ドッキドキ! ドラキュラ体験☆
「ねぇ、アラン。何作ってるの?」
「ドラキュラの体験ができる薬。ちょっとした依頼がってね。まあ、継続は市内から依頼を受けてもいいかなあって。一時間しか効かないし」
またあれなものを作ってるのね。今日はアランと私はお城のアランの部屋にふたりきり。
なぜかというとみんなは買い物に出かけたから。なんか、必要なものあったんだって。それで、アランの家の馬車に乗って、皆で出かけちゃった。
ふたりきりって、意外と久しぶり。いつもみんながそばにいたから。
「アラン、効果はどんななの?」
「そうだね、解毒剤もあるし飲んでみようか」
「わーい、私も飲みたいっ」
ドラキュラ体験なんて、すごく楽しそう!
「まって、さきに僕が飲む」
アランは赤い液体を飲み下す。なんか、鉄のようなにおいまでついていて、本格的に血液っぽい。さすがアラン。凝ってるなあ。
「どう……?」
私はアランに恐る恐る尋ねる。
アランは、ぼんやりしたまま私を見つめて、目をそらした。
「リリアナ、出てって。今すぐこの部屋から去って」
「え? どういう事」
「……これ、ほかの人を噛みたくなる効果がある。僕は、レシピ通り作ったから、今理解したんだけど……」
「噛んだら収まるのかしら」
「さあ? でも、危ないよ。もしかしたら感染するかも」
「えっ、楽しそう」
「人に噛みつくのはよくないから、逃げて」
「えー」
私はアワアワするアランを見て面白がる。なんか、ちょっぴり楽しくない? これ。
我慢に悶えるアランを見ると、なんかわくわくしちゃうのは、わたしがいじわるだからかしら? じりじりと私に詰め寄るアラン。その息は苦しげだ。
「リリアナァ」
私の近くまで寄って来ては、避けていくアラン。
つい、私からも近づいてみたり。
「僕で遊ばないでよ」
「だぁって、こんな余裕のないアラン、めったにないんだもん」
「……あのねぇ」
そうこうしているうちに、私達はベッド付近にいた。
アランがそのまま私によってきたので、私はよろけた。
そして、そのままベッドになだれ込む。
ベッドの上で重なる私達。そして、迫り来るアランは私の首筋に近づき……。
「何してんだ!? アラン兄さん」
エディにとらえられた。
私はドキドキ暴れる心臓を押さえながら、ほっと溜息。
さすがにやりすぎたかな……。
エディはアランを結束すると、怖い顔で言った。
「リリアナ姉に何する気だったんだ、アラン兄さん」
「血を、吸おうと」
「血ぃ?」
「ドラキュラになる薬のサンプルで、ちょっと試してたから思った以上に効果がすごくてね……」
「なら、オレを噛んで血を吸えばいい」
「これは、血は吸わないんだよ」
「血をおうとって、言うから……でも、噛めば気が収まるんだろう? オレなら痛くないからさ、アラン兄さん」
「うつるかもだよ?」
「噛みあえばいだろ。その時は」
アランはエディの顔を見てうなづいた。
そして、エディの腕を噛んだ。そして、沈黙。
顔を上げたアランは、苦い顔をしていた。
「……どう? エディ」
「何でかリリアナ姉の血がほしくなってきた」
「ああ……やっぱり。悪い予感はしてたんだ」
「? なんだ? アラン兄さん」
「これは、愛する人を噛みたくなる薬だ。まったく、自分が飲まない予定だったからって、知識を煎れなかったのは僕の落ち度だ」
「げっ、まじか」
私は思わず首をかしげる。
「エディって私のこと好きなの?」
アランは知ってたけれど、エディもなの?
「それは……」
「リリアナ、これはlikeの方の好きで、一番likeな人の血がほしくなるんだよ」
アランはそう言って笑った。
「まあ、僕はloveだけど」
なるほど……後ろのエディが微妙な顔をしているけれど。
ほかのメンバーは呆然と立ち尽くしていた。
「まったく、何をしているんだ……」
バイオレットがやれやれといった雰囲気で口を挟む。
「解毒剤はどこなんだ? 今回もないのかい?」
「あっ、解毒剤があるから飲んだことを忘れてました。バイオレット先輩」
「アラン王子、しっかりしてくれ……」
「どうせだから、バイオレット先輩の事もかんじゃいましょう。解毒剤がありますからね」
「何ッ!?」
笑顔でバイオレットの腕を噛むアランは、どこか意地悪な顔をしていた。
メルは逃げるようにレイラの後ろに隠れている。
「どうです? そわそわしてつらいでしょう? 解毒剤は二個しかないので、僕とエディで飲みますから、一時間耐えてください」
「アラン王子!」
うわあ、アラン、鬼畜……。
そう思いながら解毒剤のほうを見ると、あれ? 解毒剤がない。
ふとメルを見ると、口のほうをもごもごしていた。何か食べてる?
「メル……何を食べてるのかしら?」
「そこにあったラムネ。あんまりおいしくない、薬みたいな味がする」
「それって多分解毒剤だよっ!」
「えっ! ウソォ、ボク解毒剤食べちゃったの!?」
青ざめるエディ、固まるアラン。
あーあ、あと数十分このまま我慢大会決定かあ。
「何か可哀想だから、ボクも噛んでいいよ。代わりにリリアナお姉ちゃんは別室へ逃げててね」
「えっ、なんで私? ふたりはバイオレット先輩が抑えててくれるじゃない?」
「鈍いなあ、もうっ。とにかく安全な場所に避難してっ。ほら、レイラお姉ちゃん連れてって」
「はいっ」
私は真面目な顔をしたレイラに手を引っ張られる。
そしてそのまま空き部屋に連れ込まれた。
レイラはほっとした表情で私を見た。
「これで、リリアナ様の無事は確保されました」
「だから、なんで?」
「皆様、リリアナ様が一番好きなのですよ」
「えっ、嘘だあ」
「もちろんそれは、わたくしもですけれどね」
冗談でしょー? 信じないよ、私。
まあ、いいけれど、無事に効き目葉消えるといいなあ。
「リリアナ様は愛されていますからね」
「そんな事ないって」
「皆様が元に戻るときに食べるお菓子を用意しましょうか」
「そうだね、疲れるだろうし……っていうか、メルとバイオレット先輩は別に近づいてもいいんじゃないの? likeな人、どうせのふたり親とかでしょ」
「リリアナ様は、どこまでも自分が愛されているということを信じないのですね……」
だって、悪役令嬢だもん、嫌われ者の代名詞だもん。
そんなの絶対あり得ないよっ。レイラならとにかくねっ。
私はレイラとお城の階段を下りて、キッチンへ向かった。
コックと一緒においしいパフェを作るのは、とっても楽しかった。
部屋に戻ったころにはみんなの効き目は消えていて、なぜだか嬉しそうに私に近づいてきた。無事戻ってよかったね、といったら皆が泣きそうな顔をしたのが印象的だった。
「もう、この薬は飲んじゃダメだよ、皆」
「ねぇねぇ、アランお兄ちゃん」
「メル、何?」
「これってリリアナお姉ちゃんに飲ませたら、一番好きな人がわかるんじゃない?」
「!」
メルの言葉に、アランは固まる。
そして、ぶんぶん首を横に振って、薬をラッピングしだした。
「ダメだ、ダメだ。それはダメだ」
「えー、面白い結果が見られるかもよ?」
「リリアナの気持ちは、直接いつか聞く」
「私は、皆が大好きよ?」
「そうじゃなくってさ」
メルが不満そうに声を上げる。
「さあ、メル君、パフェが溶けるよ。アイスがドロドロになってもいいわけ? おいしくないよ?」
笑顔のアランは、若干怖い。何故?
「よくなーい、食べる」
メルは慌ててスプーンを持った。アランがほっとした表情を浮かべる。
ドラキュラ騒動は、こんな感じで終結した。そして薬は無事依頼主に渡されたらしい。
アランはもう二度と、もうこの依頼は受けないと言っていた。
この薬を、どんな人がどういう役割で使うのか気になったけれど、アランは消してそれに対して答えてくれなかった。




