好き嫌いはいけません! エディの好き嫌いと夜の×××
今日は皆で食事会。
アランの家で、シェフの新作料理が皆にふるまわれている。
トリュフに、フォアグラだとか高級なものから、ニンジンやピーマンを使ったベジタブル料理までなんでもある。品評会に出すので、どれがおいしいか決めてほしいとシェフが言うのだ。なので、小皿に少しずつ盛られた料理を私達は咀嚼している。
「うーん、おいしいわね、アラン」
「そうだね、どれもおいしくて文句がつけれないよ」
「さすが王室ね。毎日おいしいご飯、羨ましいわ」
「大丈夫。リリアナも将来ずっと食べることができるから」
「? そうなの?」
「うん」
それはとても朗報ね。ずっと私とアランは仲良しって事ね。
まあ、長い付き合いだもの、今更縁はキレることないわよ。
そうこうしているうちに、なんか隣が騒がしくなってる。
「エディお兄ちゃん、ニンジン残しちゃダメだよ」
「ちょっと、苦手で……」
「お兄ちゃんなんだから好き嫌いダメ―!」
「えー……」
そういえば、エディってばいつもニンジン残してたっけな。
ちなみに私は大体のものは食べれる。好きなものはあるけれど、無理すればなんでも食べれる。
エディは困ったように眉根にしわを作った。
「けどさ、なんか受け付けないんだよなあ」
「じゃあ、リリアナが栽培したにんじんなら?」
「えっ、アラン兄さんそれ卑怯」
「リリアナ、エディに食べさせるためにニンジン収穫したら?」
「何で私が?」
「いいからいいから」
よくわかんないけど……。
「リリアナお嬢様、このニンジンのムースをエディ様に」
「わかったわ、シェフ。エディ、口開けて」
「ちょ、ちょちょ……」
「ほら、あーん」
エディの顔が真っ赤っかだ。ニンジンって言うよりトマトかな。
私はムースをスプーンですくい、エディに差し出す。
「エディ、僕があーんを許してるんだから、思う存分味わいなよ」
「そう言う問題!?」
「それとも、リリアナのあーんが嫌だと?」
「ちがうけど!」
「じゃあ食べろ。王子からの命令だ。リリアナに恥をかかすな」
「ひゃい……」
アランの脅迫にエディは泣きそうだった。
私は改めて、エディにニンジンムースを差し出す。
震えるエディは、そっと口を開けた。そしてニンジンムースを咀嚼する。
一瞬表情がゆがんだけど、それはすぐに治った。
「あれ? おいしい」
「ムースだから、甘くて食べやすいはずよ。ねぇ、シェフ」
「そうですねえ、ニンジン独特の味は控えめですし、まずは加工食品からいただいては?」
シェフは大きな体を揺らし、笑った。
「食べず嫌いはダメなんだな」
「本当よ、エディ。ほら、おかわり」
「自分で食べれる」
エディは早口で言った。
「えー」
「リリアナ、僕にもあーん」
自分に指をさしてアランは催促する。
にこにこ笑っているけれどなんだか怖い。
「え、なんで? アラン」
「何ででも」
アランに言われるがまま、私はニンジンムースをあーんをする。
すごく満足げなアランは、そこで何かに気が付く。
顔をゆがめて、アランはシェフを見た。
「何を入れた? シェフ」
「アラン様から頂いた滋養剤です。味に不都合はないかと」
「エディ、吐いて!」
アランが慌ててエディに駆け寄る。
エディはきょとんとしながらおびえている。
「え、なんで!? アラン兄さん」
「あれは、夜の薬だから、大人の男性にと僕は譲ったんだ」
「げっ」
「理性が鈍くなる。早く!」
そう言われて、エディはトイレに駆けこんだ。
アランは口に含んだだけで終わったらしい。
ところで。
「夜の薬って何?」
睡眠薬かしら? それなら、今すぐ寝ちゃえばいいのに。
「知らなくていいんだよ、リリアナ」
「なんで? アラン」
「……なんででも」
私とメルはきょとんとしている。
レイラは顔が赤い。バイオレットはそ知らぬふりだ。
エディがげっそりして戻ってきた。
「リリアナ姉のあーんが、無駄に」
「あら? いつだってしてあげるわよ。甘えん坊さんね」
別に、減るもんじゃあるまいし。
そう言うと、メルが甘えて寄ってきた。
「ボクにもしてー!」
大きな口を開けてせがむメル。
それに対してお肉を押し込む私。
「はいはい」
「オレは、とりあえず好き嫌い直すわ……」
げっそりしながらエディ。
「それはいい事」
私はにこにこして言った。
「食べず嫌いかもしれないし」
そう言って、エディはニンジンの別の料理を食べだした。
少し表情をゆがめながら、それを食べていくエディはまた一歩、いい男に近づいた。
夜の薬が気になりつつ、私も食事に戻る。
「ねぇ、アラン」
ちょんちょん、と私はアランをつつく。
アランは食べるのをやめて私を見る。
「何? リリアナ」
「夜の薬、私が飲んじゃダメなの?」
元気になるのなら、私もぜひ飲んでみたいなあ。
最近ちょっと疲れ気味なのよね。
「絶対ダメ!」
この後、アランからその薬を渡されることはなかったけれど……。
なぜかその時アランの顔が真っ赤だったのは、なぜかしら?




