さらわれたリリアナ
私は今、アランへのプレゼントを買いに行っている。
これと言って何のイベントもないけれど、最近お世話になってる気がするので、そのお礼だ。何がいいかなあ。おいしい食べ物が一番気楽かなあ。あんまり高価なものは、重いよね。
私は街の中で、おいしい木の実を眺めていた。転生する前の世界にいはない、不思議な名前の木のみがたくさんある。変わった効能もあって、さすがゲームの世界だと感心する。
「これとこれとこれください」
「はーい、お嬢ちゃん可愛いからおまけしておくよ」
「ありがとうございますっ」
「お嬢ちゃん、王子様の婚約者だよね」
「はいっ、そうです、一応」
「じゃあもっとおまけしちゃおう。そのかわり、王子様にこの店宣伝してね」
「はいー」
わあい、木の実一杯貰っちゃった!
これで、何かシェフにお菓子を作ってもらおうかな!
そう思っていると、後ろからポンと誰かに背中を叩かれた。
振り返ってビックリ。そこには強面の男たちが立っていた。
「お前が王子の婚約者か」
「はい、そうですけど……何か」
「ついてこい」
「えっ」
「ついてこい!」
「はい……」
私は泣きたかったけれど、言うとおりにした。
指輪に探知機がついてるはずだから、きっとアランは気が付くだろう。
だから、絶対大丈夫。それに私なら、着っと助かって見せるんだから!
**********
私は薄暗い部屋に閉じ込められた。
うわあ、窓代わりの格子が壊れそうな感じだ。でも、これならあの方法が使えるだろう。
私はその部屋に投げ込まれ、粗末な食べ物を与えられた。
私を殺す気はないらしい。
「お前は王子の人質だ」
そう言って男達は私の前で手紙を書き始めた。
「これを、とある人に渡させて、王子に伝える」
「…………」
「おとなしく人質になっていれば、危害は加えないつもりだ」
「何が目的?」
「王族に恨みがあるんだ」
「なるほど」
あののほほん王族でも、恨みを買うことがあるんだなあ。
イメージわかないけれど、まあ、そんな事もあるよね。
同情しつつ私は出された水を飲む。うーん、おいしくないなあ。
「暇なら本でも読んでろ。普通の小説なら何冊かある」
「はーい」
「では、逃げようとは決して思うなよ」
「わかりましたー」
男たちはそう言って去っていった。
よし、逃げよう!
人気がなくなったのを確認すると、私は風魔法を無言で発動する。
すると、ボロボロの格子はがたがたと揺れだした。そしてそれが降ってきたところで、私は音を立てないようそれを受け止める。
「よしっ」
そして本を踏み台にして、私はその穴から抜け出した。
外に出てみると、田舎の風景が広がっていた。
目の前には、アラン達やお城の警備の人たちの姿もある。
やっぱり、指輪のおかげだねっ。
私がにっこり笑うと、アランは私を抱きしめた。
「……僕のせいで誘拐されたんだって、リリアナ」
「大丈夫だよ、私は無傷だし」
「そういう問題じゃ無いよっ、リリアナは女の子なんだよ!」
「はいっ」
迫力あるアランの声にビビる私。アランが怖いよー。
そこに、強面の男たちがやってきた。
「おい、婚約者! 何で外に出てるんだ」
「お前らが誘拐犯だな!?」
叫ぶアラン。しかし、誘拐犯は。
「お前は誰だ」
「……へ? アラン王子だけど」
「俺らが捜してるのはソウル王子の婚約者メリーだ!」
「……私リリアナですけど、それって隣の国の王子と婚約者じゃ……」
「!」
強面補男たちの顔が真っ赤になる。
「間違えただと……」
「そうみたいですね」
アラン差が冷めた声で言った。どうやら呆れているらしい。
というか、狙ってる王子の婚約者の顔ぐらい調べときなよ。
「どうか俺らを見逃してくれ!」
「隣国に伝えておくよ」
「なんと!」
「当然だよね。僕の国と隣国は仲良しだから」
そう言えばそうだっけ。
「じゃあ、とっとと立ち去って。僕はリリアナに用事があるんだ」
「はい……」
しょげながら立ち去る強面の男達。
私は何の話があるか不安に思いながらアランを見る。
するとアランは真剣な顔をして私を見た。
「ねぇ、リリアナ。婚約破棄しよう」
「え?」
「リリアナは僕を好きでも嫌いでもないんでしょ」
「それは」
「そのせいでこんなふうにリリアナが危険にさらされるのは、耐えられないよ」
「私は」
「いつもはぐらかしてばっかじゃない、答え」
だって、好きって言いたいけれど……そうしたら、私は。
でも、これ以上ごまかして、婚約が解消されるのも困る。
「私は、アランの事が好きだよ。ほかの男子は考えられない……」
きっと、男性の中で一人選ぶならアランだろうし。
アランといるとたまに胸が締め付けられるし。
「!」
「でも、それを周りには言わないで欲しい」
「どうして」
「私の中でまだけじめがついてないから」
「……そっか、わかったよ」
アランは少し寂しそうに言った。
「もう少ししたら、はっきり気持ちに蹴りをつけるから」
「急がなくていいよ。僕が一番ってわかっただけで、僕は嬉しい」
「アラン……」
アランはそう言って私を抱きしめた。
いい香りがほんのりする。
私達はしばらく抱き合った後、馬車の中でゆっくり帰宅した。
そのころは、悪役令嬢の自分にもハッピーエンドが来るんじゃないかって、ほんのり期待までしていたんだ。




