ベストカップルはあのふたり!
私達はのんびり文化祭を楽しみながら時間をつぶしていた。
喫茶店は交代でやっているので、暇な時間もできる。
仮装したまま屋台を皆で巡って、すごくリア充な感じ。
そんな時、放送が始まる音がした。
「みなさーん、文化祭楽しんでますか? 放送部です」
「あ、何かな? 何かお知らせかな?」
「そうだね、リリアナ、迷子じゃない?」
「なるほど」
この大人数なら、迷子もあり得るよね。
私はアランとふたりで、屋台をめぐっている途中だった。
楽しげな音楽が流れ始めたのは。
「今年のベストカップルを発表します!」
「お? 誰だろアラン」
「さあ」
アランはなぜか余裕そうな顔をしていた。
「リリアナ・ローズさんとアラン王子です!」
「えっ、私達!?」
「当然だけど……」
アランはぼそりと言った。え、なんで?
私がアワアワしていると、放送が続く。
「おふたりは、校庭のステージへどうぞ!」
「えー! やだっ、目立ちたくないっ。こんなの絶対罰ゲームよ」
誰かがからかうために仕組んだんじゃないの?
アランに私が似合うわけないじゃない!?
「リリアナ行くよ!」
「ウソォ」
「景品が豪華らしいよ」
「行く」
**********
ハートのパネルに、私達の写真を拡大した奴が張ってあって私は度肝を抜かれた。
なにこれ。歩いているだけで冷やかされるしさー、何なの本当。
私がおどおどしていると、アランはまっすぐ舞台へ上がっていった。
そしていつも通り愛想を振りまき、頭を下げる。
「皆さん、ベストカップル賞どうもありがとうございます。嬉しいです! ほら、リリアナも」
「えっ、あ、はい、リリアナです。ありがとうございます」
「さすがですね! 王子様!」
司会の子が大はしゃぎで言った。なんか、鼻息荒いけど、この子もアランのファンなのかな?
「そうですね、僕とリリアナは運命の関係ですから」
「へえ、そうなんですね! リリアナさんはなんか困惑しているようですが」
「びっくりしたんでしょうね」
「なるほど、誓いのキスは……」
「見世物じゃないので、それは結婚式で」
「えー、残念です。結婚式には国民みんなが参加ですよねー?」
私が傍観している間にも、会話は進む。
後ろからキスをせがむ声が聞こえる。
「アラン、景品貰って帰ろうよ」
「どうしても、皆は僕らのキスを見たいようだね」
「無理……」
「リリアナ、顔を近づけて」
「? 何するの?」
アランに言われるがままに顔を近づけた私。
すると、アランは私の髪をかき上げ……額にキスした。
「きゃあああああ」
皆が嬉しそうに叫んだ。
「では、副賞の近くのケーキ屋さんでの食べ放題チケットを!」
「え、いいのっ、やったー」
「ちなみに六人分あるみたいだよ、リリアナ」
「皆で行けるじゃん」
「よかったね」
「うんっ」
私は満面の笑みで頷いた。
アランもどこか満足げだった。
皆が集まる部屋に戻るまで、ずっと私達は手をつないでいて、冷やかされて帰った。
**********
「ケーキ食べ放題!? ボクもいいの? すごい嬉しい! チョコケーキ食べたいなあ」
「うん、メル。皆で行こう」
「いいね、楽しみだよ。ケーキなんかアラン王子のおかげでよく食べるようになったけど、普段はまったくだからね、わたしは」
「バイオレット先輩もたくさん食べましょうー」
「おお、おめでとう。いい景品じゃん、ケーキとか」
「ありがとうエディ」
「なんか悔しいけどな」
エディが妙に低い声で言った。え、怖い。
「何で?」
「何でもない、リリアナ姉」
? まあいいかあー。
レイラもうきうきした様子だ。
文化祭は明日も続く。それから後夜祭だ。
しばらくして皆でケーキ屋さんにたどり着く。
おいしそうなケーキがたくさん、一時間食べ放題だ。
「うわー、夢みたい」
ピンクと白でできた可愛いお店は、木でできたモチーフがすごく多い。
飲食店だからさっぱりしているけれど、木でできた人形も置いてある。
可愛いクマとうさぎの人形が、玄関の前で笑っている。
「このケーキ屋さん、好きだもんね、リリアナは」
「うんっ、大好きっ。品がある味で、すごくおいしいんだよねっ」
「実は生徒会が景品決めたんだよ。まあ、主に僕が決定権持ちだったんだけどね。バイオレット先輩は忙しかったし」
「そうなの? それで私達が偶然優勝するなんて、びっくりだねー」
「ぐうぜん……ね」
アランはくすくすと笑った。
私は首をかしげる。
まあ、気にしないでケーキを食べよう。
私はトレー一杯に沢山のケーキを選んだ。ケーキの種類は、三十もあるんだよっ。これを全部食べれたらいいんだけど、さすがに太るから、皆で分け合って食べるの。
小さくカットして、皆で少しずつ食べるのは、いかにも大勢いるからできる事って感じでいいね!
「幸せだなあ」
「ふふ、リリアナが幸せだと僕も嬉しいよ」
「私もみんなが幸せなのは超楽しいよ」
これ以上に、楽しい日々ってないんじゃないかなあ。
うん、きっとないよ。
「きっと、これからも幸せだよ。だって僕にはリリアナがいるからね」
「ボクだっているよ」
「わたしも」
「俺だっているし」
「わたくしも、リリアナ様の幸せな日々に貢献したいですっ」
うわあ、なんて力強いんだろう。
思わず私はにこにこしちゃう。皆もつられて笑う。
「これからも、こんな毎日が続くといいなあ」
皆で笑い合いながらケーキをかじる。
本当に、心から私はそう思った。
火あぶりになる未来なんて忘れて。




