リリアナ、事故にあう
事件は突然起こるものだと、私はその時実感した。
それは、皆で珍しく徒歩で帰ることになったある日。
寄り道をして、私達は楽しく笑っていた。
「最近の授業は本格的よねー、レイラ」
「そうですねー。召喚魔法の話は興味があります」
「でも私達に魔獣はいらないわよね。すっごい平和だもの」
「わかりますよ、その気持ち。この国は平和ですから、戦う必要もない。だから、魔法もあまり使わずに生活できるんですよね」
それはアランのお父様のおかげだと思う。
のほほんと毎日を過ごせることに、マジ感謝。
「アラン達一般はどうなの?」
「まあ、普通かな」
「そっかぁ」
「リリアナさんたちも三年生になれば変わった魔法も覚えるよ」
「バイオレット先輩、本当?」
「そうだね、まあ、使う機会はほぼないけれど……。ほとんどが許可ないと使えない魔法ばっかだし」
まあ、使い過ぎはいろいろ危険だから仕方がないよね。
だけれど、魔法は使えたほうが後々よさそうだから、できる限り身につけたい。
私は風がらみの魔法しか基本使えないけれど……。
治癒魔法と科が使えれば、かなり有利なんだけど……。
(白魔法は上級なのよね)
「とりあえず卒業できればいいかな、私は」
「リリアナ様、目標はもっと高くもちましょうよ」
「えー」
「せっかく魔法の才能がおありですのに……」
「別に使い道ないし」
「そんな……もったいない」
と、言われてもね。
そう思いながら歩いていると、誰に押された気がして道に飛び出した私。
「危ない、リリアナ!」
アランの声を聴きながら、私は固まるも、遅かった。
鈍い音がした。馬車にぶつかり、私は足を怪我したのだった。
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この程度のねん挫ですんだのは奇跡だと、医者は言った。
そう、私は捻挫しかしないで済んだのだ。
まったく、運がいいのか悪いのか。
私は学校を休む羽目になった。あー暇だ。恋愛小説でも読もうか。
ぺらぺらと本をめくり、暇をつぶす私。
学校が終わる時間になり、皆がお見舞いに来た。やったあ、やっと退屈しなくなる!
「リリアナ、大丈夫?」
アランがお見舞いのお菓子を持って言った。
ゼリーにヨーグルトって、私は病人か何か?
ただの怪我人なんだけど。
「うん、足は痛いけど、自力で動けなくもないし」
「そっか、よかった」
「リリアナ様のぶんのノートはわたくしが取っておきました」
「ありがとう、レイラ。助かる」
レイラは几帳面だから、ノートがすごく丁寧で見やすいんだよね。
私はおおざっぱだから、正直ノートがキレイとはいいがたい。
ちなみにほかのメンバーも、ノートはとてもキレイだ。
特にアランは付箋がいっぱい貼ってある。
エディは暗記がうまいのか、あまり書き込んでないあたりはすごいと思う。
「大事を取っての休みだから、すぐに復帰できるから、心配しないで皆」
「でも、頭ぶつけてたし……」
「大丈夫って言ってるじゃん、もう。アランってば心配しすぎ」
「女の子なんだから、顔にケガでもしたら大変だよ」
「私の顔に傷ついても、元が元だから問題ないよ」
「そんな事ないってば、リリアナ」
もう、皆優しいなあ。
私はヨーグルトを食べながらふと思い出す。
「そう言えば、私は誰かに押されて飛び出したのよね。いったい誰が押したのかしら」
「えっ、僕達の誰かが押したの?」
「それはないと思うわ、アラン。でも、確かに何かがあって飛び出たのよ」
「わたし、事故現場行ってきます。犯人がわかるかも何で」
「僕も行く」
「ここは魔法が使えるわたしが行ったほうがいいかと。王族の婚約者を狙う不届きものかもしれないし」
「なるほど、ではバイオレット先輩お願いします」
「まかせておいて。では、わたしは先にリリアナさんの家を出るよ」
「いってらっしゃいです」
アラン達はバイオレットを見送って、私のほうに視線を戻す。
「それにしても誰が……まさかまた、僕の親衛隊とかなんじゃ……」
「解散したんじゃないのか?」
「それがね、エディ。隠れて活動してるって噂でね」
「怖いなあ、それは……」
「それだけアラン王子が人気だという事だ想いますよ」
「レイラ……僕は素直に喜べないよ。リリアナが危険にさらされるなんて……」
「それはそうですけど……」
うーん、空気が重い。私は思わずヨーグルトを無言でかきこんだ。
犯人が誰とか、考えたくないなあ……。
それから一時間ほど、皆で討論が続いた。
正直胃が痛かった。
「犯人はまず警察に突き出さないといけないね」
「アラン兄さん、まず犯人見つけないと」
「そうだね、エディ。聞き込みとかしようか」
「王族の権力を使って見せる」
「やめて! アラン!」
「未来のお妃様を傷つけるなんて、許せないよ」
こ、怖いよアラン。このままじゃアランが殺人犯になってしまう……。
まあ、エディがそばにいれば止めてくれそうだけれど。
「アランお兄ちゃんこわーい」
メルはのんびりヨーグルトを食べていた。
「誰を突き出すって?」
「だから、犯人をっ」
バイオレットの声にアランが叫んだ。
「これを?」
「え?」
バイオレットが差し出したのは腐ったバナナの皮だった。
その場が沈黙に包まれる。
「リリアナさんは、バナナの皮に滑って飛び出したみたいだよ。押されたってのは、気のせい」
「ええええええええええええええええ」
思わず叫ぶ私達。なにそれ!? ギャグマンガかなんか?
私が頭を抱えていると、アランはそのバナナの皮をゴミ箱に投げ捨てた。
「このバナナの皮を捨てた犯人を見つけてやるっ」
「サルかもよ? そしたらどうするの、アラン王子」
「それは……」
バイオレットの言葉に少し冷静さを取り戻すアラン。
私はアランの服の袖を引っ張る。
「アラン、落ち着いて。ヨーグルト食べよう。おいしいよ」
「でも……」
「私、気にしてないから。怒ったアランは怖くて嫌い」
「リリアナ……」
「おねがい、落ち着いて」
「うん……リリアナが言うなら」
アランはため息をついてヨーグルトを手に取った。
私の事故事件は、こんな感じで丸く収まった。
アランはぶつぶつ文句を言っていたけれど、私がヨーグルトをあーんしてあげたら黙った。やっぱりおいしいものは皆で食べなくちゃね!




