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季節外れの雪

 まだまだ温かいはずの日常。

 それなのに今日はなんだか肌寒い。


「くしゅっ」

「リリアナ大丈夫?」

「平気よ、アラン。今日なんか寒くない?」

「気のせいじゃなかったんだ。なんか、天気も悪いよね」


 曇ってるし、雷も聞こえて嫌な感じだ・

 まあ、私達はいつものごとく生徒会でのんびり放課後集まってるんで、あまり関係ないけれど、徒歩通学の子とか、可哀想ね。

 私はマドレーヌを食べながら、外を見た。

 そして驚いた。


「雪が降ってきた」

「えっ、嘘だろリリアナ姉」


 エディがびっくりしてワークから顔を上げた。

 我が弟は真面目なので、暇なときには勉強をよくしている。さすが飛び級するだけはある。

 感心しながら私も雪を見る。うわあ、すごいなあ。

 なんかキラキラした綺麗な雪だなあ。


「すごいー! この季節に雪! ボク感動しちゃった!」


 メルは子供全開にぴょんぴょん飛び跳ねている。

 バイオレットは達観した様子でそれを見ていた。レイラは固まっている。


「異常気象だよね、これって。大丈夫なの? この国は」

「僕に言われても困るよリリアナ。でも確かに不安になるね。お父様はどう対処するんだろう?」

「それより早く積もらないかなぁ。雪合戦しようよ!」

「メル……」


 いいなあ、子供はのんきで。

 私もあっちの世界では、雪で遊んだりもしたっけな。

 車があったから、移動は楽だったけどこの世界だとかなり不便なんだよね。

 馬も生き物だし。寒い中走らせるなんて、可哀想だよ。


「じゃあ、雪で遊べるように手配するよ」

「わああああい! アランお兄ちゃん大好き!」

「アラン、そんな場合なの?」

「謎はお父様に任せた」

「ええ……」


 それでいいのかなあ。まあ、私達にはどうにもできない事柄なのかもしれないけれど。

 私はため息をついて作業を再開した。

 メルだけはずっと落ち着かないまま窓にへばりついていた。


**********


 気が付けば見渡す限り銀世界。

 雪が積もってメルは大はしゃぎだ。手袋に長靴に完全装備でぴょんぴょん跳ねている。

 私達は生徒会の仕事を片付けて、校庭に集まった。

 ほかの生徒は雪におびえてるのか、速攻帰宅したらしく部活をしている人もいない。

 いつもならあちらこちらで元気な声が聞こえるのに。


「貸し切りだああああ」

「ちょっとメル落ち着いて」

「だあって、リリアナお姉ちゃん。このメンバーで雪合戦はじめてなんだもんっ」

「それは確かにね」


 子供の頃はレイラを無理やり混ぜて、アランとエディと四人でやったっけな。

 大体はレイラが本気出さなくって、負けちゃうの。

 で、男子同士が本気の投げ合いをするわけ。


「雪合戦かあ、兄弟でたまにいまだにやるよ。たまに石を混ぜたやつ投げてくるやつがいてね、それは禁止だよ」

「バイオレット先輩、それは当然禁止かと……」


 おそるべし、バイオレット家。なんか怖い。

 メルはさっそく大きな雪だるまを作り出した。雪合戦はどうした。

 赤いバケツを頭にのせて、鼻には石ころ。なんだか結構本格的なうえに愛嬌のある雪だるまができあがった。


「見て見てーすごくないっ?」

「すごいすごい」

「ありがとう、リリアナお姉ちゃんっ」

「で、どうする、始める? 私はもういいけど」

「わたくしは戦力外でお願いします、メイドですから」


 案の定参加すら拒否するレイラ。まあ、仕方がないか。


「じゃあ、レイラは部屋を暖めておいて」

「わかりました、リリアナ様。温かいお茶も用意しておきますね」

「ありがとう、助かるわ」


 私の言葉にレイラはほほ笑む。

 まあ、もともとレイラは争い事が苦手な聖女だもんね。

 私も好きじゃないけど、こういう遊びは本気でやらなきゃつまらないじゃん?

 だから私は思い切り雪を固く握る。

 ……んだけど。

(なんかまた私以外の男子だけで投げ合ってない?)

 何でそんな余計な気づかいするかなあ。

 思わず構ってほしくてアランに雪玉をぶつける私。


「リリアナ?」

「私も混ぜてっ」

「リリアナには雪玉より花びらのほうが似合うから、ダメだよ」

「遊びでしょ」

「それでも痛いよね。けがしたら大問題」

「やだやだっ、そんなの楽しくないっ」


 私はどんどん雪玉をアランに投げる。

 アランは私のほうへ呆れながら歩いてくる。

 止めようたってそうはいかないんだから!

 そう思った時、雪のせいで足元が滑った。


「きゃっ」

「リリアナッ」


 とっさに下敷きになるアラン。近づく顔。

 唇は、重なる寸前だった。

 思わずふたりともバッとはなれる。

 周りにはほかの男子達が集まっていた。


「大丈夫? リリアナお姉ちゃん、アランお兄ちゃん」

「うん、まあ。アランは?」

「僕は厚着してたからなんともないよ」

「ならいいんだけど……やっぱ雪で遊ぶのは危ないよ。やめておこう?」

「そうだね、リリアナ」

「えー!? やだやだっ、ボクまだ遊び足りないっ」

「リリアナがケガしてもいいの? メル」

「それはよくないけど」

「じゃあ、戻ろうね」

「はあい」


 渋々アランに従うメル。それに続き中に入る面々。

 中では、アイスクリームを雪玉のように二段のせたものを冷蔵庫から出そうとしているレイラがいた。なんかすごいロマンチックな感じ。

 色はもちろんバニラの白で、チョコレートでデコレーションされている。

 お菓子の枝のようなチョコで腕も作ってある。


「うわああああ! すごいおいしそう!」

「メル君、手を洗って」

「はあい、アランお兄ちゃん」


 バタバタ大はしゃぎのメルをよそに、なんだか落ち着きのないあアラン。

 そしてアランはぼそりと言った。


「もう少しだったのに」


(何が?)


 私は疑問符を浮かべながらアイスを食べ始める。

 そこに、先生がやってきた。


「アラン・ナイト! 君のお父様から知らせが来たぞ」

「いったい何です、先生」

「この異常気象は、雪のせいたちの魔法試験の結果だそうだ」

「……ああ、なるほど。冬にやっては無事できたかわかりませんものね。……先に一言欲しかったですけどね」

「とりあえず、次は吹雪の試験だそうだから、気を付けて早く帰るように。いいな」

「了承しました、先生。皆。アイス食べたらすぐに帰るよ」


 アランの言葉に頷く皆は、アイスに夢中で声さえあげなかった。

 んだけど……。


「お腹痛い……アイス食べた後に冷える外に出るのつらいよぉ」

「頑張ってリリアナ、君の家を最初に行くから」


 腹痛に苦しむ羽目になるとは、誰も思ってなかったのだった。



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