文通をしよう!
最近巷では文通がブームである。
特に、貴族の令嬢の間では、特別流行っている。
知り合いを通じて相手を探して、本音を語るのだ。
「私も文通がしたいよ、アラン」
「相手探しておこうか?」
「いいの?」
「もちろん。僕の知り合いでいいかな?」
「大丈夫大丈夫! 女の子ならだれでもいいよ」
「女の子ね、おっけー」
軽い返事でそう返すアランに、目を輝かせる私。
ちなみに今は放課後で、帰宅前である。
だから隣にはエディとレイラがいる。
当然のようにレイラにも文通相手は存在するらしい。いったい何を語り合ってるのやら。
エディはそもそも執筆で忙しく、それどころじゃないみたいだけれど。
「どんな子かなあ……楽しみ」
私は鼻歌を歌いながら、上機嫌でそう言った。
**********
数日後。アランからとある少女の住所を渡された。
「シンシアちゃんって言うのね。うわあ、どんな子かしら」
「この国の、町娘だよ」
「そうなの、今からわくわくするわ」
私、あまり普通の女の子と交流する機会ないのよね。
私はもそもそもとレターセットを取り出し、さっそく一通目をかきだした。
『こんにちは、初めまして。リリアナです。魔法科の一年生です。シンシアちゃんよろしくね。趣味は友達と遊んで楽しい思いをする事です、仲良くしてね』
短く簡素な手紙だったけれど、必要最低限の事は書いたはず。
すると一日もしないうちに、アランから返事が渡された。
『リリアナさん、お手紙ありがとう。シンシアです。十六歳の女の子です。学校には通っていません。アラン王子とは、知り合いの知り合いです。アラン王子との婚約はどうですか?』
「おお……かわいいピンクのレターセット……私は質素な白いやつなのに」
「今度からはレターセットに凝ってみてもいいかもね、リリアナは」
「ペンも色付きにしようかなあ……」
文通とか、生まれて初めてだけれど、お母様がお手紙が好きなはずだわ。
この世界では、メールなんてものはないから、用事があれば全部お手紙。
だから、レターセットも言えばたくさんあるはずよ。
私は早く返事を書きたくて、レターセットに絵をかいた。
うん、これで地味じゃなくなる。
『婚約は、自分でもよくわからないの。でも、アランは優しいわ。学校も楽しいし、皆が大好きよ。シンシアちゃんは、お友達好きかしら?』
「アラン、出しておいて」
「はいはい」
そしてまた次の日に、返事は来た。同じ国とはいえ、返事が早すぎるんじゃないのかな?
疑問に思いつつ、私は新しいレターセットを取り出す。
白地にレース加工のついた、高そうなレターセットは、お母様のお気に入りだ。
ペンのインクも、ほんのりピンクのしてみた。香り袋を入れて、完成。
ラベンダーの香り袋は、家にあったものだ。
「文通って楽しいわね」
「そう? それはよかったよ、リリアナが楽しそうだと、僕も幸せだから」
「アランも文通したら?」
「王子が文通はちょっと相手が見つからないと思うよ……」
「ああ、たしかにそれはあるかも。皆が恐縮しそうだし」
雑談とか、愚痴はすごく書きにくいよね……だって王子様だもんね……。
気心知れた私達ならとにかく、知り合いの知り合いじゃ無理だろうなあ。
匿名でやるなら、別問題だけれど……。
「リリアナの場合も結構探しにくいんだけれどね」
「どうして?」
「王子の婚約者だからだよ」
「あー……」
「今回はこの子しか候補がいなくてね……」
そういうのもあるんだなあ……。
まあ、私は周りから見たらアランの特別な人なんだろうなあ。
私にとってのアランは……。
「でも、楽しそうに文通してて何よりだよ」
「うんっ、ありがとうね、アラン」
「いえいえ、僕はただの仲介人だから」
それからも、シンシアからのアランとの関係の質問は続いた。
どれもこれもあいまいに答えてるけれど、実際問題私の中でも整理がついていないのだった。
**********
あれから一週間。すごい頻度で私とシンシアは文通を続けている。
たまに一日に二度返ってくるし。
アランはどうやって渡しているんだろう?
疑問に思っていた私は、アランを尾行することにした。
「はい、これシンシアちゃんへの手紙」
「わかった、届けとくよ」
そう言って放課後どこかへ歩き出すアラン。
馬車には乗らないんだ? なんでだ?
疑問に思っていると、個室に入っていった。
それをのぞき込むと、何やらもそもそやっている。
不思議に思った私は、個室を開けてみる。
アランは何かに集中しているようで、気が付く様子がない。
「アラン?」
「わああああああ」
「何もそんなに絶叫しなくても……って、なにこれ。私からシンシアへの手紙と、その返事じゃない」
何でアランが?
「え、えっとそれは」
「もしかして、アランがシンシアだったの!?」
「……うん、相手が見つからなかったって言うと、ショックうけるかなあって」
「でも、私の気持ちを探るような質問ばかりしたのはどうして?」
「それは、リリアナにとって僕との婚約が負担になってるなら、破棄しようと思って」
「そんなあ、私は」
「私は?」
「嫌ではないよ……でも私は」
悪役令嬢だから……私と結ばれても、アランは幸せになれないだろう。
シュンとしていると、アランは私の頭に手を置いた。
「無理に答えなくていいよ。急がなくていいから。僕はいつまででも待ってる」
「アラン……」
「嘘ついてごめんね。今度はもっと遠い国の子も探してみるから」
「ありがとう、アラン」
そこまでしてくれなくていいのにな。
アランはやっぱり優しいなあ。
何でそんな人が私を好きだというのだろう。
「これからも、仲良くしてね」
「何言ってんのリリアナ、当然じゃん」
アランは不思議そうに首を傾げた。
「えへへ」
本当に、心から願う。
ずっと平穏でありますようにと。
私はアランを見て、にっこり微笑んだ。