助かったのですが、勇者の破壊行為に巻き込まれ、なんとか魔王領土から転移して逃げ出してき級魔族たちはもう瀕死状態で手当てもむなしく皆助かりませんでした。それはそれは見るも無残な姿で。」



 「あ、その姿について話さなくていいから。」



 あの猟奇的な勇者のことだ、聞きたくもない残虐行為があったことくらいわかる。勇者に殺された俺の死体だってどんな姿にされたのか、きっと無事ではない。抜け殻だからいいんだけどさ、死体になってもいたぶられるって気分はよくないよね。




 「勇者は一ヶ月ほど魔王領土に滞在し、人間領土に帰ってきました。一応魔王を倒した勇者なので人間たちは歓迎ムードで勇者を向かえもてなしたそうです。この町も毎日お祭り騒ぎでにぎやかでした。

 人間たちは魔族が居なくなったと思ったようでグレーゾーンを魔王領土を自分たちの物とし都市開発計画を始めていきました。まぁ、これは普通の流れですよね。人間は強欲で全部自分たちのものにしたくて魔王様を倒したんですから。魔王様は人間と共存できる世界を目指していたのに、人間は裏切った。それを知った勇者は人間に呪いをかけたんです。」



 「呪い?」



 え、あいつ魔術まで使えるの? どんだけチート能力全開で生きてるんだよ。



 「魔族のみが作れるザイラ薬を三ヶ月以内に摂取しなければ、行きながら体が溶けていく呪いです。皮膚が溶け、筋肉、臓器、骨が溶けるその呪いは激痛を伴い溶けきった後も死ぬわけではなく液体状のまま生き続けるのです。

 もちろん呪いの恐ろしさに三ヶ月がたつ前に自害しようとした人間も大勢居ましたが、何をしても死ねなかったようです。首を切り落としても心臓を一突きにしても体を八つ裂きにしても、痛みだけがあり、死ぬことはなくからだが再生する。」



 さすが猟奇的な勇者の呪い、えぐすぎる。

 肉汁になっても死ねないとか地獄だ。体が解けていく恐怖に痛み……想像だけで体が震え上がる。しかし、いったい何が勇者をそんなに怒らせたんだ? 人間側に騙されたことか? あんなに嬉々として魔族を惨殺してたくせに。


 

 「人間たちは必死になって魔族を探し薬を探しました。人間同士が争うようになりたくさんの血が流れました。私を含め魔族はザイラ薬を作ることはできますが三ヶ月では作れても5つが限界です。どうしても助けたい人間が居るわけけでもなかったので薬を作ることしませんでした。親切心で薬を作り隣人に与えた友人は魔族であると町中にばれて宮殿に無理やり連行され監禁状態で休むまもなく薬を作らされ過労死しました。

 勇者は人間が醜い争いを続け苦しみながら溶けていく様子を玉座にすわりニヤニヤと見届けてから姿を消しました。今はどこに居るのかさっぱりです。」



「肉汁になった人間たちは今どこに居るんだ? 死んだわけじゃないんだろう?」



「彼らは液体なのでいろいろな所に居ますよ。それこそ地面だったり家の壁だったりどこにでも。濁った汚いスライム出来そこないです。ほら、ここにも居ます。」



 エルフはそういって屑篭を手に取り俺に見せた。中には茶色や黒や緑など色々な色が混じった半透明の液体が入っている。まさかこれが?


 ふれる気にはなれないが……触感はスライムに似ているんだろう。完全な液体というわけでもなさそうだが、スライムのように弾力がありそうにも見えない。



 「なんでそんなものを飼ってるんだ?」



 「飼ってるというか、いつの間にか居たというか。見慣れたらかわいいものです、何も出来ない、何もしない、生きてる価値すらないような人間の残骸ですけど。」



 野良猫が居ついたてきなノリで言われても。魔族は人間好きだけどこれは好きになれそうにない。




 「私以外にも生き残っている魔族はちらほら居るはずですが、面倒なので連絡も取ってないのでどこに居るのやら。」




 「わかった、色々ありがとう。」



 エルフに礼を述べエルフの家を後にした。エルフはもっとゆっくりしていけば良いと社交辞令か本心かわからない事を言ってくれたけど、今はまだ一箇所にとどまることは危険だと本能が告げている。

 僕がうっかりよみがえらせたのは勇者だ。エルフの話を聞いて確信した。今どこにいるかわからない勇者しかあんなところに居るわけがない。自分自身に何らかの魔術をかけて機能停止させていたところを僕が無理やり起こしてしまったんだ。


 最悪だよ。殺されるよりもエグイことされそうだし。誤って許してくれる相手でもなさそうだし。僕に出来ることはただ一つ、とにかく逃げる。レッツ エスケープ!



 




 町の地面はエルフが行ったようにいっぱい居た。ものすごく気持ち悪い。折り重なって山になってるやつらはいったい何がしたいんだろう。彼らにはまだ思考が残ってるのか?

 僕の再生魔法でもしかしたら人間の姿に戻せるのかもしれないけど、戻したら危険な人の場合もあるし、うかつに使いたくない。

 




 「見つけたぞ。このやろう!!」



 あー 幻聴が。

 僕はまたすぐに転移魔法を使用した。ものすごくデジャブ。



 「ここどこだ?」



 僕は今牢屋の中に居ます。

 牢屋の中に転移って……まぁ、牢屋の外に転移したら良いだけなんだけどさ。




 「おい、お前は誰だ。」



 「えっ?!」



 振り返ると僕の後ろには2メートル超えのデカイ男が鎖につながれていた。

 

 



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