レイラご乱心!
今日は皆で街へお出かけ。色々な買い物をしながら、楽しくおしゃべり。
食べ歩きもしたし、レイラとお揃いの小物も買った。
「なんだか賑やかですね」
「街だからね。今日は小さなイベントもあったみたいだよ」
「そうなんですか、リリアナ様」
「うん、なんか大道芸とかやってたみたい。私達が来る頃には終わってたみたいだけど」
「残念ですねぇ」
「僕がいつか自宅に招くよ、大道芸ぐらいなら」
「アラン……」
相変わらずな発言に、思わず私達は苦笑いを浮かべる。
アランの力があれば何でもかなう気さえ感じるけれど、あんまり乱用はよくない。
彼自身も、理解してるつもりだと思うんだけどね。
私はおいしい匂いがする街を歩きながら、にこにこ笑う。
メルは、思いっきり買い食べ物に夢中で、顔にチョコレートが付いている。
「メル、顔を拭きなさい」
「はーい。リリアナお姉ちゃん、拭いて」
「自分で」
「えー」
そんなやり取りをしながら、歩いていく。マナー的にはよくないんだろうけどね。
「あ、あこに綺麗なアクセサリーが―! レイラ好きそう」
「どこですか?」
レイラが目を輝かせる。本当おしゃれ好きだなあ。
「あっち」
そう私が言って、レイラは歩き出そうとする。
しかし、足元には石が落ちていて……レイラは盛大に転んだ。パンツは白かった。
いや、そんなこと考えている場合じゃなくて。
「大丈夫、レイラ」
「はい、リリアナ様……と素敵な殿方」
「? 殿方?」
何言ってんの? レイラ。
と、レイラはアランに歩み寄る。
「王子は今日も麗しいですね。わたくしと遊びませんこと?」
服をはだけさせて迫るレイラに、あぜんとする私達。
そしてすぐに理解した。レイラは打ち所が悪かったのだと。
まじめで清楚可憐なレイラが男好きになっちゃった!?
まあこういうときって正反対になるっていうけどさあ……。
「ねぇ、アラン王子? へ・ん・じ・は?」
「れ、レイラ気を確かにっ」
「あらアラン王子、わたくしはこっちが素ですよ? 頭を打ってまともになったのです」
(そんなわけあるかー!)
とろんとした目でアランに迫るレイラを、エディが引きはがす。
すると今度はエディに向けて迫り始めるレイラ。
胸元を寄せてあげて、エディに抱き着くと甘えた声を上げた。
「エディ様、わたくしと遊びませんこと?」
「はあ!? レイラしっかりしろよ」
「わたくしのほうがあの方より楽しませてあげれますよ」
「あの方って……」
「ふふ、名前を出していいのでしょうか」
「やーめーろー」
なんだなんだ。あの方だって誰だ。
バイオレットはもう警戒して近づこうとしない。
けれど、お子様メルは、楽しそうにレイラに近づく。
「レイラお姉ちゃんおもしろーい」
「あら、貴方、綺麗なお姉さんは好きかしら?」
「え?」
メルがぽかんとしているのを、またエディが回収。
さすがにメルが犠牲になるのはまずすぎる。
何が何だかわかってないメルをバイオレットに預けたエディはため息をついて言った。
「元に戻すしかないな、これ……」
「でも、また衝撃を与えるの?」
「それしかないだろ、リリアナ姉」
「かわいそうだよー」
「このまま戻らないほうがレイラが可哀想だろ」
それもそうかもしれない。レイラがこの事態を知ったら、絶対首つる。
皆黙っててくれるとは思うけれど……。
私は風魔法を準備する。風邪の衝撃なら、けがはしないだろうから。
「そーれ、風魔法!」
私はレイラに強風を浴びせる。
「きゃあ、なんです!?」
レイラが悲鳴を上げるけれど、勢いを緩めない。
すると、レイラが気絶した。やったあ!
私達はレイラに駆け寄る。しばらくして、レイラは目を覚ました。
「わたくしはいったい……」
「レイラ、ちょっと頭打ってたんだよ」
「愛しのリリアナ様、ありがとうございます。今日も最高にラブリーですね」
「へ?」
「きりりとした釣り目も、長い金髪も、なんて美しいのでしょうか……はやくわたくしと付き合ってください」
頬をももいろに染めて、レイラ。
まるで恋する乙女である。
「えええええええ!?」
「今度は女好きになったか……」
エディが頭を抱えて言った。
「え、嘘でしょ!? エディ」
「オレに言われても」
ですよね。レイラはうるんだ瞳で私をじっとり見つめる。
うう、なんか変な感じ。そのまま私に歩み寄り、抱き着いてくるレイラ。
「でもこれって、男好きよりいいんじゃないの?」
特に同性なら、害はないよね? レイラ非力だし。
と、思ってたらレイラに唇を奪われた。
絶叫する男子達。
「よくないよくないっ、リリアナが危ないっ」
「そうだよリリアナ姉、レイラが何するかわかんないし戻そうぜ」
「女の子同士は絵になるけれど……わたし的にはどうかと思うな」
「やだー、ボクのリリアナお姉ちゃんがー」
私はレイラをはがしてみるけれど、レイラはすぐに抱き着いてくる。
ふかふかの感触が気持ちいいし、いい匂いもする。
ああ、女の子だなあ……。
そうしているとレイラは私の服に手をかけてきた。
ギャラリーがさっきから固まったまま私達の動向を眺めている。
ごめんなさいね、街中で。
さすがにそれはまずいってレイラ!
慌ててエディがレイラを捕まえる。
「そーれ、風魔法!」
私はもう一度魔法をかける。
「何するんですかっ」
「動かないで、レイラ」
どんどん風魔法をかけるうちに、レイラは気絶していった。
そして数分後、レイラは目を覚ます。
「あの、わたくしはなぜエディ様に抱かれているのでしょうか」
「レイラ、男と女どっちが好き?」
「どっちも大切かと思いますが……リリアナ様、そのキスマークは……?」
よし、戻ってる! 私はガッツポーズをした。
皆もほっと溜息をつく。首をかしげるレイラ。
周りのギャラリーも、ようやく歩き出した。
皆は思わず沈黙。
「さっき、女の人とぶつかってさ」
「なんか、ほかの皆さんも心なしぐったりしているような」
「気のせいだよ!」
ダメだダメだ、事実に気が付かせちゃダメだ。
私達は皆で頷いた。
「ご迷惑をかけていないなら、いいんですけれど」
「気絶していただけだよ」
でも、無事戻ってよかった。
これでようやく帰宅できる。私はレイラに歩み寄った。
すると、レイラが私の肩を抱いた。
「私は男女どちらも愛しているので……」
そう言ってにじり寄ってくるレイラ。
これってもしかして……悪化してる!?
半泣きになりながらアランに助けを求める私。
するとレイラはアランともども私達に迫ってくる。
「皆さん、愛してますよー」
満面の笑みでにじり寄ってくるレイラは、すごく怖かった。
その後、また風魔法をすることでようやくレイラは元に戻ったけれど、記憶はやっぱり全く残っていなかった。




