エディ、結婚!?
エディが最近よそよそしいのは気のせいではないはずだ。
なんだかお母様たちも、ちょっとよそよそしい。
「エディ、何があったの?」
「リリアナ姉には関係ないよ」
「? 私じゃ協力できない?」
「……うん」
そんな感じで、いつも上の空。
私はエディが気になって仕方がない。
アランに相談しても、わからないとのこと。
そして、それから数日後。
「申し訳ありません、お母様。オレ、無理です!」
「エディ、私達に感謝する気持ちがあるならこの話を受け入れなさい!」
「感謝はしています。でも、オレ……」
家の中で口論が聞こえる。
慌てて私は中に入る。
中ではお母様とエディが言い争っていた。
「貴方は優秀なのですから、そろそろ婚約の話をもっていってもいいはずです」
「オレはまだ十四ですよ?」
「もう結婚できるでしょう!?」
「できますけど」
「……貴方が間違いを犯さないか心配なのですよ……ってリリアナ! なぜここに」
「ちょっと気になって」
「リリアナ姉……」
あ、なんか来ちゃいけなかった雰囲気?
すごく歓迎されていないね。
エディは気まずそうに眼をそらすし……。
「リリアナ、貴女も早くアラン王子と身を固めなさいっ」
「そんな……」
「そのうちアラン王子に逃げられてしまうわよ」
「それはないかな」
ぼそりとつぶやくエディ。
「エディ?」
お母様はエディを見る。
「とにかく! もうすぐお見合いをします! いいですね」
「はあ……」
エディは困惑している様子だった。
お母様はきつい表情をして部屋を出て行った。
私はエディに駆け寄る。エディはぐったりした感じだ。
私を見て、なぜか目をそらす。
「婚約なんかしたくない……オレ」
「どうして?」
「どうしてって……ここまで露骨で気が付かないのかよ」
「?」
何が?
私がニコニコしていると、エディがため息をついた。
「オレ、好きな人いるから……」
「じゃあその人を連れてくればいいじゃない! ここに」
「そんなことしたら大迷惑だよ、彼女に」
「……じゃあ、私が彼女のふりをしてあげる! レイラのメイクで、別人に化けてあげる」
レイラなら、きっとうまくやってくれるだろう。
エディはその言葉に深いため息をついた。
「リリアナ姉が……?」
「うん、大事な弟のためだもんっ」
「弟のため、ね」
「うん!」
「所詮オレは弟だよな……わかってんだよ」
「? 何当たり前の事言ってるの?」
エディは大切な私の弟じゃん? それは昔からだよ。
「ありがとう、リリアナ姉。頼むよ」
「はーい」
私は元気に返事をした。
こうして、私はエディの彼女のふりをすることになった。
**********
長い黒髪ロングの髪に、たれ目メイクをした私。
私の名前は、アンナ・チュチュ。とある国の貴族の娘。
旅行中にエディと出会って恋に落ちた。という設定。
……まあ、ほとぼりが冷めたら別れたって話にするんだけれどね。
「お母様、話があります」
エディがお母様の部屋に入っていく。
「オレは好きな人がいるので、婚約の話は待ってくれませんでしょうか」
「あら、口だけじゃないの?」
「お付き合いもさせていただいてます。彼女を連れてきました」
その言葉に、私は中に入っていく。
「アンナ・チュチュです」
「……はあ」
呆れた顔のお母様。
「エディはやっぱりあの子の面影を追いかけちゃうのかしら……」
え、何の話?
私は首をかしげながらにこにこする。
お母様はため息をついて頷いた。
「まあ、いいでしょう。あの子じゃないなら……正直、誰でも」
「ありがとうございます」
「エディ下がって」
よかった! 私達は言われるがままに下がる。
どこかお母さんが苦笑いしているように見えたのは、なぜか。
ふたりで人の気配のない場所へ歩いていくと……。
「よかった、うまく行って」
「ああ」
「できれば、今度は本人を連れてきてね」
「このままずっとこうしてれればいいのに……」
「それは、好きな人にしなよ」
私はエディにそう言って振り向いた。
とたん、壁にドン、と押し付けられた。
「……それは、リリアナ姉って言ったら?」
「冗談でしょ? あはは」
「……冗談じゃなかったら?」
真剣な表情。どこか泣きそうなうるんだ瞳。
唇をかみしめて、私をじっと見るエディ。
私は思わずきょとんとした顔をする。
「エディ、何してる?」
そんな時、後ろからアランが現れた。
手にはお土産が入ったバスケットを持っている。
なんか、すごい表情が怖いんですけど。
「アラン兄さん……」
「リリアナをからかって遊ばないでくれるかな?」
すごい、怖いです……アラン。
私。ひぃって声あげちゃったもん。
「ちょっと冗談言っただけだろ、アラン兄さん」
エディはなぜかせつなげに笑った。
「そうだね、兄弟で恋愛とか冗談にしてもひどいよね」
「……だろ? オレもそう思う」
「行こう、リリアナ。今日は果物を持ってきたよ」
「どんなの!」
「すっぱくて甘いやつ」
私はアランに肩を抱かれ、大はしゃぎする。
私を見るエディの目が甘く切なくて、なんだか不思議な気持ちになる。
「じゃあ、オレ、自分の部屋戻るから」
そう言ってエディは苦しそうに笑うと、どこか逃げるように去っていった。
私はあの切なげな苦しそうな目を思い出し、もう一度首を傾げた。




