そうだ、演劇をしよう
近くの国で災害があった。
学校でも、募金を集めようと話が生徒会に来ている。
もちろんすでに募金は開始しているのだけれど、ただの募金じゃそう簡単にお金は集まらない。なので、私達はうなりながら案を探していた。
お菓子を食べる余裕もないまま、いろんなアイデアをボードに書き出していく。
それでも、しょせんは学生である。できることは限られている。
「どうしようか……」
「そうだね、リリアナ……浮かばないなあ」
「アランやバイオレット先輩とのツーショットで、稼ごう!」
「リリアナ、それじゃそこまでもうからないと思うよ」
「そうかな? 結構いけると思うけど……」
だって、みんな大人気だし。特にアランは学校外の人もよべるろう。
握手会とかもしたら、相当行けると思う。
「でも、それだけじゃしょぼいだろ」
「エディ……」
「もっと、お金を払いたくなるようなことをしなきゃだと思うぜ」
「アランの研究した薬とかは?」
「それじゃ利益は少なすぎると思うぜ。薬や機械を作るには時間もお金もかかる。だろ? アラン兄さん」
「そうだね、エディの言う通りだよ。それに一般市民にあまり薬を使わせたくないんだ。危険だからね」
まあ、何に使われるかわからないからね。
アランの薬は強力だから。一方メルは絵本を読んでいる。
「何読んでるの、メル」
覗き込みながら、私はメルに尋ねる。
「王子様とお姫様の絵本」
「へぇ、楽しい」
「本当は劇で見たいかなぁ。絵本は読み飽きちゃった」
メルが不満そうにつぶやく。
そこで私はひらめいた。
「劇をすればいいじゃない? それなら、入場料で稼げるし」
「いいね、リリアナ。ナイスアイデアだよ」
「わたしもアラン王子と同意見だね。とても素敵だと思うよ」
よかった。これで無事募金が集まるといいんだけど……。
そしてメルは絵本を差し出す。
「これにしよう!」
「メルの読んでる絵本でいいね、題材は。キャラも少ないし」
「わあいわあい。ボクが王子様ね!」
「お姫様はレイラね」
「えっ、リリアナ様ですよっ」
「レイラよ」
お姫様って言えば、レイラに決まってるじゃない。
きれいなドレスを着て、王子様に大切にされるのは、正ヒロインの役目よ。
私になんかふさわしくないわ。
「とにかく、みんな王子様は僕だよ。なんたってリアル王子様なんだから」
「それはずるいんじゃないかい? たまには王子役をわたし達にゆずってもいいんじゃないかな?」
「オレは……別に。やってみたいとは思うけど」
「ボクだって王子様が似合うもんっ、かわいいかわいい王子様だよっ」
あれ? みんな王子希望?
「お姫様はリリアナで決定だよね? 皆」
「アラン王子に同意」
「オレも」
「ボクも」
「わたくしも」
まさかの全員一致!?
なんで私がお姫様なの?
首をかしげると、皆がにらみ合ってることに気が付く。
「絶対僕は譲らないからね。王子様はこの僕だ」
「たまにはオレも……いや、なんでもないっ」
「ボク絶対王子様!」
「わたしもやりたいです」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ……」
レイラがあたふたしている。
「王子様ってセリフ多いよ? いいの?」
私はのんびり尋ねた。
王子様の格好ぐらいなら、写真館でできるのにね。
わざわざ演劇するほど、魅力的かなあ。
「リリアナの隣にいるのは僕と決まってる!」
「きまってないよ、アラン王子」
「いーや、決まってる」
「この中の男子で魔法が使えるのほわたし。一番対等なんじゃないかい?」
「魔法なんか関係ないですよ!」
とうとうケンカが始まった。
私とレイラは何もできずに傍観するしかない。
「皆大人げないなあ。たまには子供に譲ってよ」
「リリアナを幼児趣味にするつもり? メル君」
「はあ!? アランお兄ちゃんひどい! 僕は幼児なんかじゃないよ!? 美少年だよ!」
「……こういうのはくじ引きとかが一番だと思うんだけど」
「エディは黙ってて」
いや、一番まともな意見言ってると思うけど!?
「…………」
エディはあきらめたように無言になった。
「よしっ、決闘しようか」
アランがバカな事を言い出した。どんだけ血の気が多いの。
「いったい何で戦うのかな? アラン王子は。魔法も使えないのに」
「武術だって、剣技だって、ボクは抜きんでてますよ、バイオレット先輩。ああ、そうだ、水泳勝負はどうですか?」
「……っ」
「ボクも決闘するー!」
「はあ……どうすんだよこの状況」
エディがため息をついた。気持ちはすごくわかるよ。
生徒会室の書類が皆のバタバタで散らかってるし……拾い集めてもきりがないよ。
私は眉間しわを寄せてみんなを見た。本当、バカみたい。
「ちょっと、皆いい加減にして」
「だって、リリアナ。僕が王子様で当たり前なのに」
「わたしですよっ」
「だーかーらー、ボクだってば」
「うるさいっ。私お姫様降りるっ、レイラ。お願いっ」
「えっ、わたくしですかっ」
こんなお子様な騒動に参加するの、嫌になってきた。
だから。
「私が王子様やる」
「えっ女の子同士で!? リリアナ、落ち着いて、キスシーンもあるんだよ」
「レイラの王子の取り合いもまたするんでしょ。それなら、そのほうがいいわよね。ね? レイラ」
「そうですね、そのほうが平和ではありますね……」
あれ? レイラなんかあまり乗り気じゃない?
お姫様が嫌なのかなあ?
皆は不服そうに私を見つめている。
「よしっ、決まりっ。あとは残りの役を決めよう。残りの役は……え? 嘘でしょ?」
そこで私は気が付いた。皆が必死で王子を取り合ってたのは、王子をやりたいからでもあるけれど、残りの役をやりたくなかったからだということに。
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劇当日。客入りは上々。
皆で宣伝した甲斐はある。終わったらサイン会握手会もするって言ったら、なおにお客さんが集まった。
「楽しみだねぇ」
「リリアナ様はご機嫌ですね」
「男装結構ハマるかも。楽しい」
胸のない私は、いい感じに男装がよく似合う。
前も思ったけど、やっぱり結構イケてるよね?
ふふんと鼻を鳴らして、鏡でポーズをつける。
うんっ、ばっちり! 隣のレイラも超可憐!
キラキラした衣装をひらひらさせて私はくるくる踊る。
レイラの濃いピンクのパフスリーブののドレスも、とてもかわいい。
「ねぇ、この役やっぱいやなんだけどっ」
「まあまあ、メル、落ち着けよ」
「エディお兄ちゃんは一番ましな格好だもんね! いいよねっ」
「そんな事言われても」
「僕もう、嫌だ……」
「募金のためだよ、アラン王子。割り切って」
「……どれだけ女装すれば気が済むの……しかも水着とか。政令は水着じゃなきゃ再現できないからって……羽まで付けて頭にでかいリボンつけて」
そう、残りのキャラは皆露出度の高い女の子の精霊の役だったのだ。
エディだけかろうじてパンツスタイルのリーダー役だ。
無理もない、ひとりだけケンカに参戦してなかったのだから、そうもなる。
「もう、帰りたい……」
アランが泣きそうな声でつぶやく。
私は思わず苦笑い。
「さあ、開演だよっ」
叫ぶ私。
「はいっ」
元気よく返事をしたのはレイラだけだった。
結局、私達の王子や姫よりも、四人の露出の激しい女装は、盗撮されるぐらい人気があったらしい。




