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エディの正体は×××

 最近とある恋愛小説作家が人気である。名前はエマ・フラワー。すごい可愛い名前だよね。正体は不明で、サイン会もしたことがないの。でもきっとかわいい人なんだろうなあ。

 貴族のお嬢様と義理の弟の格差に悩む恋愛シリーズが今一番人気なの。

 レイラも愛読しているし、学校のみんなも大好き。

 図書館では予約でなかなか借りれないレベル。


「面白いよね、エマの本! 本当。この世の恋愛小説で一番かも」

「わかります、超泣けますよね。純愛って感じで憧れます」

「そうそう、すごくふたりを応援したくなるのっ」

「そんなに面白いか、それ」


 エディが苦笑いしながら現れる。まあ、男の子にはわかんないよね。


「面白いよねー」

「ですねー」

「へぇ、どこら辺が?」

「なんか恋愛描写がリアルだし、繊細な表現が多くてドキドキする」

「ふうん」


 聞いておいて興味なさそうすぎない? エディってば。

 でも何でそれなら聞いてきたんだろう?

 私達はエディを放置して、読書をつづけた。


**********


 最近エディが目の下にクマを作っている。

 何かもそもそ部屋でやってるみたい。

 勉強だとは思うけれど、差し入れぐらいしたほうがいいよね。

 私はレイラにそれを提案して、一緒にお菓子を焼いた。


「さすがエディ様ですよねぇ、勉強熱心」

「まあ、自慢の弟だね」


 成績優秀で優しいエディ。見た目も結構いいし、声もいい。


「エディー……あれ? 返事がない。寝てる?」

「あら、では別の時に差し入れしましょう?」

「寝てるだけなら、置いておいてびっくりさせようよ」

「勝手に入っちゃダメですよぉ」

「いいのいいの。私はお姉ちゃんなんだから」

「そう言う問題じゃ無いですよ!」


 なんで? わかんないまま私はそのままエディの部屋をあける。

 そこには案の定、机の上に寝つぶれているエディがいた。

 鉛筆を持ったまま、何かを書いていたらしい。


「あらら、このままじゃ紙が汚れちゃう……って、なにこれ、小説?」


 しかもなんか、内容に見覚えが……。


「これって、エマ・フラワーの小説の続きじゃない? 何でエディが」

「……もしかして、エディ様がエマ・フラワーなのでは」

「いやいや、ないでしょ。まあ、エディを起こして問い詰めて見ましょう」


 私はエディの方を揺らした。するとエディがのっそり起きてくる。

 ぼやっと私のほうを見て、じっと数秒。


「うわあああああ」


 エディは悲鳴を上げてのけぞった。


「おはようエディ」

「お、おはようリリアナ姉」

「この原稿は何?」

「えっと、これは……」

「貴女がエマ・フラワーなの?」

「それは」

「事実を言わないと、そういう事にするわ」

「! オレがエマです……」


 私の言葉に、エディはしぶしぶ正体を認めた。

 その後は、書きかけの原稿を私達に読ませてくれた。

 すっごく面白くて、これを三人の秘密にすることに決めた。


**********


「なあ、リリアナ姉」

「何よエディ。改まって」


 エディが後日私の部屋に来た。なんだか切羽詰まった様子だ。

 おそおろするエディに紅茶を差し出す私。エディはため息をついてそれを飲みだした。


「オレ、サイン会する事になってるんだけど」

「あら、素敵じゃない」

「エマとしてだよ。女装しなきゃいけないんだ……」

「へぇ、頑張って」

「絶対バレるから、リリアナ姉変わってほしい。もちろん変装はして」

「えー、私が?」


 こんな意地悪そうなエマ、ファンが喜ぶかしら?

 エディの女装は、確かにごついけれど、すごく優しそうなのに。


「レイラじゃダメなの?」

「リリアナ姉のほうが読み込んでるだろう。エマの本」

「そうかもしれないわね」

「おねがいだっ」


 エディはすがるように言った。

 うーん、まあ、仕方がないな。大事な弟の珍しいお願いだし。


「わかったわ。頑張ってみる」

「ありがとう、リリアナ姉。お礼はちゃんとするから」

「そんなのいいわよ。面白い作品を書き続けてくれればね」

「……助かる」


 私にとってエマ・フラワーの本は聖書にも劣らない存在なんだから。

 これからもいい話を書いてくれなきゃ、怒っちゃうわよ。


**********


 サイン会当日。衣装室で私は清楚な黒髪の美少女に着替える。

 一応エディが着ようとしていた女装セットもあるけれど、エマは黒髪のイメージらしい。

 白いレースのワンピースに、赤いサンダル。なんか病弱なお嬢様って印象ね。

 レイラにメイクを施してもらって、私は気合を入れる。

 ニッコリ笑顔を作って、うん、頑張ろう。


「ファンがたくさん来ているみたいね」

「なんかもう熱気がすげぇよ。オレの小説、こんなに愛されてたんだな」

「そりゃそうよ、今を時めく大作家だもの」

「……オレも直接、顔を合わせたかったな」

「残念ね」


 エディの気持ちはすごくわかる。

 でもまあ、女性作家ってことになってるから、仕方がないのよね。

 私はピンクのリップを塗って、外に出ることにした。


「エマ先生―!」

「早く出てきてくださいー」


 ファンの叫び声に。エディは無言になる。


「やっぱオレがサインするわ」

「ええ、あと三分も準備する時間ないわよ」

「頑張って女装する」

「……大丈夫かしら」


 そして三分後。エディは三人がかりで準備した女装で外に出た。

 私も、リリアナとして一緒に外に出る。

 ざわつく会場。まあ、当然かな……。


「どうも、エマ・フラワーです」

「おっきい……でもきれい」

「エマ先生―!」


(あれ、思ってたよりバレないもの?)


 これでうまく行く、と思っていたその時。

 強風が吹いて……エディのウィッグが飛ばされた。

 あらわになる地毛。明らかに、男の髪型だ。

会場を沈黙が包む。

 そして、すぐにざわつきだす。


「え? エマ先生男?」

「確かにメイク落としたらそんな感じかも?」


 エディの顔が青くなる。

 しかし、周囲の反応は予想外のものだった。

 私は化粧落としをエディに渡した。もう、隠したって意味がないからだ。

 化粧を落とすエディにさらにざわつく周囲。


「ねぇ、やっぱり美男子じゃない?」

「やっぱりあなたもそう思う?」

「エマ先生が、美形男子小説家だなんて……」


(お……?)


「ますますファンになりそう! カッコイイ!」


 なんと、ファン達はショックを受けるどころかエディにメロメロになったのだった。

 ぽかんとするエディ。


「さあ、サイン会を始めましょう」


 司会のお姉さんがここぞとばかりに宣言する。

 きゃあきゃあ言いながら、エディに握手とサインを求めるファン達。


「嘘だろ……」


 ぽかんとするエディは、流れるようにサインを行い、インタビューにもこたえていった。

 その日、エマ・フラワーは美男子小説家として有名になった。

 当然アラン達の耳にも入り、驚かれたけれど、恥ずかしそうにするエディに対して皆は好意的だった。

 その後。エディはあちらこちらに呼ばれることになったのは、当然の結果だろう。


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