エピローグ
あれから数年後。火事の被害は無事収めることができた。
そして今……。
「アナリー! ロラン! 走っちゃいけませんっ」
「お母様、うるさいー。行こう、ロラン」
「うん、お姉さま」
私とアランには、ふたりの子供が生まれた。
双子の姉、アナリーに、弟のロラン。現在五歳。
まるで私達をひっくり返したような容姿をした、元気な子供達。
空色の髪を巻き髪にしたアナリーはとっても気が強く、サラサラの金髪の髪を持つロランはとても気が弱い。
大好きなお姉ちゃんの後を追っかけるロランと、面倒を見るアナリーの仲はとても良い。
アランはアランで、自分の仕事に追われている。
学校は無事卒業して、それから子供ができた。エディは感激で泣いていたし、メルは拗ねた。バイオレットは子育てのノウハウを教えてくれた。レイラは可愛いお洋服を縫ってくれた。もちろん彼らと私達は今も仲がいい。
「リリアナ様、可愛いお洋服ができましたよー」
「レイラ! いらっしゃい」
「レイラお姉ちゃん、こんにちは!」
「こんにちは……レイラお姉ちゃん」
「こんにちは、アナリーさん、ロランさん」
どうやら、ロランはレイラに気があるらしい。
もじもじして頬を染めて、まあ、ませてるったら。
そんな弟を、アナリーがからかわないのは理由がある。
「ロラン、外で遊ぼうか」
そう言って現れたのはエディだ。十四歳だった子供が、かなりの美青年に育った。
落ち着いた性格のエディは、今ではかなりモテる。
「エディ様―!」
「エディおじちゃん、だろ? アナリーちゃん」
「おじちゃんじゃないもんっ、王子様だもん! エディ様はアナリーの王子様!」
「アナリーちゃんなら、すぐに本当の王子様が現れるよ?」
「今すぐ前の前にいるんだもん!」
困った顔で笑うエディ。まあ、そういう事だ。
そんな様子を、後ろでメルとバイオレットが見てる。
メルはもう、誰が見ても美男子とわかるように育った。
あの子供っぽいあどけなさはほとんど残っていない。
バイオレットは、貴婦人に取り合いにされているらしい。
「ボク達呼ばれてきたんだけど?」
「わたしも、アラン王子の誕生日だって聞いたけど」
「誕生日の宴は別の日にやるから身内でっていってたねー、バイオレットおにーちゃん」
「そうだね、メル君。で、肝心のアラン王子は?」
「さあ?」
首をかしげるふたり。
「アランは仕事中。もうすぐ戻るわ」
「忙しいねぇ、さすが次期王様」
バイオレットがそう言って笑う。
本当、私もいずれはお妃様なんだから、不安になるよ。
そうこうしているうちに、アランがぐったりした顔でやってきた。
ほかのメンバーには気が付いてないようだ。
「リリアナ、ただいま」
そう言いながらべったり私に抱き着いてくる。
「ただいま、アラン兄さん……あいかわらずだね」
「エディ!? 皆!?」
慌てて私から引きはがれるアラン。顔は真っ赤だ。
「アランお兄ちゃんは甘えん坊だよねー」
にやにやするメル。
「僕は別にっ」
必死に否定するアラン。
「まあまあ、ラブラブなのはいい事だよ。って言うかラブラブじゃなくなったらゆるさないよ?」
「バイオレット先輩、怖いんだけど?」
「エディ君も内心はそう思ってるだろう?」
「まあ、そうですけど」
レイラはにこにこしている。
懐かしいメンバーに心安らぐ私。
広くて白いこのお城では最近はマナーなどをさらに学んでいたし、子供の世話で遊ぶなんてもってのほかだった。
だから、数年前のようなこんなゆるやかな時間がすごく幸せだ。
アランはなんだかんだで私の横をがっちりキープしながらむせている。
「リリアナを僕以外の男にわたすわけないし……」
「暑いねー……ボクだって、色男って言われるようになったから、わかんないよ?」
メルがアランをからかう。
「リ、リリアナ、ほかの男は興味ないよね? ないよね?」
とたん、慌てだすアラン。周囲は笑いをこらえている。
私も笑いそうになりながら、アランの手を握る。
「大丈夫だってば。でも今日は、みんなでお祝いしましょ? ずっと楽しみにしてたのよ、いつものメンバーで集まるの」
「……うん」
アランはその言葉で落ち着いたらしく、頷く。
そして私の耳元で囁いた。
「夜は、あけておいてね」
「はいはい」
「ふたりともー早く始めるよー? ボクお腹すいちゃった」
メルのせかす声に、慌ててはなれる私達。
部屋には豪華な料理が所狭しと用意されていた。
「では、アラン王子の誕生日を祝って! カンパーイ」
皆でグラスを合わせ、お祝いを始めた。
**********
子供がいるので、皆でジュースで盛り上がった後、しばらくしてパーティーは解散した。
皆からは、段ボール入りの何かをもらった。
なんだろうと思いつつ、あとであけることにする。
アランに誘われて、ベッドに飲み物を持って移動する。
子供を使用人に任せて今日は二人だけの時間を楽しむ。
「アラン、誕生日おめでとう」
「プレゼントはもちろん君だよね? リリアナ」
私は思わず頭を抱えた。
アランはどんどん独占力が強くなっている気がする。
「最近子供に君を取られがちで、すごく寂しいんだ……」
顔を赤くして、視線を泳がせるアラン。
もじもじしていて、すごく可愛い。
「そんな、子供は子供、アランはアランよ。どっちも大切」
「わかってるけど、焼いちゃうんだよ」
「可愛い、アラン」
「かわっ……!?」
うん、アランはやっぱり可愛いよ。
私は思わずアランを抱きしめる。
アランが私をじっと見つめる。そして髪の毛をかき上げて、私にそっと口づける。
そしてそのまま……となりかけたときに、ふと私はプレゼントの存在を思い出す。
「リリアナ?」
手が止まった私に不思議そうなアラン。
「プレゼントの中身が気になって」
「こんな時に?」
うん、アランの言葉はごもっともだ。
「ごめん、開けていい?」
「いいけれど……雰囲気ぶち壊し……」
そりゃそうなんだけど……私は箱を開けてみる。
すると中身は……。
「赤ちゃんの服?」
なんで? と思い、代表者のバイオレットだろう筆跡のメモを見る。
『すぐに次の子供ができるだろうから、その時に使ってね。ハッピーバースディ! 一同より』
「…………」
無言で真っ赤になる私達。
そして思わず距離を取る。
「よし、寝ようかリリアナ」
「そうだね……おやすみなさいアラン」
「おやすみ」
私達は距離を置いて、そのまま眠りについた。
夢には、沢山の思い出が走馬灯のように出てきた。
初めて悪役令嬢だと知ったあの時から、もう何年もたつ。
それでも今の私は幸せだ。
あの時、乙女ゲームの悪役令嬢を楽しみたい! そう思うってよかったと思う。
「皆、大好き……」
さきに目が覚めた私の横で、そう寝言をつぶやくアランを見ながら私はほほ笑む。
本当に、転生してよかったなあ。
「私も、大好きよ」
そう呟いて、私は白いレースのカーテンを開いた。
HAPPYEND
また、機会があればリリアナ達の話を追加していきたいと思いますが、いったん完結という形をとらせていただきます。
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