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泳げ! バイオレット君!

 最近、街ではプールが流行っている。

 それにのっとって、今度学校でもプールに皆で行くらしい。

 で、困ったのは泳げないバイオレットだ。

 バイオレットが泳げないことを知っているのは私達と彼の家族のみ。

 だって、特に泳ぐ機会がなかったのだから、当然である。

 真っ青な顔をしたバイオレットが、ぐったりした様子で生徒会の仕事をこなしている。


「バイオレット先輩死にそうですね」

「そりゃね、リリアナさん……。皆でプールへ行こうって学校で盛り上がってれば、そうもなるよね」

「泳げるようになる薬を、アランに用意してもらえばいいじゃないですか」

「薬に頼るのはなんかプライドが許さないんだよね」

「じゃあ、自力しかないですね」

「そうなるね。あの、アラン王子。プールを貸してくれないかな?」

「お安い御用ですよ。大丈夫」


 アランは書類をまとめながら笑った。


「コーチもやりますよ、僕が」

「おお、助かるよ」


 バイオレットの顔色が変わった。


「僕も小さい頃は泳げなかったので」

「小さい頃……」


 あ、バイオレットが少し凹んだ。

 そう言えば、アランは気が付いてたら泳げてたっけ。

 私は前世の記憶があるから余裕だった。正直勉強と違って水泳はどこの世界も基礎が一緒だしね。浮いてバシャバシャ泳ぐだけ。


「とりあえず、放課後一緒にやりましょう。バイオレット先輩」

「頼んだよ、アラン王子」

「私も行くー」

「わたくしも」

「オレも」

「ボクも」


 結局いつものメンバーで、私達はアランの家に向かうことになった。

 なんだかんで、皆プールで泳ぎたいのだろう。

 水着を慌てて用意して、馬車に乗った。


**********


「まずは、浮くことから始めましょうか」


 バイオレットに、アランはそう言った。


「浮く……」

「浅い場所でいいので、潜ってみてください」

「わかった」


 潜りだすバイオレット。しかし、一向に浮かない。

 なかなかコツがつかめないらしい、バイオレット。

 しかし数十分悪戦苦闘しているうちに、浮いてきた。

 なので、バタ足をつかまってやってみる。これはすぐにできた。

 そして、ビート板を取り出すアラン。


「次はこれでバタ足をしてみましょう」

「おお……」


 バイオレットがしげしげとビート板を眺めてつぶやく。

 黄色いビート板をもって浮いているバイオレットは、恐る恐るバタ足を始めた。


「! うまく行ってるじゃないですか」


 私は感動して拍手をした。

 バイオレットが真っ赤になっている。

 あれ? 褒めたのに何でだ……。


「ビート板外してみますか?」

「……まだ怖い、アラン王子」

「とにかくやってみましょう!」


 アランはビート板をバイオレットから奪い取る。

 とたん、バイオレットは沈む。

 慌てて彼を救出するアラン。


「ぷはっ……泳ぐのは難しいね」

「大丈夫ですか? バイオレット先輩」


 アランがバイオレットを揺り起こす。

 水を吐いて目を覚ますバイオレット。


「うん、なんとか。でも情けないね、なかなか泳げないのは」

「そんな事ないですよ」

「アラン王子は優しいね。ちょっとできるようになるまで付き合ってくれる?」

「はい、もちろんです。バイオレット先輩には普段からお世話になってますから」

「嬉しい事を言ってくれるねぇ」

「事実です」


 にっこり微笑むアランに、嬉しそうな顔をするバイオレット。

 うーん、微笑ましいなあ。私はふたりに差し入れのジュースを渡した。

 おいしいスポーツドリンクを、ごくごく飲むふたり。

 私も一緒に飲むけど、レモンの味がしてすごくおいしい。


「泳げるようになったら、モテますよ」

「リリアナさん……私は別に多数にモテたいわけはないけれど……」

「まあ、すでにモテモテですけどね」


 私は思わずつぶやく。バイオレットは苦笑いを浮かべる。


「モテればいいってもんじゃないよ、一番好きな人を振り向かせられなきゃ意味がないね」

「そうなんです? てか、好きな人いるんです?」

「リリアナさん、わたしの好きな人誰かやっぱり知らないんですね」

「あ、レイラとか!」


 可愛いし優しいしね!


「ちがいます。まあ、そんな事は置いておいて、練習続けよう」

「えー、そんな事なんかじゃないのにー。気になるー」

「どうして?」

「え?」

「わたしが好きだから、私の好きな人が気になるのかな? リリアナさんは」

「それは違うけど」

「…………」


 きっと私が好きなのは……バイオレットではないだろう。

 まだ、心の中では整理ができてないけれど、うっすら最近自覚しかけている。

 バイオレットは苦笑しながら、ジュースを飲みきりプールに入る。


「さあ、アラン王子。特訓を続けましょう」

「はーい、バイオレット先輩、待ってください」


 アランもあわててジュースを飲んで、中に入る。

 メル達は端っこで泳いではしゃいでいる。

 エディを先生にして、クロールしたり。

 私はどちらにも入らずふたつのグループを交互に見ていた。


(もうすぐエンディングが近づいてくるんだよね)


 その時もまた、皆で笑えてるのだろうか。

 私は涙目になりながら、ジュースを飲んだ。


**********


「やったあ! 泳げたよリリアナさん」

「おめでとうございます、バイオレット先輩!」


 あれから外が暗くなるころに。バイオレットは泳げるようになった。

 メルだけはすでに帰っている。皆はバイオレットに拍手をする。

 恥ずかしそうなバイオレットは頭を何度も下げた。


「これで、学校でプールにも行けますね!」

「そうだね、アラン王子。君のおかげだよ」

「そんな事ないです。バイオレット先輩の努力の結晶です」

「では、帰ろうか」

「なんなら皆さん泊っていきません? お城に」

「いいのかい?」

「はい、もう遅いですし」


 アランはそう言ってほほ笑んだ。

 お祝いに、皆でケーキも食べるらしい。

 メルが知ったら悔しがるなあ。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 バイオレットがそう言うと、お泊りが決定した。

 その日は、とても楽しい一日になった。


**********


「プールが、人がいすぎて予約できなかった……」

「あらまあ、残念ですね」

「本当だよ、リリアナさん……せっかく泳げるようになったのに」


 バイオレットは項垂れながら、心底がっかりした様子で言った。


「今度皆で行きましょうよ!」

「そうだね、お城のプールならいつでも借りれるしね」


 私の言葉にバイオレットがのってくる。

 結局、バイオレットの華麗なる泳ぎを学校の子に披露することはなかったけれど、結果は大成功。無事バイオレットは泳ぎをマスターしたのだった。

 のちに、バイオレットがすいすい色々な泳ぎをマスターしたのは、びっくりした。



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