物語の終わりは物語の始まり
真っ白なウエディングドレスを着た私は、悪役令嬢らしいルックスのせいで、とても似合わない。この格好でパレードで街を練り歩くのか。恥ずかしいなあ。
アランもキラキラした白いタキシードを着るんだろうけれど、絶対似合うんだろうなあ。
今からドキドキして、恥ずかしくて逃げだしたい。
あのあと私の気持ちを悟った皆は、アランとの関係を冷かしまくってきた。
どこか残念そうな雰囲気があったのは、きっと気のせい。
「リリアナ様素敵です! 天使のようです!」
「そんな事ないよ、レイラ」
思わず照れる私。可愛いレイラに言われると、なんだか恥ずかしい。
エンディングは今日のはずだ。火あぶりは真逃れたと思われるけれど、まだ油断はできない。
「今日は結婚パレードですから、気合を入れないとっ」
「白い馬の引く馬車とか、お姫様になったみたい」
「お姫様よりすごい立場になるんですよっリリアナ様は」
「私に務まるかなあ」
石投げられたりしたら嫌だなあ。
でも、悪役令嬢だから、ありえる。
「アラン様がお待ちですよ」
「恥ずかしいなあ……」
「リリアナッ!」
「アラン!」
アランが待ちきれずにやってきた。
きらびやかな衣装がよく似合うのは、さすが王子。
エディ達も駆けつけている。
「うわーすげーな。リリアナ姉がとうとう人妻に」
「人妻いうなよエディ」
「オレも、リリアナ姉のこと好きだったんだぜ」
「どさくさに告白するなよ!」
「え……嘘でしょ?」
「本当本当、バイオレット先輩やメルだって」
「ちょっと、わたし達の情報をばらさないでくれるかな」
「リリアナ姉ぐらい鈍くなければとっくにバレてるよ」
「それはそうだけどさ」
え、私って鈍いの? ガーンッ。
知らなかった……レイラを見るとうんうん頷く。
えー! 否定してくれないの!?
「あ、ありがとう皆。私なんかを好きになってくれて」
思わずどぎまぎしながらお礼を言う私。
皆はニッコリ笑顔。私までうれしくなってきちゃう。
着飾った皆も、最高にきれいだよ!
私は使用人に呼ばれアランと部屋を出る。
大きな馬車に乗り、街を一周する予定だ。
「うわあ、高い、怖いよー。落ちないかな」
「僕がついてるから大丈夫」
「これから、アラン・ナイト王子とリリアナ・ローズの結婚パレードを始めます!」
街中に向かって、放送が始まる。わあ、とにぎやかな声が聞こえた。
されるがままに外に馬車で出てみると、紙吹雪と花吹雪が待った。
意外とみんな歓迎ムードだ。私はおびえながら、手を振ってみる。
すると子供が手を振り返してきた。あーん、可愛いよぉ。
「アラン、子供ってかわいいね! 早くふたりの子供が欲しいね!」
「ぶっ」
「アラン? どうしたの? 真っ赤だよ?」
「……学生のうちは無理だよ」
「あ、そうだね。卒業したら子供産めるかな?」
「……どうだろうね」
アラン、塩対応。なんで―?
その後もアランは愛想を振りまきながら握手などをしていた。
「王子さまー何でリリアナさんを選んだの?」
そう質問してくる子供もいた。
「リリアナが世界で一番素晴らしいからだよ」
「アラン、盛らないで!」
「盛ってないよ、事実だよ?」
さわやかな顔で嘘言わない!
私はアランを小突いた。
アランは苦笑いを浮かべる。まったくもう。
「パレードが終わったら結婚式だね」
「アラン、今から私緊張するよ。式場が火だらけにならないかな?」
「お父様にあの鏡を見てもらったから、大丈夫。火あぶりはないって」
「王様が私のために一度しか使えない鏡を?」
「僕のためでもあるからね」
なんか申し訳ないなあ。
「ありがとうって言っておいて」
「自分でいつでも言えるよ。これからはずっと一緒なんだから」
あ、そうか。これからはお城で生活するんだ。
なんかすごいテンション上がってきた!
もう、私のためのお部屋もあるしね。
そうこうわいわいしていると、馬車の前に何かが立ちはだかった。
猫だ。
「にゃああ」
「うわあああ」
馬車が思わず揺れる。そして私はアランの上に倒れた。
ヒューと冷やかす声があちらこちらから聞こえる。
「王子様、キスして―」
子供が嬉しそうに言った。
「どうする? リリアナ」
「え」
「サービスしちゃおうか」
アランはそう言って、私を引き寄せた。
そしてそのまま私にキスをした。
「んっ……」
私は腰砕けになりながら、アランにされるがままになる。
子供たちは言葉を失っている。そりゃそうだ。
子供の望むキスはこれじゃないだろうし。
アランはしばらくしてそっと私から離れた。
そしてぎゅっと私を抱きしめる。
「愛してるよリリアナ」
「…………」
「返事は?」
「私も、好き」
案の定周囲は悲鳴を上げる。
恥ずかしいったらありゃしない。
私は顔を熱くしてそのままアランの手を握った。
この噂を聞いた村人たちが、少し動くたびにキスをせがんだのは言うまでもない。
**********
あれから結婚式を盛大に行って、今は後片付け中だ。
誓いのキスも、物珍しさがあったもんじゃない。
今日はキスの大セールだったから。
アランってこんなに積極的だっけ? 前から割と押し強い時はあったけれどさ。
もしかして、両想いになってリミッターが外れた感じ?
ずっとそばにくっついて甲斐甲斐しく私の世話を焼いているし。
「リリアナ姉、おめでとう」
「リリアナさん、綺麗だったよ」
「うんっ、最高だったよ。リリアナお姉ちゃん」
「涙が止まりません……」
皆も結婚を祝福してくれるし。
ブーケトスはレイラが取ることができた。
レイラは誰と結婚するのかな? ゲームではなかったエンディングを迎えるのは間違いないけれど、気になるなあ。
「これからは、リリアナ・ナイトだね」
「アラン!」
くすくす笑うアラン。そうなのだ、これからはアランと同じ苗字になるのだ。
そう思うとなんだかむずかゆい感じ。
リリアナ・ローズの悪役令嬢の物語はここでいったんおしまいになる。
これからは、王女リリアナ・ナイトの物語が始まるのだ。
どんな困難にも負けないで、人生を楽しんじゃおう!
「みんな大好きだよー!」
私は力強く叫んだ。
これからも、みんな一緒だよ!
END
新連載をはじめました!
「この異世界で私だけがもふもふに愛されている」
という作品です。可愛いもふもふがたくさん出てくる楽しいお話です!
ちなみにあと一話エピローグが続きます。