真実の鏡と消えたアラン
アランと両想いになって数日が立つ。
周りには秘密の関係だけれど、それがどこか特別な感じがして逆にいい。
本当は、レイラとアランが結ばれるべきなんだけれど、レイラの攻略対象はまだ三人いるし……でも、火あぶりにならないためには結ばれないほうがいいのかな。
アランが味方ってだけで、どうにかなるような気さえするのは、私が浮かれているからだろう。だって前世からずっと好きだったアランと結ばれるんだよ!? 浮かれないわけないよね!?
今日はアランの家でお泊り。レイラはお留守番。
同じ部屋で寝るまで過ごし、別室で就寝する予定。
そんな時アランが不思議な形をした手鏡を持ってきた。
丸いんだけど、ところどころゆがんでいる。色も玉虫のよう。
「アラン、その鏡は何?」
「不思議な鏡だよ」
「え?」
「未来を見ることができるんだ。リリアナは、未来を異常なぐらい気にしてたから、お土産にもらってきたの」
「貸して!」
「いいよ。心で見たいものを願ってね。僕もあとで見て見ようかなあ」
私はアランから鏡を奪い取り、願う。
(私の未来を見せて)
そう願うとかがみがゆがんだ。
そして黙々と煙を出したかと思うと、火あぶりになる私が見えた。
呆然とする私。そして次に気になることをもう一個願う。
(このままだとレイラはどうなるの?)
その質問には、まさかの答えが返ってきた。
死んでしまったレイラを、皆で泣きながら囲む姿が見えたのだ。
「アラン、レイラがこのままじゃ死んじゃうよ!」
「何を見たの、リリアナ」
「レイラが死ぬ映像」
「そんな馬鹿な」
「きっと私がアランとくっついたから! レイラがアランとくっつかなきゃいけないのに……」
「何言ってるのリリアナ。僕はレイラとくっつく気はないよ!?」
私のせいで、レイラはバッドエンドへ向かっちゃってるんだ。
あんなにいい子なのに、ヒロインとしての役目を果たせなかったから。
「別れよう、私達」
私はアランの胸をつかんだ。
それをそっと振りほどくアラン。
「何言ってるの、リリアナ。落ち着いて」
落ち着いてられるわけないじゃない。
私はかんしゃくを起こした子供のように叫んだ。
「レイラが死ぬのは、いやだよっ」
「僕だってそれはいやだけれど」
「じゃあ、別れて、レイラとくっついてよ!」
アランは頭を抱えてため息をつく。
私はわんわん泣きじゃくっていた。
「リリアナ。君は何回未来を見ようとした? この鏡で」
「……? 二回だよ」
「レイラの未来は何度目?」
「二回目だけど」
それがどうかしたの?
私が首をかしげていると、アランはため息をついた。
「この鏡は別名嘘つき鏡とも言われていてね、ひとり一度しか、本当の未来を見れないんだ」
「えっ」
じゃあ、レイラの未来は嘘って事?
でも、火あぶりは……。
ぽかんと口を開けている私から、アランは鏡を奪う。
「だから、レイラは死なないよ、安心して」
「よかったあ」
「むしろ、逆の運命をたどるんじゃない? きっと彼女は幸せになるよ。で、リリアナはどういう未来を見たのかな?」
「それは、秘密……」
「ふふ、きっと僕とリリアナの素晴らしい未来だね」
ごめんアラン、全然違うんだ……。
「まあ、レイラの未来は彼女に直接見てもらえばいい話だよ。それで、自分なりに未来を変えてしまえばいい」
「そうだね、私は私」
「そうそう」
私は唇をかみしめる。大丈夫だ、きっと私はバッドエンドを阻止する。
そう思い、願えば、きっとできるはずだ。
アランは鏡をしまい、私に豪華なごちそうをふるまった。
大きなプリンをふたりでつついて、笑い合う。
そうそう、暗い事は考えないの。人生、楽しまなきゃダメだよっ。
「アランは鏡使わないの?」
「食事が終わってからでいいかなあ」
「なるほど」
「どうせ、未来は決まってるから」
「逃げるものじゃないもんね」
「そうだよ、僕はリリアナを幸せにするって決めてるんだ。どんな逆境でも変えて見せる」
「アラン……」
私は嬉しくなって表情をとろけさせた。
心強いなあ、アランの存在は。
私はプリンを平らげて、ますます幸せな気持ちになった。
しばらくして、アランが鏡を取り出した。
そして、無言になる。いったい何を見たのだろうか。
「アーラーン、顔色悪いけれどどうしたの?」
もしかして、プリンの食べすぎ?
バケツサイズのプリンは、ふたりで食べるには多すぎたよね。
私がいつか食べたいって言ってたのが悪いんだけれど、無理に夢につき合わせちゃったかな?
「……別に、なんでもないよ。変な嘘を見ちゃってね」
「どんな?」
「言いたくない……」
「まあ、どうせ嘘だしね。気にしちゃダメだよ、アラン」
「うん……」
どうも気が重そうなアランの背中に抱き着く。
アランは嬉しそうに振り返り、寂しそうに笑った。
「リリアナ、君は僕が絶対守るからね。何に変えても守るからね」
「? どうしたのアラン」
私の両手を握りしめて、アランがつぶやく。
「絶対、リリアナを幸せにする……」
「?」
訳が分からないまま、私はきょとんとする。
アランは食事を片付けてもらうと、私を深く抱きしめた。
「好きだよ、リリアナ。誰よりも愛してる」
「アラン、恥ずかしいよ」
「君のかわりはいやしないんだ」
「それは、アランもだよ」
皆に愛される王子様なんだから。
この国自慢の美形で優しい王子様。ほかの国での人気も高いって、最近知ったけれど、納得だよね。だってそれぐらい、アランは魅力的だもん。
細身ですらっとしてるし、いい声してるし、なんでもできるし。
まるで少女漫画のヒーローのようだ。ハイスペック王子様。まあ、乙女ゲームのメインヒーローだから当然かもしれないけれど。
「寝る前に、少しこうやって抱きしめてていいかな」
「はずかしいけれど、いいよ」
「ありがとう、リリアナ」
アランはそう言う通り、数分ほど私を抱きしめてから眠りについた。
私もアランのぬくもりを体に残したまま、夢に落ちた。
**********
「リリアナ様!」
「!? 貴女はお城のメイドさん」
呼ばれて飛び起きた私は、あくびをしながらそう言った。
なんか、すごい顔が青いけれど……どうしちゃったの?
まだ眠ってても学校に間に合うよね?
私の家より、お城から学校のほうが近いはずだし。
「どうしたの? まだ遅刻じゃないはずだけれど」
「それが……」
メイドはもごもごとしながら、泣きそうな顔をしてうつむく。
「それが?」
「アラン王子が姿を消したのです!」
「……え?」
その日、アランは気が付けばお城から姿を消していたらしい。
慌てて私達はアランを手分けして探そうとしたけれど……。
結局アランは、一向に見つかることもなく、学校にも現れることもなかった。
実はですね!
現在新作を準備中です。
あと数日で発表できるかと思うので、また明日詳しく発表させていただきますね!




